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この胸いっぱいの浪曲を~2018年12月23日 木馬亭大忘年会~


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Whole Lotta Rokyoku

 

草葉の陰から

 

遠路はるばる福岡の地から

 

 シャンシャンシャン ソンソンソン 

 

浪花節だよ人生は

  

文菊師匠への愛と琴調師匠の志を記事にしていたら、気づけば朝練講談会の時間を過ぎており、しまった!と思って後悔するも、本日の目当ては浪曲だから、しばらく力を蓄えようと思い立ち、身支度を整えて飯を食う。腹が減っては戦は出来ぬ。戦はしないけど。

今日はあちこちで様々な会があるようで、大成金であったり、円丈師匠の会であったり、志らく師匠の会、太福さんの会と様々である。昨日、文菊→貞橘→琴調と連続して演芸に触れたため、財布が冬空になってしまった。今日は大人しく浪曲だけにしようと決めこみ、僅かばかりの野口を引き連れて、いざ、木馬亭

私はTwitterフォロワーの勇姿を積極的に見に行くタイプの男である。前回はえっぐたると教授、そして今日はかおりさんを見たいと思ってやってきた。

小雨降る浅草の街へとたどり着き、木馬亭の前まで来ると既にちらほらと列が出来ていた。受付で券を購入して列に並ぶ。私以外、かなりお年を召した方々ばかりで、一瞬、「このアウェイ感は、初心者なら私以上に感じるよな・・・」と思う。かろうじて天中軒すみれさんが木戸の前に立っていてくれたおかげで、「あ、大丈夫だ。私だけじゃないんだ、若い人」という気持ちになる。お声だけだったが、すみれさんの声は芯があって良く通る声だと思い、是非とも浪曲を聞いてみたいと思った。

木戸の中はかなり豪華で、豊子師匠や花渡家ちとせさんや、三楽師匠までいらっしゃる。畏怖の念が強すぎて話しかけることが出来ず、緊張したまま入場。そして着座。ベストポジションでは無かったが好位置に着座することが出来た。

会場入りした途端に、溢れんばかりの浪曲愛がそこかしこで噴出していて、「うわぁ、こりゃ絶対良い会になるぞ」とワクワクしてきた。というのも、天狗連の皆様が舞台にかける思いが強い様子。顔馴染みやらご常連がたくさんいて、私のような新参者も「いいなぁ、混じりたいなぁ」と羨望の眼差しで見てしまうほど、活気があって賑々しい。

そうそう、この天狗連に登場する『かおりさん』こそ、今回のレポにしようと思っていた素敵な方である。

普段は、ツイッターで力士の高安関が好きであると呟いており、浪曲と高安を愛する女性だと何となく見受けられた。その方が、天狗連として舞台で一席唸るというので、これはえっぐたると教授に引き続き、舞台を見なければ!と思っていたのである。

まぁ、素人の浪曲だし、良い風に思わなかったら記事に書かなきゃ良いだけだ、と思っていたのだが、これが嬉しい大誤算。天狗連と侮ることなかれ、全員プロ級の実力者ばかり。いやー、驚きました。

それは後に語ることにして、浪曲愛に溢れた大忘年会。開口一番は最年少浪曲師のこの方。

 

国本はる乃/豊子『将軍の母』

蒼天を照らす太陽の如く、真っ赤に燃えた炎のような輝きを持つ浪曲師、国本はる乃。初めて見たのは木馬亭で、確か力士の話だったと思うのだが、とにかく力強さと目にも眩い赤いオーラが見える女性だ。今日は桃色に近いお着物で、演目は『将軍の母』。簡単に言うと、『不器量なお伝という女性が、ふとしたきっかけで出世する』というような話である。これがはる乃さんの節と、豊子師匠の三味線に導かれて、笑っていたと思ったら泣いているというような、素敵な演目である。

