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驚愕の新入生たちの大きな伸びしろ~2019年10月30日 神田連雀亭 新作一年生~

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カシコマリマシター

 

スイス!?

 

オザサ部長

ずっと前から楽しみに

宇宙一楽しいイベントが告知された瞬間、私は度肝を抜かれた。その告知を見たのは9月7日。新作一年生と題された会で、噺家が三人、自分で作った落語をやるという。

一体誰が出るのかな、と思って見ると、

三遊亭遊かりさん

三遊亭吉馬さん

桂伸べえさん

 

ん?

 

遊かりさん、吉馬さん、、、

 

ん?

 

伸べえさん?

 

えっ

 

 伸べえさんんんんん!!!!!????

 

気が付くと、私は予約のメールを送っていた。桂伸べえさんが、新作を作ってやる。これを見逃すわけにはいかなかった。

今日まで、待ちに待った会である。

結論から言おう。

 

んんんん超おおおおおうううううう

 楽しかったぁあああああああああああ!!!!!!!!

 

 オープニングトーク

遊かりさん、吉馬さん、伸べえさんの三人が着物姿で登場。相変わらず俯き加減なシャイボーイの伸べえさん、ガッチリと堂々としながらも不安な様子の吉馬さん、腹をくくった感じのある遊かりさん。まだ、新作披露前とあって、三人とも緊張している様子。客席は割とホクホクしていて、真ん中に座った伸べえさんが丁度良く和やかな空気を醸し出していた。改めて思うのだけど、伸べえさんが存在しているというだけで、会の空気感が凄く和やかになる。天性のフラとしか言いようが無い素晴らしさ。

私は、一体この三人がどんな新作落語を作り上げるのかということに興味があった。寄席で見る遊かりさんは、師匠である遊雀師匠直伝の『悋気の独楽』や、『女子会ん廻し』など、可愛らしい登場人物に小さく混じった毒っ気が面白い噺家さんである。今日は一段と化粧が濃いような気がして、遊かりさんの気合いを感じた。

三遊亭吉馬さんは、圓馬師匠のカッチリとした雰囲気を漂わせながらも、迫力があってドッシリとした落語をされる。勢いがあって声も力強く、プロレスやボクシングなどの格闘技系の出身なのかと思うほど、体育会系の雰囲気を感じる。

桂伸べえさんは、伸治師匠のおおらかさに育まれて、天然記念物的な雰囲気を醸し出している。もはや何をやっても伸べえさんになってしまうという、驚異のフラを持っている。とてもカッコイイのは、トークの時は俯いて恥ずかしそうにしているのに、落語に入るとパッと顔をあげて、縦横無尽に落語をするところ。大好きだし、とにかく笑いたいなという時に、真っ先に聞きたい噺家である。以前にも書いたが、『この人があの演目をやったらどうなっちゃうんだろう?』という強烈な興味を沸かせてくれるのが、桂伸べえさんなのだ。

そんな、三者三様の噺家が、緊張の面持ちであみだくじを行い、出演の順番を決めた。ゲストには春風亭昇太師匠の弟子の昇羊さんが来られていた。

さて、あみだくじの結果、トップバッターは、この方になった。

 

桂伸べえ 滑舌カフェ

世の中のありとあらゆる面白いに纏わる言葉を探しても、どれ一つとして伸べえさんの面白さを表現できないのではないかと思うほどに、とにかく面白い。もはや、『伸べえ』というワードが、最も面白いという意味を表現している。としか、言いようが無い。どれだけ私が『面白い』と語ったところで、『伸べえ』という言葉には敵わない。もしも神様がいるなら、伸べえさんの面白さを表現する言葉を教えてほしいと思うのだが、恐らく神様ですら、伸べえさんの面白さを表現することはできないと思う。

