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神田松之丞は如何にして観客に応えたか~10月7日 お江戸日本橋亭 朝練講談会~

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いつもは風通しがいいんです。こんなにお客さんが多いとね、息が詰まって苦しいですね。圧が凄いんですよ、圧が。

 

私は天邪鬼なんでね、短い話をやろうかなと思うんですけど。

 

やっすべぇ、やっすべぇ 

  天候は晴れて過ごしやすく、静かに穏やかな風が街を流れている。人はまばらで忙しなさはなく、朗らかで温かい連休の中日。日曜日は決まってお江戸日本橋亭で『朝練講談会』が午前9時30分から行われる。日本橋は高層ビルが立ち並び、ハイスタンダードな社会人が多いイメージがあり、下品な店も少なく、さながら日本の品格を感じさせる佇まいのある場所だと私は思っている。

 それほど人通りの無い路地にお江戸日本橋亭はある。故・桂歌丸師匠も訪れていた場所である。そこには開演一時間前だというのに、物凄い行列が出来ていた。

 先頭の方に尋ねると、朝の七時頃から並んでいるという。開演までの二時間半、ずっと待っているというのも殊勝なことだと思う。だが、それだけ並ぶに値する価値があると思っているから、これだけの人々が列を成すのだろう。Twitterなどを見ていても、朝練講談会に参加している方々が多くいることが分かる。きっと、そうした情報の発信者によって、演芸は盛り上がっていく。その一人として私も情報を私なりに発信していきたいと思う所存である。

 ざっと見回すと、やはり年配の方が多い。やや女性も多く、ちらほらと若い人がいらっしゃった。きっと末は講談師にでもなるのだろうかと、今から楽しみで仕方がない。恐らくは観客の中からも講談師になることを望む者も出てくるであろう。そんな時は背中を押してあげたい。

 日本橋亭の会場前に出てくる係員さんは見慣れている。愛嬌があって良い。言うと失礼かも知れないが少し舌が長いのも良い。講談の前の緩やかな時間が流れる。

 以前、松之丞さんの朝練講談会に出た時は、物凄いお客だった。これが売れるということか!と驚いていたのだが、幕が開いてびっくりした。舞台の左右にお客が座っているのである(笑)これは前代未聞だと仰天しながら『乳房榎』を鑑賞した経験がある。今日は、そんなことになったら嫌だなと思いつつ列に並ぶ。どうやら、一時のフィーバーは過ぎたと見えて、前回ほどの異常な行列にはなっていなかった。

 開場時刻になって入場して席に着く。靴からスリッパに履き替えて下足箱に靴を入れたとき、ふとお客の顔が気になった。神田松之丞という講談師に、心惹かれている人たちの顔は、どこか気迫を帯びているというか、期待でいっぱいなのである。落語家の会などに行くと、もっとのんびりした顔の人が多く、すっとぼけた顔の人が多いのだが、講談となるとキリリッとした顔の人が多いというのが、私の個人的な印象である。

 松之丞さんの会ではお馴染みのご常連の方もいらっしゃっていて、そういう常連の方々には常連のコミュニティがあるのだろうか、自然と仲良くなるのだろうか、私はそういったものには疎いから存じ上げないが、和気藹々としている様子である。ただ、一つ苦言を呈するとすれば、松之丞さん以外の方が出た時にも変な態度というか、不遜な態度だけは勘弁してもらいたいと思うのである。

 ファンであるから仕方が無いのかも知れないが、松之丞さんプラスの会となると、どうしても松之丞贔屓の方が目立ってしまう。あからさまにカサカサと音を立てる人、松之丞の出番が終わった途端に出て行く人。人それぞれの楽しみ方なのだから良いではないか!と思うかも知れないけれど、やはりそこはある程度の節度とマナーは持っていて欲しいなと思う。でも、好きな人に真っすぐな気持ちは嫌いじゃないです。

 

 さて、一番手は宝井梅湯(たからい うめゆ)さん。穏やかでふっくらとした体つきと、少し声色の高い講談師である。親しみやすい滑稽話もさることながら、赤穂浪士の話もしみじみと語る講談師だ。恐らく松之丞によって出来上がった講談師のイメージからは少し外れる、優しい感じの語り口である。世のイメージというのは恐ろしいもので、松之丞さんに触れた方々の多くが講談とは全て松之丞の感じ、と思いがちである。ここからの脱却は難しいし、殆ど不可能に近い。最初に出会ってしまったもののインパクトが強すぎて、そのインパクトが基準になる。すると、他の講談師を見た時はついつい「松之丞さんと比べて声のバリエーションが少ない」とか「松之丞さんと比べて間が早い」とか、何かと「松之丞さんと比べて〇〇」となりがちである。かくいう私も最初は「文菊師匠と比べてテンポが速い」とか、「文菊師匠と比べて声に抑揚が無い」などと言っていた時期もあった。だから、これは仕方の無いことである。