お伝という不器用な女性が子を授かった後までは、笑える個所も多く「コミカルな話かな?」と思うのだが、そこは浪曲、最後はきちんと涙を誘ってくる。

お伝の父親に右京という使いが「あんたのところの娘が身持ちだよ」というようなことを言うくだりからの、父親がお伝を見て「お前の心が清いからだよ」みたいなことを言う場面があって、その辺りで涙腺の緩い私はじんわり涙が出てしまう。不器量でも心が清ければ出世するのだということが、実に感動的な節で語られる。前半はお伝が可哀そうなくらい、周りの連中が「ブサイク」、「器量が悪い」、「変な畑に種を撒いた」みたいなことを言って腐すからこそ、お伝の父親の言葉が痛切に響いてきて、物語というのは良い奴ばかりが出てきても面白くなるもんじゃない。周りでブツブツ言う人もいて物語なんだなぁ。と思う。じんわり熱い涙で幕を閉じた一席。

 

浜乃一舟/ノリ子『煙草の吸殻』

前回、一舟師匠のことを『綺麗なE.T』に見えたと書いたことを全力で後悔するくらい、最高の師匠でした。出てくるなり「いっしゅうううう!」とか「たっぷりぃ!」とか会場からバンバン声が飛び、一節唸れば「名調子!」と声がかかる。前回は私の耳が未熟だったがために聞き取れなかった言葉が、今度はかなりはっきりと聞き取れるようになった。さらには一舟師匠の節と声。この凄みを今度ははっきりと認識することが出来た。もはや達人の中の達人の風格。浜乃一舟師匠の渾身の節で演目へ。

内容は簡単に言うと『煙草の吸殻を拾っていた子供を、樋口政五郎?という人が助け、その恩が二十年後に樋口に返ってくる』というような話で、さらに端的に言えば『情けは人の為ならず』の物語だ。

冒頭からグイグイ泣かせる展開で、子供が煙草の吸殻を拾っていた理由や、二十年後に樋口がとある事に巻き込まれ、とある人物に助けられたり、という展開なのだが、物語が進むにつれて節が胸に染みてきて、後半、「草葉の陰から~」の辺りで、堪えきれずに涙の堤防が決壊。ぶわぁあああっと目から涙が零れてしまった。ええ話や、ええ話やでぇ。とただただ感動していたら一席が終わった。

浜乃一舟師匠のお声が、凄く優しくて柔らかいのだ。その佇まいと風貌も相まって、全身から柔らかくて温かい印象を受ける。クリームに包み込まれてじんわり温まって行くような、とても心地の良い節と声。馬越ノリ子師匠の三味線も、その柔らかさを絶妙に導いていて、気持ちの良い涙が流れた。浪曲師と曲師には泣かされっぱなしである。良い節と物語を聞くと、胸が鐘になって棒で突かれたかのように、ジーン、ジーンと響いて涙が零れる。これは言葉ではっきりと説明できるものじゃない。間違いなく浪曲の情緒。浪情が私の胸を震わせていた。

 

港家小柳丸/貴美江『梶川屏風廻し』

やはり赤穂義士伝はかかせない。切腹の場で介錯人をしている人のような衣装で、舞台袖から登場してきた小柳丸師匠。NHKのアナウンサーのような折り目正しい佇まいとお声。衝立で隠れて見えないが、お美しい佐藤貴美江師匠の三味線に導かれて演目が始まった。

この話の内容を簡単に言えば『松の廊下で浅野内匠頭を取り押さえた梶川与惣兵衛が、曽我物語を引き合いに三人のお偉いさんに説教されて出家する」というような話で、旭堂南湖先生のTwitterを見ると、この時の屏風は『頼朝公富士の巻狩りの絵屏風』であるらしい。詳しくは下記URL

展示案内 鑑賞・学習型展示 かいじあむ おすすめの展示資料: 山梨県立博物館 -Yamanashi Prefectural Museum-

 

曾我兄弟の仇討ち - Wikipedia

どうやら日本三大仇討ちの一つであるらしい。あやふやな情報で恐縮なのだが、コデンタとコデンジ?という兄弟が、父の仇を討つために工藤様を討つという話で、これを引き合いに出されて梶川が、「浅野様を取り押さえた時、少しでも手を放しとけばよかった」という感じで後悔し、坊主になって出家し浅野内匠頭に詫びる。というようなところで物語が終わる。

