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自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

この人の古典を聴いた!~2019年1月5日 神田連雀亭~

 

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この人の面白さは、アインシュタイン相対性理論を越えてる。

 

投げられた球を受け止めた捕手が、そのまま地球7周半してバターになるくらい。

 

となりのトトロ冥王星のトトロになるくらい、遠い存在 。

 

言葉で表現できないことはない。

 

ぞなもしの友人

 

 

 なんだ!?

 この激ヤバな番組は!?

2019年1月5日の朝。アルキメデスは叫んだ。こんな番組で「エエノカ!」と。

Twitterの文字を見れば、『行くしかないよねっ☆』と、つのだ☆ひろが『ひろだのつ☆』になるくらい衝撃の、もはや意味を超越した最高の演者が並ぶツイートがある。呟き主は連雀亭だ。

「草原の道」から「海の道」までを含めて「シルクロード」と呼ぶように、「柳家小もん」から「立川寸志」までを含めて「ラクゴロード」と呼ぶような、最高の番組を発見し、ナイフとランプを鞄に詰め込まず、手帳と携帯を入れて家を出た。

前半にワンコイン寄席で天歌さん、喜太郎さん、橋蔵さんを聴き、至福の喜びと頬骨の痛み十三を感じながら、待ち合わせをしていた友人と電気街をぶらぶら。

友「ふふ、森野氏。今日は我輩のPC魔改造計画にようこそぞなもし。ぴっかぴかの空冷ファンと、華厳の滝もびっくりの水冷装置を見せてやるぞなぁ!」

森野「お、おう・・・・・・」

友人に誘われるまま『なんたら商店』やら『かんとか電気』という店に入り、パソコンに取り付ける装置を説明される。

友「ぶふふ、森野氏。これはオーラシンクというぞなもしよ」

森野「オーラツー?ステインクリア?」

友「そんなに真っ白くないぞな。レインボーぞなもし」

森野「オールステンレス製シンク?」

友「違うぞな!オーラシンク!」

森野「神田真紅?」

友「どこぞな!??これぞな!」

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森野「エイリアンの内臓みたいだね」

友「超カッケェぞな。マジヤベェぞな」

森野「語彙と語尾・・・」

連れまわされるがまま一時間。私には分からない謎のPCパーツの説明をひとしきりして頂いた後で、神田連雀亭に行くことになった。

森野「よし、じゃあ連雀亭行こうか」

友「はっ!?待つぞな。どこぞな!?」

森野「いいから、いいから」

半ば強引に友人を引っ張り、連雀亭の前に到着。

 

続・ぞなもしの友人

友「落語は言葉が分かんないぞなもし。専門用語が多すぎぞな」

森野「聴いていれば、話の流れから分かる」

友「無理ぞな。オーラシンクも分からない森野氏に言われたくないぞなもし」

森野(ちっ、こいつ・・・)

