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極上の闇鍋~立川流のあたらしい会 新・2~2018年9月2日

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全員ウケてるでしょ。腹立ってくるんですよ。

 

優しい志らの兄さん。僕の出番の前にね、こんなことを言ってくれましたよ 。思いっきり滑って来いって。いい兄さんだなぁ。

会場はお江戸日本橋亭。雨が降って蒸し暑い中、大勢の人だかり。志ら乃師匠が出てきたり、整列を促すお姉さんが綺麗だったりで、入る前から胸が高鳴る。

中に入ると黒山の人だかり。また異様な雰囲気である。特に女性が多かった。常連の年配の方々が多い落語会と比べると、どちらかと言えばふわふわとした雰囲気。とりあえずは前座の噺を聞いて客席の様子を伺おうと思い、私は志ら乃師匠のブログを見つつ、出番の順序を確認する。

 

開口一番は立川談笑師匠門下、立川談洲。名前の由来であるダンスが躍れるというのを上半身だけで披露する。キレは良いがいまいち伝わりにくい。が、会場がウケている。お、このボケでこの笑いの量なのか、と思いつつ演目は『つる』。どことなく玉山鉄二を彷彿とさせるイケメンが、裃の振り分けをリズム良く演じている。立川一門って単なる古典であっても本当に上手にやるというか、個性を古典に上乗せさせてくる印象がある。ダンスのキレの良さも相まって、落語はリズミカルに進む。つるを説明できない感じが前座ながら十分な技量。おまけに客席も結構ウケている。今日の客席は温かいお客さんが多いのかも知れないと感じつつ、聞き慣れた話なのに面白い談洲さんの『つる』が終了。談笑師匠の一門は精鋭揃いと言った感じ。

 

お次は山口勝平さん。芸名はのノ乃家ぺぺぺぇ。声優さんで、名探偵コナンの工藤新一や、犬夜叉の声を担当しているという。聴いてみればどこかで聞いたことがある声。演目は『狸札』。タヌキの演じ方が上手い。何より声の使い分けが声優らしくて上手い。声色だけで人物を描き分けてきた声優だからこそ成せる技だと思う。会場も結構ウケていた。声優さんが落語をやっても結構な笑いを取ることが出来る会場なのだな、と感じる。

 

三番手は春風亭昇々。間がゆっくりで眠たくなる。演目は新作の『先生と生徒』。登場人物がとにかく過剰にデフォルメされていて、自分の好きな感じじゃないなぁ。と思いながら聞く。会場はゆっくりとしたテンポでボケの度に爆笑が沸き起こる。印象としては間とキャラが気持ち悪く、私はあまり受け付けなかった。正し、彼の『待ちわびて』は名作だと思う。

 

四番手はラバーガール。ここで初の漫才。何度かテレビで見たことがあった。秀才メガネ風の飛永さんとオタク風おかっぱの大水さん。お囃子はGRAPEVINEの『RUBBERGIRL』という粋な演出。二本ネタをやって、二つともかなりの爆笑。会場が非常に温まっていた。リクエストされたネタをすぐ出来るのは凄いと思う。さすがプロの漫才師。綺麗に笑いをさらっていったけれど、生粋の落語マニアであろう年配の方はくすりともしていなかった。

仲入り前は台所おさん師匠。寄席で何度か拝見したときは、滑舌も良くないし、ネタも面白く無いし、なんでこの人が真打なんだろうか、と一瞬疑うくらいの印象だったのだが、この日は激変。かなり気合が入っている感じだったし、定番の小噺もバンバン受けていた。何よりも裃の振り分け、間、テンポが気持ちがいい。うおー、これが寄席では見せない本気だったのか!と思いつつ、演目は『松曳き』。それまでの台所おさん師匠への評価が一変で覆るほどの素晴らしい出来。会場もどかんどかん受けていたし、滑らかに滑るような心地よいテンポで話が進む。凄いな、台所おさん師匠。終わって欲しくないなぁ。と思いつつ、オチに辿り着いて大喝采。御見それいたしました。

 

