落語・講談・浪曲 日本演芸なんでもござれ

自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

地下帝国の三段打ち~正月初席 池袋演芸場編~2018年12月22日

Should I stay or Should  I go

 

魔窟

 

三段打ち

 

正月初席の池袋演芸場を一言で表すとすれば、『長篠の戦い』ということになる。前記事の『新宿末廣亭編』では、一部が春風亭昇太師匠、二部が桂竹丸師匠、そして三部が桂文治師匠という、信長・秀吉・家康という三英傑が揃った布陣で、ホトトギスである客人達がもみくちゃにされて、「落語って面白い!」と笑う寄席であるのに対して、池袋演芸場は10日間昼夜入れ替えなしで破格の3000円。そして、第一部が三遊亭遊三師匠、二部が三遊亭小遊三師匠、三部が三笑亭茶楽師匠という、武田の軍勢もびっくりの『三段打ち』の構えで、客人達を「どうだ!これが落語の面白さじゃい!」と打ち続ける寄席であると私は思っている。

顔ぶれは新宿末廣亭と似通っているが、やはり順番の妙がある。

前半は若手二つ目交替枠で、オススメは一部トリの遊三師匠の五番弟子、三遊亭遊子さん。俳優のような整った顔立ちと、絶品の低音ボイス。明るく溌溂としていて、ご婦人ウケ抜群の落語家さんである。新宿末廣亭の瀧川鯉斗さんがイケメン特攻隊長だとすれば、ヤンチャな街のバイク好き感のある三遊亭遊子さん。オススメ演目は美しい声に冴え渡るメロディが絶品の『孝行糖』だ。聴けたらラッキーだろう。

お次は渋め枠だが、オススメは春風亭柳好師匠。特に他意は無いが、遊子さんから柳好師匠は、風邪を引くくらいの温度差が表情にあると勝手に思っている。元気溌溂な遊子さんから、優しい凪のような柳好師匠の落語へと移ると、ハワイの気分が味わえると思う(無責任)

次々と打ち込まれる弾丸の中で、やはり第一部は客を呼ぼうという構えなのか、ナイツや春風亭昇太師匠が配置されている。新宿末廣亭一部とは仲入りを境に逆の出演者が配列されている池袋演芸場は、昇太師匠やナイツ好きの方は比較的早い時間に楽しむことが出来る。この辺りの弾丸に撃ち抜かれて、どこまで居残りをするかは分からないが、二部の小遊三師匠まで笑点メンバーを集めたいのだとしたら、些か体力を消費してしまうだろう。昇太師匠やナイツを基準として、自分の体力と相談しながら寄席から離脱する時間を定めるのも一興である。

少し池袋演芸場の様子を記しておこう。新宿末廣亭に比べると趣や風情といったものは少なく(昔はあったようであるが)、地上で券を買ったら地下に降りて行かなければならない。この階段はご高齢な方には難所となるだろう。謎のトイレフロアを一度挟んでから、舞台のある地下へとたどり着くという構造になっている。

券を渡して右にある入り口から入ると、収容人数約90席の会場が待っている。椅子はそれほどフカフカではない。人が多い場合はパイプ椅子も出るが限りがあり、人気の興行では立ち見になってしまうことが多い。また、全体的に会場が明るいため高座の様子がはっきりと分かる。雰囲気としては公民館で落語を聞いているような、そんな気分になるのではないかと思う。

要するに、風情を味わいたい、古き良き日本家屋で演芸を楽しみたいという方には池袋演芸場よりも新宿末廣亭や上野鈴本演芸場を推す。単純に話題の落語家が見たくて、風情は気にしていないという方には池袋演芸場は最適な場所であるだろう。もしも時間とお金に余裕があり、各寄席の雰囲気を比較したいという方がいるのであれば、池袋演芸場新宿末廣亭のどちらにも足を運んで、両方の趣や風情を体感してもらえると、より私の言っていることが分かって頂けるのではないかと思う。もっとも、どこに風情を感じるかはその人次第である。自分の住まいと相談をして、最適な場所に足を運んで頂けたら幸いである。

仮に私の熱心なブログ購読者にオススメの落語家と言えば、桂伸べえさんである。百栄師匠ではないが、飼えるなら飼いたい(半分冗談)。第二部の仲入り後、クイツキという腕の良い演者が出演する位置で、交代出演枠に伸べえさんの名がある。私として面白いのは仲入り前の昔昔亭桃太郎師匠の後で、伸べえさんが出てくるという、奇跡のような順番であるということ。桃太郎師匠は寄席ではお馴染み『ルイジアナ・ママ』を歌って、舞台に大勢の落語家が登場してツイストを踊るということが多々ある。伸べえさんがツイストする姿も見てみたいなと思うが、仲入り後でどんな風に空気を作っていくのか、あの強烈なフラにたくさんの人が魅了されてくれたらいいな、と思うのである。

第三部では、新宿末廣亭と同様に『成金ロード』が用意されている。と言っても二人だけの出演であるが、松之丞さんの出番が終わった直後も見どころの一つかも知れない。正直、成金ロード以降は初心者には若干渋めの感は否めない。自分自身の演芸への熱意を考えながら、寄席を楽しんでいただきたいと思う。

 

総括すると、池袋演芸場はあまりオススメしない。入退場時の階段は足腰に自信の無いご高齢な紳士・婦人には辛いし、何だか魔窟に入っていくような感覚に襲われると思う。演者は申し分ないのだが、会場の構造的な問題をどこまで許容できるかが客人には求められてくると思う。翻って考えてみれば、足腰に自信の無い方々はあまり入ってこれない状態であるので、比較的、空いているのかも知れないが、そこは正月初席。混雑が予想される。舞台との距離はそれほど遠くはなく、二階席も無いのでどの位置に座っても、見えにくいということはあまり無いと思われる。あまり風情や座席位置にこだわりの無い方には、良いのかも知れない。

そんなわけで、池袋演芸場。私は行きませんが、是非是非皆様、お楽しみいただけると幸いでございます。