友人を無視し、ざっと表の看板に書かれた演者を友人に説明する。

森野「君に分かりやすいように説明してあげよう」

友「誰ぞな、この人たち。有名な人ぞな?笑点出てるぞな?」

森野「出てない。かなり有名だよ。私の中では」

友「狭すぎぞな!猫の額より狭いぞな!」

森野「この『柳家小もん』さんはね。凄く良い声です。聴いていると湯上り?ってくらい気持ちいい」

友「我輩はシャワーぞな」

森野「じゃあ、シャワー後ね。『三遊亭好吉』さん。この人は聴いたことないから分かんない」

友「イケメンぞな」

森野「そだね。で、『桂伸べえ』さん。この人はめちゃくちゃ面白い」

友「あ、森野氏がいっつも言ってる奴ぞな。どのくらい面白いぞな?」

森野「まぁ、投手が伸べえさんで、俺が捕手だとしたら、伸べえさんの投げた球を受け止めたら、地球七周半してバターになるくらい面白い」

友「光の速さぞな。しかも『ちびくろサンボ』のパロディも挟んでるぞな」

森野「はいはい、『柳家小太郎』さん。この人は首を吊るのが上手い」

友「はっ!?意味不明ぞなもし」

森野「今日分かるかは分からないが、そのうち分かる」

友「首吊りが上手いって、誰と比較して上手いぞな?」

森野「うーん、近藤市太郎かな」

友「誰ぞな!?マジで誰ぞな!?」

森野「えー、お次は『桂伸三』さん。この人は眼力と所作が凄い」

友「眼力!?誰と比較して?」

森野「松島トモ子

友「誰ぞな~!!!マジで誰ぞなぁ~!」

森野「虎に噛まれたら分かるよ。で、最後のトリ。『立川寸志』さん。この人は口跡が気持ち良くて、聴いていて超気持ちいい」

友「マッサージくらい?」

森野「ふんっ(鼻で笑う)、AC/DCの音楽を聴いている感じ。アンガス・ヤングのギターを聴いている感じ」

友「森野氏。どうせ我輩が分からないから、からかってるぞな!?」

森野「1500円は持ったね。よし、後は笑うだけ。携帯の電源は切った?鳴らしたら退場だからね?」

友「き、厳しすぎるぞなぁ~」

というわけで、入場料を払って入場。

 

古典の万華鏡

さて、茶番はこのくらいにして、ざっと会場の様子を伺う。満員の客席。ご常連が多い。深夜寄席が無かったためか、そちらのご常連も流れてきた様子。

番組構成を見た時から、最高の構成だと思っていた。改めて、同じような心持ちの人もいたのだと思う。好吉さんについては存じ上げていなかったが、十人十色というか、六人全員がそれぞれの古典の雰囲気というか、フラというか、風を持っているように私は感じていた。それは一体どんなものか、一人ずつ解説していこう。

 

柳家小もん『黄金の大黒』

私が思う小もんさんの特徴は、前記事にも書いたが美声である。舞台袖から出てきて、一つ声を発した途端に気持ち良く入ってくる声が、気づかぬうちに江戸の世界へと観客を誘う。私は常々、小もんさんの落語を聞くと、まるで温かい風呂から出てさっぱりとした心持ちになるような、そんな気持ち良さを感じていた。「ちょいと落語の世界に行きましょうか」と手をひかれ、落語風呂(そんなものがあるか分からないが)に入ると、日常生活の空気感がさらっと洗い流されて、気が付けば落語の空気感が体に染みている。そんな印象を受ける落語家さんである。それは、小里ん師匠にも共通していて、小里ん師匠が高座に上がって何かを話すだけで、雑多な浅草や泥臭くて人間味溢れる江戸の世界に知らぬ間に誘われる。私はそんな感覚を高座から受ける。

だから、小もんさんは開口一番にはベストな落語家さんだと思う。乙な佇まいと粋な言葉、そして気持ちの良い声。心地よい湯船に無意識のうちに観客は浸かっているのだ。

この話は簡単に言えば「大家さんを祝う」という内容である。前半は大家さんから呼ばれ「家賃の催促?」と戸惑う住人達の姿が描かれ、後半は砂場から黄金の大黒が見つかり、その祝いだと気づいた住人達が大家さんを祝おうとして色々ボロが出る。おめでたいお話で、笑えて気持ちの良い一席だ。全体にお祝いの雰囲気が漂っていて素敵な一席だった。

 

三遊亭好吉『しの字嫌い』

お初の落語家さん。かなりのイケメン。確か萬橘師匠がポッドキャストでオススメされていた落語家さんである。三遊亭好楽師匠の三番弟子で、まるで俳優さんのような容姿。刑事ドラマで中堅の刑事を演じているような風貌で、物凄く真面目そうな雰囲気を感じた。

この話は簡単に言えば「主と奉公人が対決する」という内容である。知恵比べの延長として『し』と付く言葉を言ったら罰を与え、お互いに言わないように約束する。お互いに『し』という文字を言わせようとするお話である。

お互いのせめぎ合いが面白いと同時に、嫌な話になりがちな難しい話だと私は思う。この話を楽しめるかどうかは、主と奉公人の関係性をどう見せるか、という部分ではないかなぁ。と素人ながらに思ってしまう。

好吉さんは、初めてだったので、まだ上手く言葉には出来ないのだけれど、丁寧で真面目な印象を受けた。主と奉公人もお互いに立場とか考えを曲げない感じではなくて、むしろ筋が通っていれば、納得して相手を認めるというような素直さを感じた。特に主の描き方が素敵で、自分の知恵が奉公人に通じず、逆に奉公人から「謝れ!」と言われた時に、いさぎよく「すみませんでした」と頭を下げる感じが、とても良かった。

もう少し聞き続けて、良さを発見したい素敵な落語家さん。ご婦人には眼福だった筈。

 

