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自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

輝きながら走って行く~2019年7月6日 深夜寄席 新宿末廣亭~

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 僕の方が先輩

 

同い年

 

アニメ知らない人には何のこっちゃ

 

愛のあるdis

バーのある暮らし

僕はバーカウンターの隅っこに座って、お気に入りのJAZZを聴きながら葡萄を使ったカクテルを飲んでいた。開店してまだ数分も経っていない広々としたバーを見渡しながら、僕は物思いに耽るのが好きだ。壁に並べられたたくさんのウイスキーを見ていると、ついつい目移りしてしまう。ウイスキーが僕に語っているのかも知れない。なんて?「私を飲んでみる?」なんてね。

自分が何を飲むべきか、マスターは分かっているし、僕はいつもバーにいるときは、最良の選択をしていると思っている。Uhhn マンダム。

そんな風に、気取りたくなってしまうのがバーだ。頭がパーだと言われようとも、チョキだろうがグーだろうが関係ない。僕はなぜかバーに行ってしまう。美味しいお酒が飲みたいと思ってしまう。それも一人で。本当は誰かと肩を並べて、お酒と人生はコミックブックだとか、スポーツって猫の欠伸に似ているとか、そんな辻褄の合わない話をして、酔っぱらった後で寄席に行きたい。でも、一人でも十分楽しいし、誰にも止められないのだ。僕の思いは。

だから、美味しいお酒を飲んで寄席に行く。

その日は、それが最高の過ごし方だと思った。

どんな瞬間でも、そんな時が一度や二度はある。『この選択は間違いなく最高の選択』だと自覚すると、無敵な気分になれる。神の一手とも言えるかも知れない。何か見えない巨大な手が、僕に道を指し示している感覚があるのだ。

だから、僕はその巨大な手に指し示された方向に進み、カクテルを二杯飲んだ。最後に飲んだオレンジのカクテルの名前は、日本語にすると『最初の恩恵』という名だった。まさしく何か大きな恵みを得たかのように、僕の口の中には果実の甘さと酸味が広がっていった。

「んんっ!美味しいなぁ~」

喉が渇いた時は何でも美味いとか、生ビール一杯目が人生で最も美味いとか、酒飲みには定番となった金言は多々あるけれど、マスターの出すカクテルは、全てが僕に『美味い!』と言わせるだけの力があって、僕は毎回、飛べそうに無いボーダーラインを軽々と超えて行く棒高跳びの選手みたいに、カクテルという棒に支えられ、撓りによって競技場を越えて行ってしまうくらいに、美味みの世界に弾き飛ばされてしまう。一度、その興奮を味わってしまったら、何度でも棒を握りたくなる。そして、越えられないラインを越えさせてくれる棒に歓喜し、何度も走り出してしまう。

もしも読者の中で、僕と同じように『カクテル棒高跳び』をしたい方がいるのならば、twitterのDMにメッセージをくれれば、教えてあげよう。特に、深夜寄席の前に一杯飲むと、きっと極上の気分が味わえる。そんな日があなたにもきっと来る。

幸福な酔いに満たされると、何とも言えない心地よさに包まれる。それで、笑いたいなんて思うのは、贅沢なことなんだろうか。そんなことはない。どこまでも、どこまでも、酔いに任せて笑えたら、そのひと時はきっと幸福なはずであると思うのだ。

全てを受け入れたら、急に世界が輝き出す。気が付けば、僕自身が輝いている。だったら、走るしかない。この輝きを保ったまま、走るしかない。影が差そうと、闇に包まれようと、自分の中に確かな輝きがあるならば、走って行くべきだと僕は思うのだ。

そして、常に走り続けている四人が、今日今夜、新宿末廣亭の高座に上がる。

見るしかない。そして、笑いに身を任せたら。

世界は眩い、光を放つ。

 

春風亭昇吾 たらちね

師匠の結婚によって、様々なネタの出来たお弟子さんの中で、最近に結婚した昇吾さん。笑点でお馴染み春風亭昇太師匠のお弟子さんだ。ふんわりとした見た目とは裏腹に、ハスキーな声で語られる落語が魅力的で、今日は普段より増して抑揚がついており、会場の温かい雰囲気と相まって、かなりの盛り上がりを見せた。

