落語・講談・浪曲 日本演芸なんでもござれ

自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

まもなく!正月初席 演芸初めは今しかない!~新宿末廣亭編~2018年12月17日

f:id:tomutomukun:20181217000822j:plain

千里の道も一歩から

 

大いなる助走 

 

演芸は縁芸だ。この世界でただ一人ぼっちだと考えている人に向かって「止せやい」と言う場の寄席で、人は芸人と芸と縁を結ぶ。自分は一人では無かったと気づかせてくれる芸人に出会って、あなたはあなた自身も気づかなかった扉を開く。誰にでも必ず縁を結ぶ芸人が現れて、今までは考えもしなかったことをあなたは知ることになる。

寄席にいると、案外周りの人の声というのは耳に入ってくるもので、「大阪から来ました」、「長野から来ました」、「北海道から」、「鹿児島から」、あらゆる場所から人々が寄席にやってきているのだと知る。そして、一つの場所で笑ったり泣いたり寝たりする。もしかすると、あなたの隣に座って笑う客人は、どこかで出会ったことのある人なのかも知れない。もしくは、遠い昔にどこかで会釈をしてすれ違った古い友人なのかも知れない。あるいは、これから遠い未来で結ばれることになる運命の人なのかも知れない。寄り合って席に座り、高座の芸人を見ながら、私は寄席という空間に染み込んだ、人々の感情を想像する。笑い声に振動した寄席の建物。笑い声を浴びた芸人。その場には、人間という存在の感情の波が、時に大きなうねりを持って、時に小さくたゆたうように、寄せては返して美しく輝いている。

暮れの忙しなさを乗り越えて新年を迎えた朝に、私は寄席に行きたいと思う。それは独りぼっちの寂しさを紛らわせたいとか、賑やかな場所の空気を味わいたいということではなく、ただ寄席という場所にいて、顔も名も知れない人々と肩を寄せ合いながら舞台の上に着座する、芸人を見ていたい。ただそれだけの思いがあって、私は寄席に行きたい。

読者にとって、寄席がどんなものになるかは分からない。読者の中には既に寄席の楽しみを発見した人もいるだろう。この記事では、まず『新宿末廣亭』という寄席の正月の番組を紹介したい。私のオススメと合わせてお読みいただけると幸いである。

 

もしも最前列で落語家を見たいという方は、開演時刻午前11時の2時間前に並ぶことで可能性はグッと高くなる。1時間前だと寄席の常連も集まって行列になる可能性がある。正月は特に大勢の人が集まり、テレビ中継等もあるため、普段の寄席とは違って賑やかさを味わうことが出来る。反対に、じっくり落語を聞きたいという人には向いていないように思う。とにかくたくさん芸人が出るので、時間の都合上マクラ(漫談のようなもの)だけになったり、「冗談いっちゃいけねぇ」と、演目を途中で切り上げることが多々ある。だから、正月の寄席は『顔見せ興行』とも呼ばれており、有名・無名を問わず大勢の演者が出演する。客人に求められるのは、自分に合う芸人は誰だろう?という審美眼である。もちろん、そんなもの持っていないよという人でも問題ない。何度か寄席に通っていれば、その内に面白さが分かってくることがあるのだ。

余談だが、私は友人を寄席に誘ったことがある。友人は「専門用語が多すぎて分からない」と幻滅した様子。さらには「森野君、全然知らないデスメタルバンドのライブに行きたいと思う?君が落語会に僕を誘うのは、それと同じことだよ」と言われてしまった。興味を持った時に行けば良いというのも、寄席である。お腹いっぱいの人にどれだけ美味しい料理を食べて貰おうと力説したところで、食べてもらえないことと同じように、人に演芸を進めることもまた、その人の興味に因るところがある。だからこそ最初は慎重にならねばならない。渋谷らくごが特にオススメではあるのだが、もっとどっぷり演芸を味わってもらうには、やはり寄席しかない。寄席の魅力を最初から駆け足で味わってもらうことが出来るのも、正月初席の魅力である。

 

新宿末廣亭 正月初席 第一部

新宿末廣亭、11時~14時30分の第一部の主任(最後に出る人)は、笑点の司会者でもお馴染みの独身貴族(褒めてます)、春風亭昇太師匠だ。落語芸術協会に所属する名実共に抜群の真打。お弟子さんの結婚がニュースになるという珍しい落語家さんである。新作・古典のどちらも力を入れており、『ストレスの海』、『親父の王国』、『鷺取り』、『二十四孝』など、爆笑系の落語家さんである。とにかくお客さんに楽しんで貰おうという松岡修造ばりの情熱があり、笑点ではあまり見ることの出来ない毒舌と、独身であることの開き直りマクラなども面白い。