桂伸べえ『新聞記事』

見る度に進化が止まらない伸べえさん。桂伸治師匠門下。何度も高座を聴いているので、如実に変化が分かる落語家さんの一人だ。私は伸べえさんの大ファンで、前記事に書いたが『好きな人が何かをやっている。それだけで面白い』という落語家さんである。私は伸べえさんの話が聞けるだけで満足である。間違いなく面白いし、聴く度に面白さは増していくし、何度聞いても絶対に外れない人で、私の笑いのツボをど真ん中で突き抜けて行く落語家さんである。

サッカーで言えば、伸べえさんの蹴ってくるボールは、直線かな?と思いきや、一度自陣に飛んでいき、そのままオウンゴールかと思いきや、強烈な回転で敵陣のゴールに向かって進み、強風によって大腸を描くかのように左右に動いたあと、敵陣のゴールネットに入ったかと思いきや、そのままスタンドを突き抜けて空へと消えて行くというような、予測のつかない面白さがある。

そしてフラ。醸し出す雰囲気と、唐突に差し込まれるフレーズ。今回も「ついに!それを言ったか!」というような、大ファンとして嬉しい言葉も演目中に飛び出し、大笑いして腹が捩れた。盲腸じゃないけど、もう丁度いいのである。

会場が爆笑の渦に巻き込まれていると、私はとても嬉しくなる。自分のことのように嬉しいという感覚がある。それは、客席に2人しかいない時の高座を見ているからだと思う。たった2人でも、全力で落語をする伸べえさんは輝いていた。今でもその輝きは1mmも損なわれていない。むしろ、輝きが増し続けている。凄いのだ、本当に凄いのだ。好きが強すぎて迷惑なんじゃないかと思うくらいに好きである。

ふと、前記事で書いた隣客の言葉が頭をよぎった。「最初はたった3人しかいなくてねぇ」という言葉を放った隣客の思いと、同じ気持ちを私は伸べえさんに対して感じているのだと思った。

だから私は、大勢の前で、自分を出し切っている伸べえさんを見ていると、笑うと同時に感動が押し寄せてくるのだ。良かった。この人の面白さが伝わって良かった。本当に良かった。届いてる、届いてるよ、伸べえさん。あなたの面白さは、

 

届いてるよ!伸べえさん!

 

勝手に私がそう思っているだけなので、何とも言えないのだけれど、楽しそうに落語をやっていて、色んな葛藤をしながら、たまにボソッと呟くような言葉を聴くときも、私は嬉しくて堪らない。もしも伸べえさんが気になった方は、是非西新宿のミュージック・テイトでやっている独演会にも足を運んで欲しいと思う。

こんな記事を私が書かなくても、伸べえさんは間違いなく凄い落語家さんになっていくことは確かである。最高の一席だった。

 

 柳家小太郎『おすわどん』

柳家さん喬師匠門下の小太郎さん。早朝寄席や寄席で何度か見たことがあって、会場を巻き込んで盛り上げるお姿が素晴らしく、早朝寄席で見た、演目は忘れてしまったのだが、手ぬぐいを使って首を吊る場面のある話で、会場を爆笑の渦に巻き込んだ落語家さんだという記憶が強い。

面白い怪談話が凄い人という印象があり、その印象をさらに強めた演目だった。この話は詳しく書くとオチになってしまうので、書かない。

オチはかなりバカバカしいのだけれど、小太郎さんはマクラから見事に会場の空気を掴んでいた。伸べえさんの後で、絶対やりづらいだろうなぁと思っていたら、伸べえさんを背負い投げするようなマクラで爆笑をかっさらい、そのままの勢いで演目に突入した。『おすわどん』は桂歌丸師匠が掘り起こした話である。芸協の会長の話をさらりと選択した小太郎さんのセンスに脱帽。随所に挟まれる落語好きなら笑えるワードを入れてくるのも面白い。『おすわどん』は桂歌丸師匠が掘り起こし、柳家喜多八師匠が持ちネタとして演じられていた話である。小太郎さんが意図して『おすわどん』を選んでいるのかは分からないが、芸協に対する敬意と、喜多八師匠の魂を継承していくというような、そんな強い心意気を感じて、私は勝手に「す、すげぇ」と心の中で思っていた。

オチはさらりと気持ち良く、色んなことが感じられた素敵な一席で仲入り。

 