小柳丸師匠の声と節は綺麗で整っていて、最初に抱いたアナウンサー感から抜け出さない、良い感じの聞き取りやすさと優しい感じだった。何と言っても切れ味鋭い三味線の音と、スパッと切り込むかのような発声で物語を導く貴美江師匠。姿は見えなくとも、その勇ましさは私の眼に焼き付いております。好きです。

 

大迫力の三席で仲入り。日本酒を頂きほろよい気分。次はいよいよお待ちかねの浪曲天狗道場。お待ちかねのかおりさんの登場。

 

かおり/豊子『寛永馬術:曲垣と度々平(関東節)』

幕が開くと舞台には左に国本晴美師匠(審査員)、右には沢村豊子師匠、そして中央には浪曲の台とテーブル掛け、そして港家小柳丸師匠。一曲唸るのかな!?と思いきや、そんなサプライズはなく、かおりさんの紹介。

遠路はるばる福岡の地から、東京は浅草木馬亭の舞台に上がるまで、かおりさんがどんな思いでここまでやってきたか。名人と呼ばれる豊子師匠の三味線に導かれ、浪曲を愛する大勢の観客に見守られて、少し緊張された様子でかおりさんが舞台袖から出てくる姿を見た時、色んなことが頭を駆け巡ってしまって、一人で感動してしまった。

人生に浪曲があるとき、人は心の拠り所を見つけるのだと私は思う。浪花節を愛し、浪曲を愛し、また、浪曲に救われ、浪曲に彩られた人生を持つ人は、たとえ地元から遠く離れた場所に来たとしても、自分と同じように浪曲愛する人達に迎え入れてもらうことが出来る。浪曲が繋いだ人との縁に、私はただただ微笑みとともに感動していた。

舞台袖から現れて、素敵な黒のお着物を身に纏い、キリリとした眼を持つ美しいお顔立ちで登場。かおりさんの目の前に広がっていたのは、浪曲を愛する者達の温かい表情だったに違いない。名は知れねども浪曲で一つになった会場で、かおりさんはどんなことを思ったのだろう。私がかおりさんの立場だったら、嬉しくて堪らないだろうと思った。

自分の好きな浪曲のネタを、自分の好きな曲師の三味線に導かれて、自分の声で、自分の節で、浪曲を愛する会場の人達に届けた。

私は言いたい。

 

 届いたよ!かおりさんの浪曲

 

恥ずかしながら声を出すことは出来なかったが、とても素晴らしい一席だった。晴美師匠の驚きの表情と、豊子師匠の嬉しそうな顔も忘れられない。「あの子、一回しか合わせてないのに、大したもんだよ!」というようなことを一席終わった後で仰られていて、物凄い温かい雰囲気が充満していて、私は「いいなぁ、あったけぇな」と湯船に入っているかのような心持ちになった。

僅か10分間だったけれど、全身全霊で声を出していたかおりさん。私だったら多分、舞台に上がっただけで泣いてしまうかも知れないが、それでも圧巻の節だった。かおりさんが、かおりさんの全てで、唸っていた。上手下手など関係無い。かおりさんがかおりさんらしく歌っていたことに意味があるのだ。後半は、ああ、もう終わっちゃうの!?ととても残念だった。

終わった後で会場からは「日本一!」というような掛け声が上がり、花束を渡す人もいた。遠く福岡からやってきたかおりさんは、舞台に立っていたあの瞬間、紛れもなく浪曲師だった。渾身の一席、感動致しました。ありがとうございます。

 

その後の方々も実に素晴らしいし、会場もとても温かくて、これまで体験した中では断トツで素晴らしいお客様の集まりだった。私のようなピヨピヨのピヨっ子でも、十分に楽しめるくらい素敵な天狗連道場だった。本当は全員紹介したいのだけれど、今回はかおりさん目当てだったので、かおりさんだけに触れておくことにする。

 

仲入り後は、浪曲師や曲師による余興。

 