面白いのだ。面白くて、面白くて、面白いのだ。

どんなに書いても、伸べえさんの面白さを言葉で言うことは難しい。

数式で言えば、何億年と解かれることの無い永遠の定理とでも言おうか。

初めは私も幾つか記事を書いて、なんとか伸べえさんの面白さを伝えようと思ったのだが、不可能だということに気づいた。

というか、伸べえさんを見て欲しいのだ。

伸べえさんの落語を見てしまうと、落語という大きな枠の中に、

伸べえというとてつもないジャンルが生み出される。

抗えない。どうやったって抗えない面白さなのだ。

なすすべもなく、笑うことしかできなくなるのだ。

そろそろクドイので止すが、伸べえさんの作り上げた新作は、めちゃくちゃ面白かった。

簡単な内容は『上野を散歩した滑舌の悪い男二人が、滑舌の悪い人達のいるカフェに行く』という、ただそれだけの話である。特に上手いことを言うようなことも無ければ、笑いを狙いにいったところが一切ないこと。いつもの高座でも良く起こる『メタ』な会話の応酬があって、そこがことごとくウケていた。馬石師匠にも近いというか、噺に入り込んで、噺の中で心の底から楽しんでいる感じがあって、変に演じている感が無い。もはや地で与太郎をやっているんじゃないかと思えるほどに、噺が伸べえさんの中に染み込んでいるのだ。安易に使いたくは無いのだが、天才としか言いようが無い。唯一無二にして、天才の領域で落語をしている。凄まじすぎるのだ。

ストーリの中で特別なことは何も起こらない。ただひたすらに、くだらないことが連発される。

そのくだらなさに、なぜか笑ってしまうのである。笑わずにはいられないのである。

伸べえさんは、遊戯王で言えば『エグゾディア』みたいなもので、揃った時点で勝利が確定することと同じように、高座に上がって一言発しただけで面白いのである。読者に思い浮かべて欲しいのは、『この人が登場したら、全面降伏』という人が必ず一人はいると思う。そういう存在が、桂伸べえさんなのである。

とにかく、とにかく、とにかく、面白かった。

もはや、それ以外に言いようがない。

面白いという言葉に、ありとあらゆる地球上の面白いが凝縮されていると思って頂きたい。

会場も大爆笑が巻き起こり、伸べえさんもノリノリだった。

宇宙初公開の新作落語は、伸べえさんの滑舌が存分に活かされた、最高の一席だった。

これからも新作落語を作り続けていって欲しいと思う。何をやっても面白いから、伸べえさんらしい落語を突き詰めて行ってほしい。もはや盲目な一ファンの言葉である。

 

三遊亭吉馬 国技ワールドカップ

驚愕の一番手の後で、沸き上がった会場にパワーを得て登場の吉馬さん。荒馬の如き勢いから演目へ突入した。

簡単な内容は、『各国の国技を合体させたワールドカップがどうなるか』という話である。日本の国技は相撲で、相撲が色んな国の国技とミックスされて競技になる。

アクロバティックな発想で、映像を思い浮かべるだけでも面白い。次は一体どんな国と相撲が組み合わさるのか。ワクワク感が沸き起こる。

異種格闘技の究極を行くようなお話で、吉馬さん本人も『めちゃくちゃなワールドカップ』と語りながらも、丁寧な解説によって映像が目に浮かぶ。特に、最後のスイスとの試合はとても面白かった。落語の形式に則ったなぞかけのような小ネタも挟みつつ、最後も綺麗に決まった一席。

設定の特異さが際立った新作落語で、客席が大いに話に入り込んでいる空気があった。伸べえさんの時にも感じたのだが、お客さんの噺への入り込み具合が凄い。普段、あまり他の会では出会わないような、想像力を極限まで発揮した人達が数多く訪れていた雰囲気があって、その雰囲気に飲み込まれてとてつもない爆笑が巻き起こっていた。

こんなに温かい笑いが起こると、新作を作った苦しみから一気に開放されて、とても嬉しい気持ちでいっぱいなのだろうなぁ。と思った。伸べえさんも吉馬さんも、早く高座を降りたいという雰囲気は一切無かった。むしろ、もっともっと語りたいという欲求すら沸き起こっているかのような、とても熱い高座だった。

 

 春風亭昇羊 吉原の祖

新作落語の先輩としてゲスト出演の昇羊さん。キリっとした端正な顔立ちと、クッキリとした目鼻立ちが凛々しい。何度か聞いているが、今回初めてしっかりと聞いた気がする。古典の『短命』に近いような、言葉にされないけれど、態度には現れてしまうような、そういう『語られない部分の面白さ』があって、客席の想像力も爆発していて、とにかく笑いが起こっていた。

昇太師匠の弟子ということもあって、新作落語の新しい道を切り開いて行く方々も大勢いるのだろう。かつてとあるお客さんが「新作は大変ですよ。時代の流れがあるから」と仰られていたことを思い出す。どんなに時代が過ぎても、風化しない落語の息吹が、昇羊さんの作品には吹いているような気がした。

ここまで、素晴らしい会場の盛り上がりと、高座に上がられた噺家さんの個性が爆発したネタが続いた。仲入りを挟み、トリを飾ったのは、この会の発起人である。

 

