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自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

大丈夫だ、しんぺぇねぇ!~2018年11月14日 古書くしゃまんべ 桂伸べえ独演会~

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今日も絶好調ですー

 

そりゃ良かったねぇ

 

雪舟って書いておいてください。

 

エボシボタンザクラでも見てこい

 

え、ちょっと何この人パワハラ・・・

 

頭痛が続いている。昨日の朝からずっとズキズキ痛んで、偏頭痛というやつで、立ち上がったりするとピキンッと突っ張るような痛みがある。眼精疲労か肩こりなのかは分からないが、ロキソニンを飲んでもそう簡単には治らない様子。偏頭痛が続くと気分も少し落ち込むのだが、今日はお待ちかねの会があったので行ってみた。

王子の駅から徒歩8分ほどの場所にそれはある。『古書くしゃまんべ』という名で、店先の佇まいが何とも言えない良い雰囲気。照明も温かくて、なんだか秘密基地みたいな場所なのだ。もっともっと社会が豊かになったら、こんなところで芸談を語り合うような人々が出てくるのかも知れない。今、そんな芸談を語り合う場がどこにあるのだろう。私はそんな場所に行ってみたいのだが、なかなか情報が集まって来ないので寂しい。

王子という街は王子駅前交差点を過ぎた辺りの公園が少し賑やかで、その先へと進むとお洒落な飲み屋さんや、美容室などがある。何か特別の魅力があるのかなぁと思ったのだが、あまり発見することは出来なかった。しいて言えば公園の雰囲気が良いとか、王子という名前の響きがいいなぁと思った。そんな夜の公園がこちら。

 

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『古書くしゃまんべ』の店内に入ると、オレンジ色の半被を着た金子ざんさんがいらっしゃった。Facebookではお馴染みの『ざんぱら企画』の主催者さんで、素敵な紳士である。直接お話するのは恥ずかしかったので、そそくさと席に着く。ざんさんは見た目からしてとても可愛らしくて、人の良さが滲み出ている素敵な方である。何せ伸べえさんの独演会を企画するほどだから、悪い人な筈がない。伸べえ好きに悪い人無し、である。

店内の様子。これもまた素敵である。ちらっと周りの方の話を聞いてうろ覚えなのだが、創業48年のお店で、カフェスタイルになったのは7年前らしい(正直あまり覚えていないので、正確ではない)。

写真をご覧になって頂けると分かると思うが、棚に演芸・サーカス・大道芸関連の書籍が並べられている。私が中学生の頃に人にウケたくて買った『ウケる技術』という本が並べられていて、なんだか家の本棚を見ているようで嬉しくなった。

と同時に、私は不思議な感覚に襲われた。来たるべくしてこの場に来たんだなぁという気持ちになったのだ。懐かしさと人間の魅力が壁に染み込んでいるかのような、とても居心地の良い空間で、私は辛口のジンジャーエールを飲みながら、家にいるような気分になったのだった。

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居心地の良い空間で聴く落語もまた一つ、思い出に残るだろうと思いつつ開演時刻を待つ。穏やかで温かい空気と匂いに包まれて、とても落ち着く。朝からずっと続いていた偏頭痛もすっかり鳴りを潜めた様子で、開場に集まったざっと10~12名の間に優しい空気が流れ込んだ。

出囃子が鳴ってお目当ての登場。

 

桂伸べえ『熊の皮』

エピソードトークは飛行機話。するりと演目に入って優しい夫婦の会話で幕開きの『熊の皮』。なぜか凄いほっこりするのは、伸べえさんの口調のせいか、単に私の涙腺が緩いのか。お互いを思いやっているかのような、決して夫婦の差がはっきりとはしていない感じの会話がとても好きである。前回聞いたときと変わらず、優しいメロディを聞いているようで温かい気持ちになる。夫に色々とお願い事をする奥さんの姿がとても優しくって、ああ、いいなぁ。素敵な夫婦だなぁと思う。特に「そりゃよかったねぇ」とどこのタイミングでのセリフだったか忘れたが、その間とトーンに思わずうるっときた。不思議なもんですねぇ、空間がそうさせるんでしょうかね。

赤飯のお礼を言いに行くくだりや、医者のお使いさんが「せんせー、甚兵衛さん、今日も絶好調ですー」というくだりが面白い。何だろう、滑稽噺なのに人情味があるというか、登場人物の誰もがお互いにお互いを心得ている感じ。これって、普通の人には出せない空気感だよなぁ。と思うし、他の人で聞いた時には絶対に感じられない優しい空気感を伸べえさんは醸し出している。どんどん伸べえさんの魅力が滲み出てくる、奥の深い一席。

 