五代目春風亭柳昇師匠の弟子である昇太師匠。プログラムではお弟子さんと同じく柳昇師匠門下の瀧川鯉昇師匠門下の落語家さんも出る。11時に交替出演する6人はイケメン揃い。特に瀧川鯉斗さんは来年5月に真打決定。今がチャンスですよ奥さん。俳優のような甘いマスクと絶品のウィスパーボイス、イケメンが映える『紙入れ』という演目を聴いたら、奥様も明日からフ・リ・ンの三文字に手を出してしまうかも知れません。

お次の交代出演の四人は春風亭小柳枝師匠門下、三笑亭可楽師匠門下、三笑亭夢丸師匠門下の方々。この辺りは渋めの層。

お次は相撲甚句の一矢さん。2018年の相撲に関する時事ネタが聴けるかもしれません。一緒に「どすこい、どすこい」言うのも一興。ヴァイオリン漫談のマグナム小林さんは、是非とも「おぎゃー」と拍手をして頂きたい。

お次は芸術協会の講談枠。オススメはド迫力の江戸っ気のある神田鯉栄先生。粋で溌溂とした声と、畳み掛けるような気持の良い張り扇のリズムで、爽快感間違いなし。私的な呼び名は『一人スカッとジャパン』

お次の交代出演も渋めの四人。オススメは瀧川鯉朝さん。落語界に纏わる小ネタを挟んだ演目が聞けるとラッキーかも知れません。

強烈婆さんキャラのD51とどう見ても中年の青年団。色物の方々は寄席で爆笑間違いなしの盛り上げ枠だと私は思っている。特に青年団の青木さんと服部さんの掛け合いは、服部さんのパッションと青木さんのクールさが激突して面白い。

お次は渋めの江戸落語枠。オススメはとん馬師匠。踊りも上手いし声も江戸前。江戸の気風を感じたい方に是非とも聞いて頂きたい。

古今亭寿輔師匠は、着物から何から全てを見て頂きたい。そして度肝を抜かれて頂きたい。恐らく寿輔師匠と立川談之助師匠くらいじゃないだろうか。ド派手なの(笑)

曲芸独楽の南玉さんは素朴に独楽の芸を披露されるだろう。ナオユキさんは見たことが無いので楽しみ。

三遊亭円遊師匠、三遊亭円輔師匠も渋めの落語枠。若い人にはとっつきにくいかも知れないが、昭和の頃の落語の空気感を感じることの出来る数少ない落語家さん。仲入り前の遊三師匠は素敵なお声を持っていて、子供に馬鹿受け間違いなし、必殺の落語ネタを持っているので、その演目に出会えたらラッキーです。

仲入り後の交代枠でオススメは三遊亭芝楽師匠。明るくて艶のある声と、後光が射してる感じ。ちょっと二丁目に来たかのような雰囲気があるかも知れませんが、その独特の世界に是非触れてほしい。

お次の雷門助六師匠と金遊師匠は渋すぎますねぇ。若い人でご存知の方はごくわずかだと思う。ここは『長短枠』と呼ぶべきか、優しいお声とお顔立ちの助六師匠と、ちょっと怖いけどハンサムな金遊師匠。どちらも長屋の隠居のような奥深い佇まい。

お次の京太・ゆめ子、 ひでや・やすこ、二組の漫才。京太さんはお馴染み「かあちゃ~ん」の声と独特のフラ。ここからは『フラ・ゾーン』である。ひでや・やすこのお二人は鉄板の「最高、最高」を是非ともやっていただきたい。

お次は中堅真打枠。オススメは春風亭柳好師匠。何とも言えない優しい感じと、最初に見た時に「あれ?変なおじさん?」と思った師匠。凄く優しそうで素朴な感じなのに、顔が濃いというギャップにやられてほしい。

お次は、個人的にめちゃくちゃオススメの交代出演枠。私のブログではお馴染みの三遊亭笑遊師匠。笑遊師匠はまさに『爆笑のレッド・ゾーン』に突入させてくれること間違いなし。是非とも爆音で豪快かつ爆笑の落語を体験してほしい。そして、強烈なフラで爆笑をかっさらう桂南なん師匠。この師匠も最高で、瀧川鯉八さんの独演会でもその強烈なフラを発揮する凄い師匠。見て味わえば笑える師匠だ。そして、この二人に比べると極太でありながらも独特の語り口で観客を巻き込む桂小南師匠。ダンディなオーラを放ちつつ、小南師匠独自の間とテンポで繰り広げられる極太の落語を是非体験してほしい。この枠、落語の深淵を教えてくれるヤバイゾーンです。

