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心に出来た『こぶ』~2019年8月29日 深川江戸資料館 笑福亭たま独演会~

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タテカワキッショー

 

ボンヤ

 

オヤカタシュー

 

ベンケイー

 

カンコー

 

イメージと現実

 

Tickle Toe

ふいに空き時間が出来たときは、まず落語会を探す。あまり事前に予定を立てて行動するということが少ないため、落語会は『当日ふらっと派』である。その時、その時で、自分の感覚に合った落語会に行きたいと思うし、その方がお得感もあるのである。もちろん、会によっては料金が500円アップするけれども、「今日はこの会に参加できる運命にあったのだな」と思うと、得した気分になるのである。

そんなこともあって、久しぶりに笑福亭たまさんの独演会に参加することが出来た。恐らく『遊雀スペシャル』以来の深川江戸資料館では無いかと思う。

会場に入ると、笑福亭羽光さんが会場に来たお客様の様子を伺っていた。会場の雰囲気を掴むために、熱心な噺家さんである。その姿勢が素晴らしいなぁ、と思いながらぼんやり見ていた。

受付には、前回同様、あんぱんさんとどっと鯉さんがいて、チケットを切ったり当日券を売ったりしていた。ご常連さんが多い会である。皆さん、笑福亭たまさんをお目当てに来られている雰囲気が満ちていた。

以下、ざっくりとした感想を、

 

 瀧川あまぐ鯉 長短

てっきり瀧川鯉昇師匠のお弟子さんかと思っていたのだが、鯉朝師匠のお弟子さんだったあまぐ鯉さん。時間調整もあってか僅かにテンポが早い気がする長短。新作系の雰囲気を感じる前座さんなので、今後、どのような演目が見れるか楽しみ。

 

 笑福亭羽光 ペラペラ王国

会場の雰囲気を読んで、『TPOをわきまえた落語』を宣言していた羽光さん。そんな羽光さんが選んだのは『ペラペラ王国』の一席。渋谷らくごポッドキャストで一度聞いたことはあったけれど、生で聞くと面白さが増している気がする。会場のお客様も、どうやら羽光さんを初めて聞く方が多かった様子で、どっかんどっかんと受けていた。『マトリョーシカ構造』のお話の気持ち良さが素敵である。確か、深夜寄席で聞いたことがあったと思う。複雑な構造でありながら、意外と理解しやすい噺の構造。そして、最後の最後まで明かされない謎。全てがミステリアスで、何も解決しないのだけれど、その解決しないままに終わる面白さが素晴らしい一席だ。

 

 笑福亭たま 茶漬間男

お待ちかねの笑福亭たまさん。枕に関しては「書けないっ!」のだが、難解な話を見事に分かりやすく伝える様子が、改めて見ても、物凄く頭の良い方だなと思う。実にクレーバーで知的で賢さに溢れている。めちゃくちゃ好きだけど、プライベートで関わるとドキドキしそうな噺家さんである。何と言うか、上方落語界の『永世中立国』的な立場の人である気がする。一言で言えば『中庸』であろうか。常にきちんとした指針というか、軸があって、どちらか一方に偏ることなく、どちらの立場でも合理的に思考して考えを受け入れている噺家さんであるように見える。もちろん、許せない出来事に対しても、冷静に合理的に論理立てて説明できる人だから、そのクレーバーさが魅力的に私には映った。

そんなたまさんが不倫の噺をする。そこに違和感が無い。むしろ、常識人であるからこそ、ちょっとした偏りが面白く感じられるのだろう。不倫という行為自体を、許す許さないという次元での語りではなく、むしろ現象としてのみ捉える感じと言えば良いだろうか。良い悪いを抜きにして、噺の中で起こった不倫という現象のおかしみを抽出しているような、そんな雰囲気を感じた面白い一席だった。

以前、繁昌亭の乙夜寄席で桂しん吉さんの『茶漬間男』を聞いて以来の演目である。茶漬けを食べる仕草であったり、二階でごちゃごちゃが起こったり、丁寧な盆屋の説明であったりと、想像しやすく、滑稽なお話だった。

 

 笑福亭福笑 大真夜中

こちらもお目当ての福笑師匠。この噺家さんは絶対に見逃しちゃいけない落語家のうちの一人。会場も物凄い温かい雰囲気で、拍手喝采。抜群のウェルカム・ムードに気分を良くしたのか、彦八まつりで披露するというQueenの『We Will Rock You』をアカペラで披露。古希を迎えてもなお、より一層の逞しさを見せる福笑師匠に拍手喝采