桂伸べえ『だくだく』

ちりとてちんでの失敗マクラから、泥棒の話をと言ったとき、思わず私は「おや、夏泥か何かかな?」と思ったが、なんとまさかの『だくだく』。これが伸べえさん、よくぞその話を習った!そして習得した!と思えるほどの会心の一席。『だくだく』の筋は他に任せるとして、冒頭から伸べえさんが実に楽しそうに語っていく。詳細はお楽しみにしてほしいので敢えて書かないが、もう伸べえ印のパワーワード連発の爆笑の一席である。聴いた後に仲入りだったのだが、これが凄すぎて大爆笑だった。

是非聞いた時のお楽しみにしてほしいのは、壁一面に白い紙を貼った男の部屋を見て画家にある発言をする。これがもう、凄いパワーワードである。

余談であるが、Twitterで私はナホシツさんという方のツイートを見た。落語家を画家で例えると誰かという話題である。面白かったのでここに記すが、私としては文菊師匠は雪舟春風亭一之輔師匠は白隠、鯉八さんはミロコマチコ、松之丞さんはドラクロワ、笑遊師匠は岡本太郎という印象を抱いている。

そんな画家繋がりで、まさか伸べえさんから『だくだく』を聞くことになろうとは思わなかった。特に画家と男のやりとりが楽しくて、聞いているこっちもウキウキしてくる。どんな後半になるのだろうかと思いきや、意外とあっさりと「つもり」の話をして終了。個人的には泥棒と男の「つもり部分の応酬」もたっぷり聴きたい!と贅沢にも思ってしまった。いずれにせよ、伸べえさんのオリジナリティが随所に発揮された素晴らしい『だくだく』だった。

こういう滑稽噺は真打の師匠でさえ難儀するであろうと思う。ある程度齢を重ねて風格が出てくると、滑稽さに影響を及ぼして、滑稽に見えなくなってしまう部分がある。与太郎を地で行く笑遊師匠の天衣無縫さとか、伸べえさんの滲み出るフラは滑稽噺に実に適していると私は思っていて、『つる』のような演目を是非とも伸べえさんで聞いてみたいと思っている。

とんでもなくウキウキで楽しくて、色んなくすぐりの入った『だくだく』が終わって仲入り。

仲入りで私くらいの歳の方が「やばくね?あの間が凄くね?」「ていうかさ、あのほら、~~ってどういう意味?」「あ、あれね。あれ面白いよな。~~はこういう意味があってさ」という、伸べえさんのパワーワードを語り合うお客様がいて、私はめちゃくちゃ嬉しくなった。そうそう、そういうのを考えるのも伸べえさんの魅力だよね。と一人心の中で思っていたので、ここでひっそり公開しておく。

 

桂伸べえ『宿屋の仇討ち』

これぞ桂伸べえという『だくだく』の後で、もはや私の中では思い出の一席『宿屋の仇討ち』。場の空気が正に芸を作って、穏やかで温かい『宿屋の仇討ち』になった。連雀亭で聞いた時のパワーワード「なんでこういうときは早いのー」が、今回は案外さらりと伊八の口から漏れていて、あの時は狙った間とトーンじゃなかったのかと驚いた。連雀亭での絶妙の間に比べるとテンポが少し早い気もしたが、侍の拍手はしっかり鳴っているし(ここ、深夜寄席での思い出があるだけに、ついつい笑ってしまう)、声も侍っぽくなっていて、深夜寄席で見た頃とは比べ物にならないほど上手い。マクラも上手くなってるし、話もどんどんうまくなっているし、もはや子供の成長を見守る母親くらいの気持ちで鑑賞しているのだが、見るたび上手くなっているのが分かるし、丁寧さを心がけているところも凄い。この『宿屋の仇討ち』も、私にとってはどんどん伸べえさんの魅力を知れる素敵な一席である。

 

総括すると、『古書くしゃまんべ』で見る伸べえさんの落語。また一味違った雰囲気が加味されていて最高です。また、お初の『だくだく』。これはいずれ寄席のトリで大勢の大爆笑をかっさらう、その一端を垣間見た素晴らしい一席でした。もう伸べえさんの記事は絶賛しかありません。とにかく凄いです。

これからどんな風に『だくだく』が変わっていくのか、そして、次はどんなネタを覚えて見せてくれるのか。とても楽しみでならない。

久しぶりの伸べえさん。やっぱり大満足。昨日の若干消化不良の遊雀スペシャルに比べれば、もう大満足の会でした。

今回の会を企画してくれたざんぱら企画さん、金子ざんさん。そして古書くしゃまんべの方々に深くお礼を申し上げます。シャイなのであまりお話することが出来ずに申し訳ありません。

さてさて、こっそり次回予告ですが、おっと、止めておきましょう。もう既に私に気づいた方はひっそりと遠くの火事を眺める気持ちでいてください。まだ気づいていない方は、この人かな?と想像しつつ演芸に触れてください。

素敵な平日の夜。私は最初から伸べえさんをしんぺぇなんかしてません(笑)最高の会。次も行きたい!

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