この激ヤバゾーンの後で待ち構えているのが、ご存知ナイツ、そして宮田陽・昇。ナイツは言わずもがなの人気で、ナイツ出演会は大勢のお客さんが押し寄せること間違いなし。テレビではお馴染みのネタも披露されるだろう。ナイツに比べれば若干知名度は落ちるかも知れないが、実力は申し分なしの宮田陽・昇の漫才も是非味わって頂きたい。余談だが、宮田昇さんは柳亭こみちさんの旦那様。

お次の瀧川鯉昇師匠と柳家蝠丸師匠。ここも見逃せない交替出演枠。鯉昇師匠は何と言っても瀧川鯉八さんの師匠であり、独特のフラの持ち主。知的でありながらも品格を感じさせる笑い。決してオーバーな演じ方をせず、あくまで自然体。私は良く普段着の鯉昇師匠を見かけることがある。一方、蝠丸師匠はか弱そうな体と声ですが、怪談噺や珍しい噺にも挑戦する実力派。この時間帯ではやらないが『死神』の工夫は絶品。

笑福亭鶴光師匠はお馴染みのバレ噺ではなく、意外ときっちり上方落語をされている印象。一部では唯一の上方落語家。どうしてもエッチな噺の落語家さんのイメージがあるが、そこはベテラン、きっちりと大ネタもやる。呼び方は「つるこ」、多くの方は「つるこう」と呼んでいるが、実は「つるこ」が正解である。

トリ前は東京ボーイズ。菅さんと仲さんの絶妙の音楽漫才。特に仲さんのボケの感じが面白い。歌も明るくて賑やか。芸術協会の色物の層は分厚い!

そして、トリはお馴染みの春風亭昇太師匠。とにかく演者がたくさん出るので、大ネタはやらないかも知れないが、新作派の空気感を纏った素敵な落語を見せてくれる筈である。ネタに入る前のマクラも、普段の笑点では聴くことの出来ない話を聞ける可能性が高い。

 

そんな訳で、ざっとご紹介の第一部。全部語っていたら、凄い数になっちゃうぞ!と思いますが、落語に初めて触れるという方は、この辺りで退散しても良いかも知れない。というのも、第一部終了後は入れ替え(2、3、4日のみ)があるためだ。普段は3000円で一日居続けることが出来るのだが、正月初席は特別にそういうシステムになっている。出来れば元日を狙っていくと比較的空いていると思われる。

もしも、もっと落語を知りたいという方は、是非とも二部から三部までお籠りして頂きたい。あくまでも私は落語初心者の方には一部だけをオススメする。笑点しか知らなかった人にとっては、とても収穫の多い番組だからだ。

 

新宿末廣亭 正月初席 第二部

さて、二部はグッと寄席好きに寄っている印象。オススメは桂伸治師匠と、仲入り前のお馴染み三遊亭小遊三師匠。この二人はお弟子さんもさることながら、実力とひそかな人気を兼ね備えた実力派である。

その他、講談好きにはたまらない神田松鯉先生や神田紅先生が登場。トリの桂竹丸師匠は新作派。円楽師匠も出るので、笑点好きには笑点メンバーの三人をコンプリートできるので、新宿末廣亭がオススメだ。

 

新宿末廣亭 正月初席 第三部

生粋の落語ファンになってくると、前半は『成金ロード』と呼んでもいいくらいの、未来を担う若手二つ目が並ぶ番組。説明するまでもないが、『成金』という落語芸術協会の実力派の二つ目が勢ぞろいする顔付けだ。オススメは春風亭柳若さん、桂宮治さん、神田松之丞さん。恐らく松之丞さんが出る会はとんでもないことになるであろうと思う。個人的には柳若さん→宮治さん→松之丞さんの流れで見てみたい。

時事ネタ集団のザ・ニュースペーパーは大人向け、雷門小助六師匠のスタンダードな落語、古今亭今輔師匠のクイズ、山上兄弟の「てじな~にゃ」を味わって、最後はド迫力の大音量で桂文治師匠を味わってフィニッシュして頂きたい。初心者には若干ハードルは高いかも知れないが、落語好きに今日にでもなりたい!という方には、是非とも『一日末廣亭』を実行して頂きたいと思う。

 

さてさて、そんなわけで語ってきました。『正月初席 新宿末廣亭編』。個人的には第一部を激推しします。ちょっと落語好きなら二部。生粋の落語好きなら三部と、それぞれに魅力があるので、是非是非、大いに悩んでください。

 

千里の道も一歩から、大いなる助走を付けて、是非寄席に行ってください!