港家小そめ/カンジ『ちんどん』

ちんどん屋さんを営む小そめさんと、サックスのカンジさん?の素敵なちんどん芸。見た目も艶やかで陽気なちんどん。サックスの音色も素敵で、民謡クルセイダーズが好きな私にとってはとても楽しいパフォーマンスだった。小そめさんはお綺麗。サックスのカンジさんはカッコ良かった。

 

東家恭太郎『かっぽれ/地球の上に朝が来た』

太福さんの会で、芸達者であることを存じあげていた恭太郎さん。会場もとにかく温かくて、素敵なかっぽれと歌が聞けた。恭太郎師匠には素敵な愛嬌がある。

 

澤雪絵さんの踊り、孝太郎さんのホーミー、片倉ゆきじさんの三味線、こう福さんのドジョウ掬い踊り、澤順子さんの歌。どれも素敵で温かくて面白い。私的に最高だったのはお次の師匠

 

佐藤貴美江師匠『シャンソン

真っ黒な衣装でボヘミアンな感じの貴美江師匠。大きな可愛らしい眼鏡。お姿を拝見させて頂いた瞬間、

 

胸がきゅきゅきゅきゅうぅうううう

 

っと苦しくなった。カワイイ。高座でのお姿のギャップに完全にノックアウトされた男が一人。色々な落語家さんや講談師、浪曲師を語るだけの語彙力が全て霧散し、ただ『カワイイ』という言葉しか残らなくなる。笑いを誘う小噺とか、会場を巻き込んでシャンソンを歌う姿とか、カワイイ、ただただカワイイ。

あのカワイイを表現できない。もどかしい。カワイイ。もどかしい。カワイイ。

なんなんですかね、貴美江師匠。カワイイんですよ。もう何もかもカワイイんですよ。こう書いている自分がめちゃくちゃ気持ち悪いことだけは自覚してるんですけどね。Barで二人っきりで「このシングルモルトはね・・・君のために」みたいな、めちゃくちゃキザな言葉で口説き落としたいくらいにカワイイ。ああ、駄目だ。記事を書いていて今まで一番気持ち悪い状態になっているかも知れない。直視できないカワイさ。ちょっと卑猥なギャグでさえ、ドキがムネムネしてしまうくらいの、ありったけの、渾身のカワイイを頂いて、感無量。これがアイドルにときめくという気持ちなのかと初めて思った。

 

伊丹秀敏師匠の歌も良かったんですが、貴美江師匠のカワイさに打ちひしがれ、放心状態だったがために、あまり覚えていない。

トリは澤孝子師匠で『桂春団治と踊り』。歌を聞いて「あれ?この声は京山幸枝若師匠!?」と思って後で調べたところ、そうだった。

改めて歌で聞くと、本当に良い声をしているなぁ。と思う。孝子師匠も素敵な踊りで見事に決まった。

最後に再び、浪曲協会の皆様が舞台に登場。貴美江師匠を直視することが出来ず、隣にいたどじょう掬い姿のこう福さんを見ながら、視界に貴美江師匠を入れるという形で、三本締めで終幕。

 

終わりに

総括すると、浪曲愛に溢れた人たちの素敵な会だった。浪曲プールみたいなもんだと思う。最高の浪曲を披露した師匠方、浪曲愛を全身で表現した天狗連の皆様、そして浪曲協会の方々の別の一面が見れて、ますます浪曲が好きになったし、貴美江師匠が好きになったし、かおりさんはお綺麗で力強かったし、大満足の忘年会だった。身を明かしていないので、特に話しかけられることもなく、足早に退散。どうにも恥ずかしくて話しかけたり、話しかけられたりすることが苦手である。出来ることならもっと立派になって顔写真が乗るくらいには有名になりたい、と思う。それも一体、いつになるやら(笑)

とにもかくにも、浪曲に色んな思いを乗せて、三味線の音色に導かれて、色んな人々の人生が、浪曲で一つになった素晴らしい会だった。いずれは、この会場から浪曲師や曲師も出てくるだろう。私は物書きとして、そこに寄り添えたらいいなぁ。と思う次第である(怒られたらすぐに引退するけど(笑))

素敵な三連休の中日。さてさて、明日はどうなることやら。

 

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