 幸いなことに私は初講談は神田阿久鯉先生だった。あの美しい目元と口元、そこから放たれる勇ましい言葉の数々。もう見るたびにドキドキする色気。最高である。

 さて、話を梅湯さんに戻そう。演目は『出世浄瑠璃』。嘘が転じて幸運が舞い込むというような話で、これが実に面白い。おそらく松之丞ファンであろう私の隣の方々はくすりともしなかったが、可笑しみのある面白い話である。ただ聴いているとどうしても「松之丞さんがやったらどうなるんだろう」という邪念が沸き起こってきてしまうのだ。松之丞さんでない人に松之丞さんを期待するのはおかしな話である。こういう話もあるのだということで聞いた。やはり同じ講談という土俵に立つものが揃うと、演目は違えど比較されがちである。ここまで語っているが、殆ど松之丞さんが土台になって話が進んでいる。もっと講談経験を積まなければならないだろう。

 

 梅湯さんの後で神田松之丞さんが登場。もうお決まりの「待ってました!」をご常連の方々が発している。まだ一人しか出てないんだけど(笑)と苦笑しつつ松之丞さんを見る。黒の絽の着物を着て眼鏡を外す。会場の雰囲気がぐっと上がって期待感が高まる。マクラでは今日は一日、お江戸日本橋亭に居続けるという話。神田愛山先生では陰、三遊亭笑遊師匠では陽、と表現してから「三席もあるんですよ」と言う。「私は天邪鬼なんでね、皆さんたっぷりを期待しているでしょう。だから今日は短い話をやります」と言って会場の反応を見る。さらさらと笑いの度合いを見てから話題は赤穂浪士、安兵衛の話へと繋がって、『赤穂義士銘々傳 中山安兵衛~高田馬場駆けつけ・婿入り~』に入る。

 序盤の安兵衛のクズっぷりから、後半に駆け付けた後の人を斬り倒す場面。思わず凄すぎて笑いがこみ上げてしまいそうなほどの勢いで、松之丞は汗を噴き出して捲し立てた。時代劇でのチャンバラさながらの修羅場が繰り広げられた場面は圧巻である。言葉にするよりも体験が一番良い。まるでジェットコースターに乗せられたかのような激しい勢いでバッタバッタと人を斬っていく中山安兵衛。その勇ましさと復讐に燃える姿の後で、返り血を浴びて酒屋に入り、「水だ!」と言いつつ酒を飲んで小休止、安兵衛婿入りへと繋がる。この辺りの駆けつけの話もたっぷり味わいたいが、婿入りの話も穏やかながら笑いがあって面白い。人をばたばたと斬り倒した後の緩やかな会話の後で、コミカルに描かれる安兵衛の姿。そして訪ねてくる堀部家の人々。そこから浅野内匠頭まで繋がる場面のテンポが良い。特に松之丞さんは声色を使い分けているし、声の抑揚が実に上手い。他では決して見ることの出来ない鮮やかな声の緩急。これは一度聞いてしまったら呪いのように抜け出すことはできない、と言うほどに魔力を秘めていると私は思う。

 赤穂義士銘々傳は他に『神崎の詫び証文』、『赤垣源蔵 徳利の別れ』などを聞いたことがあったが、『安兵衛駆けつけ』、『安兵衛婿入り』と、痛快な講談を初めて聞いた。初心者が聞いても「ああ、講談っておもしれぇ!」と思う一席だったと思う。なんとなんと長講で一時間近くやっていた。老齢の方には集中力を保たせるのが困難であったと思う。常連のおばあちゃんも少しお疲れ気味であった。私は遠くから見守っていたぜ、おばあちゃん。

 会が終わると、物販をやっていて松之丞さんの書籍、CDが売られていた。まだ買うまいと思いながら、その場を後にする。終演後、ご常連の方々も大満足だった様子で歓声をあげており、長く並んでいたお客の満足そうな表情が印象的だった。

 きっと、神田松之丞さんは天邪鬼でありながらも、きちんと客席の様子を考慮しているのだと思う。期待に応えようとされる精神が素敵であるし、何よりも自信を持ってやっているんだなぁという感じが高座から伝わってくる。どこか危なっかしいとか、頼りないとか、大丈夫か?とか、不安の要素を私は感じることが出来なかった。それだけ、自分の芸に誇りと信念を持っているのだと思う。だからこそ、テレビやラジオなどのメディアに出ても、しっかりと応えていけるのだと思う。

 余談だが、松之丞さんの手の動き、ちょっと立川談志に似てるように思う。私だけでしょうかね。

 さてさて、練習の場であるといいつつも、きっちりと熱い講談を披露した松之丞さん。短い話と言いつつも大ネタをたっぷり時間オーバーで語った松之丞さん。おめでたい話で花を添えた梅湯さん。本当に皆さん、梅湯さんのことを忘れて帰らないようにお願いしますよ(笑)

 そんなわけで、素敵な朝練講談会でございました。引き続きお楽しみの方が羨ましいです!私は別の会を楽しんできます。

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