演目は、どういえば良いのか、お楽しみを残すためにも、ざっくり言えば『大安売り』という演目の形を借りた一席である。

これがもう、抱腹絶倒の一席だった。福笑師匠に外れ無しである。面白くて殆ど詳細は覚えていないのだが、『大安売り』という噺の形式を模した語りの面白さ。随所に光る福笑師匠の笑いのセンス。全てが会場を巻き込んで爆笑を起こしていた。

凄い。本当に凄い落語家さんである。

 

 笑福亭たま こぶ弁慶

お初に聞くお話で、昔の人達の想像力が爆発した面白い一席である。今でいえば『寄生獣』とか、『南くんの恋人』とか、伊藤潤二先生だったらホラーテイストで描きそうな一席で、「そんな設定があるんかいっ!!!」と思わず膝を打つような、面白いお話である。簡単に言えば、『壁土食べたら、こぶが出来て・・・』という噺で、物凄い発想だなぁ、と驚愕の物語である。作者は笑福亭吾竹という人で、一体どうやったらそんな発想が出来るのか、ご本人に伺ってみたいくらいである。

不思議な噺ではあるのだが、こぶが出来てからの痛快さが面白い。これは是非生で聞いて頂きたい演目で、初見であるため詳細を語ることは止しておく。

 

笑福亭たま ショート落語&ベトナム

ショート落語と言う名の短い小噺の後、新作の『ベトナム』。いやー、これは、

度肝を抜かれるほどの面白さでありながら、様々なことを考えさせられる新作である。ざっくりこの噺の内容を書くとすれば、『想像と現実は・・・』ということを考えさせられる一席である。

とにかく、自分の思い込みであったり、固定観念であったり、無意識の『決めつけ』が、翻って行く様を見ているような心地よさ。同時に、自分自身が無意識に持っているそうした『当たり前』に対する違和感を見つめ直すような一席である。

言われてみればそうだよね、という発見もありながら、たまさんの思考実験の結晶のような噺で、ここまで切り込んで様々な例をあげながら、一つのテーマを突き詰めて行きつつ、同時にそれが面白いという、簡単なようで、物凄くアクロバティックな難解さを秘めているような内容だった。最初の羽光さんの一席にも通ずるのだけれど、何かが解決しないままの感じ。というか、解決しないということが一つの解決であるというようなことを感じる一席だった(ちょっと書いててよくわかんないけど)

いずれにせよ、改めて笑福亭たまさんの知の泉に触れた一夜となった。

 

総括 Tama's Oregano

Twitterのみならず、高座の外・内の姿を見ると、笑福亭たまさんの気配りであったり、配慮であったり、お客様へのサービス精神であったりが、如実に感じられた。決して知的だからとっつき難いとか、難しそうということは無い。むしろ、普遍的な哲学、中庸の精神を、笑いをまぶしながら、とても分かりやすく発信されている噺家さんであると私は思った。近頃は、某上方落語評論家がトヤカク色々と言っているが、私はそんなことを言う人間になったら、お終いシウマイだと思っている。

どんな瞬間であっても、客として落語家の素晴らしさ、演芸の素晴らしさを説いていくのが、落語好きの落語好きたる在り方ではないか。本当に嫌いな落語家がいるのならば、私だったら語らない。少なくとも、ネット上では絶対に語らない。そもそも、私には落語の世界で活躍されている噺家さんに文句を言えるほどの立場では無いと思っているし、芸の世界には、否定はいらないと思う。なぜなら、その人には、その人にしか出来ない落語があると思うからだ。それが正しいとか、正しくないと言うのはお門違いであると思う。どんなときであっても、後世に落語に出会った人々が、「この落語家さんには、こんな素晴らしいところがあるんだ!」という喜びと発見に満ちた情報を伝えていくのが、演芸好きの使命なのではないか。

私は、恐らく存在する評論家や趣味でブログを書いている人間とは、その辺りの考えが決定的に違うように思う。私は人の美点しか見ないし、書かない。それじゃ面白くないよ、と言われても一向にかまわない。それが、私の在り方なのである。

そして、ずっとそれを続けていると、色々と良いことが起きてくるようである。別にスピリチュアルな話をするわけでは無いが、どうやら現実はそのように、変わってくるようである。

良い点は語り、悪い点は語らない。それが私の心に出来た『こぶ』かも知れない。もしかしたら、否定ばっかりする人には、何か『こぶ』が心に出来ているのかも知れない。そんな『こぶ』がいずれ私の身体を乗っ取って、動くのだろうか。

はてさて、どうなることやら。