ふわふわもちゃもちゃっとした語りで、それが妙に心地が良い。言葉がぞんざいな男と、言葉が丁寧過ぎる女の掛け合いが面白い。何気にネギ売りから先を聞いたのは久しぶりだった。だんだんと芝居がかっていく女将さんの姿が面白い。

不思議なフラがあって、まだ僕にはそれをどう表してよいか分からない。

 

 桂伸べえ 新聞記事

一声発すれば会場が謎の面白さに包まれる伸べえさん。気の抜けた脱力感のある語りの中に、唐突にマジな感情が挟み込まれる緩急に飲まれたら、それこそ伸べえさんの思うツボかも知れない。後輩に対してのマクラが最近のブームらしいのだけれど、伸べえさんの『突き抜けっぷり』をもっと聴いてみたいと思う。

それでも、独自のフラに会場にいた全員の母性本能がくすぐられ、温かく見守る雰囲気が充満する。この辺りは好みの分かれるところかも知れない。伸べえさんを温かく見守る心。何を見るにしても、何かを拒絶したり否定するのではなく、受け入れることが重要なのだと思う。そんな伸べえさんの不思議な魅力に包まれた新聞記事は、何度聞いても、その都度面白くて、毎回言うことも違うので楽しい。

 

笑福亭羽光 アニメ小僧

間違いなく四人の中で光っていたのは羽光さんだったと思う。客席の様子を伺ったり演者に触れながら、探り探りでネタを決めて行く。そして、アニメの話題からネタは『アニメ小僧』。これが物凄く面白かった。アニメ好きなら絶対に笑ってしまうような、そんな小ネタが満載。アニメと言ってもマニアックなものではなく、むしろ大体の人が見た事があるであろう映画を題材にしているので、理解しやすい。

ネタは落語の『七段目』のパロディのようなもので、後半、オチが分かりやすい形で提示されるのだが、想像しただけで面白い光景が広がる。

羽光さんは私小説落語に出会う確率が多いので、他の新作落語を聞くことが出来て良かった。これからもますます、新作落語で活躍されると思う。

 

 春風亭昇羊 長短

大いに盛り上がった後で、しっとりと登場の昇羊さん。マクラでは強いジェラシーで羽光さんを弄りつつ、ネタは予想外に軽めの『長短』。

昇羊さんの所作で魅せる姿が素敵である。なぜかしっとりした雰囲気を感じるのは、昇羊さんが水も滴る良い男だからであろうか。面の良い落語家は女形をやっても絶品で、昇羊さんもその部類に入る。

饅頭を食べるシーンをたっぷりやって、煙草を吸う仕草は短めに、長さんと短七さんのバランスが絶妙な一席で、さっぱりと終演。

 

 総括 酔っぱらってると、案外覚えてない

こうやって記事にしてみると、その時は『最高の気分だ!!!』と思っていたのだが、後になって見ると、意外と細部を覚えていないことが分かった。あまりにも酔って楽しんでいたので、細かい部分を注目して見ていなかったのかも知れない。演芸鑑賞において、酔いの状態はその後の記憶の定着に障害になるのかも知れなかった。

考えてみれば、同様のことが多々ある。酒を飲んで酔っ払って大騒ぎをすると、その時はめちゃくちゃに楽しかった思い、感情が残るのだが、細部は全く思い出すことが出来ない。その方が良いのだろうか?と自問したところで答えは出ない。

ふらふらとした足取りで、私は家路に着いた。

7月1日に伸べえさんに会い、翌日には連雀亭で伸べえさんを見て、土曜の夜には伸べえさんを見る。伸べえウィークな一週間だと思った。

さて、7月8日の週は、いよいよ上方遠征である。新しくなった繁昌亭に行く。普段、上方落語を楽しめていないぶん、思う存分味わいたいと思う。

それでは、素敵な演芸との出会いを祈って。

さよなら、さよなら。