 桂伸三『七段目~奴さん』

終演後、唯一友人が「しちだんめ?あの話は難しくて良く分からなかったぞなもし」と言った演目である。確かに私もなかなか理解が及ばない部分があって、特に歌舞伎の内容はあまり詳しくない。それでも、何となく面白いことをやっているのだなぁ、という雰囲気で楽しんでいる。

桂伸治師匠門下の桂伸三さんは、大ネタを得意とする、と噂されている落語家さんである。まだ二ツ目だけれど、風格があって佇まいは本寸法。登場と同時に客席がピリッと緊張感に包まれる。穏やかな低い声から、高い声までの振れ幅と、眼力と表情、所作まで、全てが力強い本格の落語家さんである。深夜寄席でトリを取っている時も見たことがあって、その時も大ネタだった記憶がある。ちょっと見た目は怖いのだけれど、落語に入ると変化する表情が面白い。語り口も丁寧で、語られる言葉の一つ一つがはっきりとしているし、固有名詞がばんばん出てくるのだが、それを記憶して、すらすらと語ることが出来るところに、見えない努力が感じられて凄まじいなと思う。

これからは三遊亭圓生師匠のような名人になっていくかも知れないと思うような落語家さんである。

P.S.

奴さんの踊りに入る前に、舞台袖で兄弟子を見つめる伸べえさんの姿が見えた。恐らく音楽を流すタイミングを見計らっていた様子。高座裏の姿を見逃さないスタイルです。

 

立川寸志『三方一両損

シブラクではお馴染みの寸志さん。44歳で脱サラし、立川談四楼師匠の門を叩いた異色の落語家さんである。私は常々、幇間が登場する話は唯一無二の面白さがあるなぁ。とブログでも書いてきたが、今回、その考えを改めた。啖呵も抜群の口跡である。とにかく気持ちのいいリズムとトーン。私としては、エレキギターをオーバードライブというエフェクターを通してマーシャルのアンプに繋ぎ、7フレットの4弦を単音で弾いたら、それが寸志さんのトーンであるような気がする。その4弦をチョーキングしたり、ビブラートを効かせたりするような、トーンだと思う。曲で言えばAC/DCの「Highway to Hell」を聴いているような心地よさ。単音で弾き続けたAの音が、観客の笑い声がAメジャーの和音で返ってきて、とってもA空気。

もはや真骨頂だと私が勝手に思っている機関銃のようなトークが、とても気持ちが良い。聴いていて胸がスッとするような啖呵と、人の意地と心意気の張り合いが最高の演目である。考えてみたら、啖呵が出てくるような話を寸志さんで聞いたことは無かった。啖呵と言えば『大工調べ』であるが、これも是非聞いてみたい。

ミドルの効いた音が好きで、志ん朝師匠のような畳み掛けるようなリズムが好きな方には堪らない落語家さんである。江戸の風をびゅーびゅー吹かせる落語家さんだなぁ。と改めて思った。一席終えた後の心地よさ、爽快感が堪らなかった。

 

総括 古典の多様性

古典落語のサンプルブックのような、古典であっても現代にその力を残しているような、色んな楽しみ方を発見できる最高の会だった。その中でも、私は伸べえさんの雰囲気が特に好きなのだが、他の演者さんもそれぞれの古典の世界を見事に表現されていて、古典落語を聴き始めた初心者にも、常連にも最適な番組構成だったと思う。改めて、この番組を構成した天歌さんのセンスに驚愕&脱帽である。

では、最後は再び茶番で幕を閉じたい。以下はお暇な人だけ読んで頂ければ幸い。

 

エピローグ~ぞなもしの友人~

森野「いやー、最高だったね!最高だったね!最高だったねぇ!」

友「なぜ三回繰り返すぞな、森野氏はAKBぞなか」

森野「よし、飯食いに行こうか」

友「無視かぞな。昼飯食べてないからお腹ペコペコぞな」

森野「だね。でも心は満腹だ」

友「うーん、まぁ、専門用語が難しかったけど、前よりわかりやすくて面白かったぞな」

森野「どの人が良かった?」

友「古典だけど新作寄りの人?あのタイの人が面白かったぞな」

森野(そうかそうか、ふふふ・・・)