 三遊亭遊かり 伝説の販売員

覚悟を決めたかのように、腹を括って高座に上がった遊かりさん。元百貨店のお酒の販売員さんだったようで、その経験を活かした新作落語が始まった。

簡単な内容は『デパートのお菓子売り場で巻き起こる様々な騒動』を語るお話である。これがとにかく、面白い。

デパートの豆知識もさることながら、色んなお客様が登場したり、従業員の裏話が聴けたり、色んな珍事が起こったりする。

特にオザサ部長(?)だったかが登場するくだりは大笑いしてしまった。前半のウキウキした語りが、とてつもないリアリティで迫ってきて、まるで本当にデパートのお菓子売り場にいるような感覚になった。

これは絶対、連続物にした方が良いのではないかと思ったほど、デパートや百貨店の色んな面白い話が凝縮された一席だった。遊かりさんには、架空のデパートを作り上げて、そこで巻き起こる様々な出来事を一話一話語る形式で新作を作ってほしいと思った。それくらい、面白くてタメになることがデパートでは起こっている。

特に、終演後のトークで語られたお話なども、連続物の最後に人情噺として据えても良いんじゃないかと思うほど良い話だった。もっともっとデパートや百貨店の事情やお客様の様子を知りたいと思うほど、とても興味深かった。

自分の過ごした人生を、これほど面白く落語に昇華できる遊かりさんの創作能力が凄まじい。細部までカッチリと想像して辻褄を合わせているからこそ、客席で聴いている人達にありありと絵を想像させることができるのだと思った。私も休みの日に、ユニクロの服を着て新宿のデパートを巡ってみたい。お菓子売り場を巡ってみたいと思った。

長尺の大ネタ。まだまだ聞きたいこともたくさんあったがおしまい。素晴らしい一席で、今後の可能性に満ち溢れていた。

 

 選評

遊かりさんのネタが終わった後、再び吉馬さんと伸べえさんが登場。なぜか土下座スタイルで、まるで叱られるかのようなスタイルで昇羊さんの選評が始まった。ネタを終え、緩みに緩み、安堵感に満ち満ちた伸べえさんの表情が面白い。ネタ披露前までは「どうしよどうしよ」という感じだったのだが、いざネタを終えると「やってやりましたよー!最高でしたよー!」という雰囲気に変わっている感じが、伸べえさんらしくて良かった。

吉馬さんはスケールの大きいネタを終えつつも、やりきった感よりも「苦労が長かった。大変だった」という様子。トリの遊かりさんは、前職ということもあって、まだまだ改良の余地を残すが、それまでの経験を存分に活かしていた。

昇羊さんの選評も的確で、伸べえさんはもう、伸べえさんにしか出来ない部分があるという感じのことを仰られていた。吉馬さんは組み合わせの妙が光った。遊かりさんは、事件を起こす部分の難しさがあったというようなことを仰られていた。

これは落語台本を書く人にも参考になる選評だった。いかに日常の延長線上に面白い話を作り上げるのか。それとも突拍子も無いワードで面白さを演出するのか、はたまた天性のフラで面白さを突き詰めて行くのか。色んな『面白い』が新作には詰まっていて、創作過程における葛藤や苦しみ、知恵や試行錯誤が垣間見える時間だった。

 

総括 驚愕の一年生

学校に入って、後輩に脅かされたことは私には無いけれど、今回の三人の新作落語は、今、新作落語を作り続けている噺家さん達を十分に脅かすと思う。というよりも、それぞれの個性が話に凝縮されていて、もっと見たい!と会場にいた誰もが思っていたのではないだろうか。少なくとも、私はもっともっと、今日の三人の作り上げた新作落語を見たいと思った。

誰にでも『らしさ』があって、その『らしさ』が一滴も漏れずに形作られたものが、きっと、新作落語に挑戦した噺家の第一作なのではないだろうか。初めて作って、初めて披露した新作落語には、誰が見ても明らかな、その人の個性が詰め込まれている。

今まで、遊かりさんも、吉馬さんも、伸べえさんも、古典落語(或いは古典・改)しか聞いたことが無かったが、本当に三人の個性が発揮された素晴らしい三席だったと思う。会場もとにかく温かかったし、これ以上無い、素晴らしいスタートを切ったと思う。とても大きな伸びしろがあると思う。

本気か冗談か分からないけど、伸べえさんの鎖というか、オモリが解き放たれた瞬間に立ち会えたのは、一人の落語好きとして、これ以上無いほど嬉しい。

今後、一体どんな風に新作落語を作っていくのか。

次は一体、どんな新作落語を見ることができるのか。

次回は、予定では2月末だそうである。

絶対行く。

驚愕の一年生たちの、今後の成長を見逃すわけにはいかない!