仲入り後は玉川太福/玉川みね子師匠で『石松三十石船』。渋谷らくごで見たロング・バージョンの丁寧な解説があってからの『石松三十石船』が今のところ私が感じるベスト。今回はショート・バージョン。テンポは良いし、聞かせどころもあるけれど、やっぱり『たっぷり!』で聞きたいお話。

 

お次はキュウ。初見。ゆっくりとした間でシュークリームとかエクレアとかになりたい人のお話。会場はかなりウケていたのだけれど、正直、その世界観に全く共感することが出来ず、ただ沈黙。女性に比較的ウケていた印象。こういう話にウケる人が存在しているということが、新たな発見だった。

 

トリ前はらく兵さん。佇まいからして異様な雰囲気。面白いことをやってくれそうな雰囲気をびんびん感じる。頭の形、顔の造詣も面白い。マクラ曰く、旧日本兵に顔が似ているという。確かに、と思う説得力がある。喋り方と表情に談志イズムを感じる。やっぱり立川流なんだなぁ、という印象。演目の『金明竹』は上方の人が最初に来るバージョン。お、この段階で上方の人が出てくるのか、どうやって残りの時間を埋めるのだろうと思っていると、随所にアレンジがされていて、おまけにそこがとにかく爆笑。会場が渦に巻かれたようにとにかくウケていた。出番前に志ら乃師匠に「思いっきり滑って来い!」と言われた割には、これまでで一番ウケていた。凄い面白い人がいたんだなぁ。と呆気に取られていると、意外にもオチは型通り。上方の尋ね人の演じ方、女将さんの聞き間違え方がおかしくって、ちょっと追いたい落語家に決定する。これと言ってフラが強烈とか、間が強烈に面白いという訳ではなく、立川流のメロディアスな口調の中に、ふっと背中を押されるような笑いがあるというか、まさしく『くすぐり』と呼べるようなおかしみがあって、真打になってもおかしくない技量であると思う。志らく門下かと思いきや、なんと破門されているとのこと。立川の亭号も名乗れないという。実に勿体ないけれど、きっといつかは立派な真打になる。

 

トリは志ら乃師匠。正直、ここまでの演者が全員どっかんどっかんウケていたので、かなりのプレッシャーがあった筈である。かなりの熱演でなければ会場の熱気を受け止めることは出来なかったと思うし、そういう意味では志ら乃師匠自身が自らの首を絞めた会になったと思う。正直に言えば、志ら乃師匠の演目『死神』は会場のそれまでの熱気を別次元に移動させられるほどの物ではなかったと感じた。じっと聴いていると、死神が枕元にいると助からない、足元にいると助かるという大事な話をせず、呪文のところに力を入れすぎていた。死神という話を知っている方ならば、飛ばしても問題の無い個所ではあるが、枕元の話を出した時の会場の『きょとん』とした空気が恐ろしいほど伝わって来たし、志ら乃師匠もあっさりと逃げるようにその辺りの話を流して、死神が蝋燭のある世界へ連れて行く話に繋げた。ちょっと白けたなぁ、と思いつつ最後まで聞く。オチもあまり恐怖を感じない。粗忽長屋の「お前だよ!」にあった狂気みたいなものが薄れていて、全体的にまとまりのない『死神』だった。でも、仕方がないと思う。あれだけの爆笑を取ったらく兵さんの後はやりにくくて仕方がないと思うし、仲入り前の台所おさん師匠だって神がかった迫力だったし。その上で志ら乃師匠が担った重圧は計り知れなかった。そういう意味でこの会は普通の寄席とは違う、全く別のプレッシャーがトリにかかっていたと思う。これがらく兵さんの後に粋曲とか奇術とか入っていたら、また一旦リセットした気持ちで迎えたのではないかと思う。寄席のシステムって案外上手くできてるんだなぁ。という印象。

 

総括すると、本当に凄い会だった。色んなものがごっちゃまぜになって、志ら乃師匠が選んだ好きな人達による、何を出すか分からない闇鍋のような会になっていた。トータルすれば素晴らしいと思えるし、最後のカタルシスを期待するだけ無駄なのだが、らく兵さんという嬉しい発見、台所おさん師匠の本気を見れたという発見もあって、私にとってはかなり有意義な会だった。

またこういう機会があったら是非行きたいのだが、お目当てはトリじゃないかなー。

 

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