友「何ニヤニヤしてるぞな、気持ち悪いぞな」

森野「失礼失礼。逆にどこが分からなかった?」

友「オアシってなんぞな」

森野「お金のことだね」

友「あとちゅーしんぐらってなんぞな」

森野「えっ、そこから?殿中松の廊下も知らない?」

友「全く知らんぞな。理系の我輩に文系の話が分かる訳ないぞな」

森野「赤穂義士四十七士も知らない?」

友「だから知らないぞな」

森野(人非人・・・)

友「あっ!今あからさまに冷たい眼をしたぞな!なんぞな!なんぞな!」

森野「あ、ごめんごめん。そこからか、と思って」

友「詳しく教えてくれぞな」

森野「君に分かるように言うね。吉良っていう偉い人がいたの」

友「デスノートみたいぞな」

森野「それはキラね。この人は、まぁ、パーティに参加するための情報を知っている人だと思ってもらっていい。偉い人がたくさん参加するパーティのドレスコードとかを知ってる人ね」

友「ふむふむ」

森野「で、吉良よりちょっと下の人達は、このパーティに参加するときに、吉良にお金を渡して、パーティに参加する服装を教えてもらってたわけ。例えば、スーツを着て、赤いネクタイを付ける、とかね」

友「ほうほう」

森野「で、浅野って人だけが、吉良にお金を渡さなかったの。そしたら、吉良に嫌われちゃった。どういう服装かも教えてもらえなかったら、パーティでもみんなと服装が違って笑われちゃった。吉良も大勢のみんなの前で、浅野を馬鹿にしたりしたわけ」

友「ふむふむ」

森野「当時は、武士は誇りを傷つけられるのは恥だった。そういうことが積み重なって、屏風に松が書かれた長い廊下で、吉良に馬鹿にされてた浅野は斬りかかった。で、吉良を殺せなくて、そのまま自害したの」

友「なんと、残念ぞなもし・・・」

森野「浅野は大名だった。まぁ、今で言えば社長みたいなもの。吉良を殺せなかった浅野が自害したことを知って、浅野の家来、まぁ社員が黙ってなかったんだね」

友「ほうほう」

森野「で、何百人かの家来のうち、四十七人が吉良を殺そうと、吉良のお家に飛び込んだ」

友「そんな大勢で行くのかぞな。二人とか三人じゃ駄目だったのかぞな」

森野「また殺し損ねたら嫌だったんじゃない?」

友「なるほど。じゃあ大勢で暗殺したということぞなね」

森野「そういうこと。で、この四十七人はお寺で全員自害したの」

友「む、むごすぎるぞな・・・」

森野「当時は仇討ちは武士の美徳とされてた。でも、幕府がそれを認めなかったんだね。赤穂浪士の話を聞いた町の人達は、仇討ちの美徳に感銘して物語を作った。それが忠義の忠、大臣の臣、仇討ちの番頭をしていた大石内蔵助の蔵と書いて、忠臣蔵と呼ばれるようになったんだね」

友「なるほど。要は社長が会長に馬鹿にされ続けて、怒った社長が会長に斬りかかったけど殺せなくて、それを知った社員が会長を暗殺するということぞな?」

森野「まぁ、大体そんな感じ」

友「まぁ、馬鹿にされたくらいで殺さなくてもいいのにと思うけどぞな」

森野「それが現代の感覚かも知れないね。当時は馬鹿にされることはどうしても許せないことだったんだよ」

友「ふーん」

森野「それにね。四十七人は12月14日に吉良を殺しに行くんだけど、それまで家族や兄弟に吉良を殺しに行くことは黙っているわけさ。バレないようにね。で、前日に嘘を付いたり、兄弟に挨拶しに言ったり、変な人に絡まれたりするの。でも、絶対に吉良を殺すなんて言わないの」

友「暗殺だから、当然ぞな」

森野「その前日の話が面白いのよ。遠い旅に出るとか嘘ついてさ。家族とか周りの人は慌てたりするわけさ。どうして急に!?みたいなね。で、遠い旅に出ると言ってた人が、翌朝に吉良を殺した集団の一人であったことに周りが気づくわけ」

友「お、おお。面白そうぞな」

森野「そうなのよ。ここからが凄いんだけどね。そろそろ終電よ」

友「ああ~、マジかぞなぁ~。続きを聞かせてほしいぞな」

森野「分かった。じゃあ次は講談を聴きに行こう。松之丞さんとか貞橘先生とかいっぱいいるから」

友「ぐぬぬぅ」

森野「じゃあねー」

 

友人と分かれ、私は温かい気持ちで家に着いた。茶番、終わり。

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