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上方の風に吹かれて浪に乗る~2019年11月4日 神田連雀亭 桂紋四郎の上方落語・浪曲最前線~

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上方落語の仕掛け人!?

 

勢いで押す!!

 

よぉ~ 

  

上方の風と浪

桂華紋さんがNHK新人落語大賞を取った。2018年は桂三度さんが取り、2017年は三遊亭歌太郎さん、2016年は桂雀太さん、2015年は桂佐ん吉さんと、この五年間で上方落語家が4人も賞を受賞している。

私は落語初体験が桂枝雀師匠の『代書』ということもあって、上方落語には思い入れが強い。江戸の落語を聞くよりも先に上方落語に心酔した私にとって、落語の本場と言えば上方という思いがどうしても強いのだ。

特に桂米朝師匠や笑福亭松鶴師匠に代表されるような、上方の最高峰とも呼ぶべき流麗な語りの調べを聴いているだけで心が穏やかになる。枝雀師匠の落語にも受け継がれた『知性の清流と人情の紫翠』を最初に体験できたことは、私にとっても思い出深い経験である。

さて、東京にいても上方落語を聞く機会はある。仮に『上方落語ってどんなものなの?』と疑問を持ち、まだ上方落語に触れたことの無い方がいるとしたら、最初にオススメしたい素晴らしい噺家がいる。

それは、三代目桂春蝶師匠門下の桂紋四郎さんである。

紋四郎さんは『上方落語仕掛人』と言っても過言ではないと思う。彼は今年の5月より、上方落語の素晴らしい噺家さん達と二人会を行っている。毎月第一月曜日に神田連雀亭で行われる会で、私は数多くの素晴らしい上方落語家さんたちに出会った。

また、桂紋四郎さんは茶道×能楽×落語×浪曲×文楽×講談の上方伝統文化発信集団である『霜乃会(そうのかい)』に所属されている。今、まさに上方演芸の未来を担い、自らも上方落語の未来を背負って立つ芸を持った噺家さんだ。

桂紋四郎さんを初めて見たのは、神田連雀亭で行われた年末カウントダウン興行。『三十石』を見た。美しい声と色気のある語り口。見事としか言いようの無い端正な所作。しばらく頭の片隅に残っていた私は、5月にようやく紋四郎さんの会に参加し、そこから行ける限り、『上方落語最前線』と題された会に参加した。

以下は、その時に撮った写真である。

 

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今までの記事は、常日頃、上方落語に触れていない私にはまだ書くだけの意志が無く、感想を書くことは出来なかった。だが、どれも間違いなく素晴らしい会だった。華紋さんの二席、三幸さんの客席参加型のぶっとび二席(私も参加できた)、佐ん吉さんの端正な二席、雀太さんの豪快な二席、南龍先生の紫焔のような燃える二席。どれも思い出深い。なかなかゲストの噺家さんを見る機会が少なく、初見で書くのもどうかと思っていたが、実に素晴らしい会だった。残念ながら10月の会に行けなかったことがとても悔しい。呂好さんは繁昌亭で『¥の縁』を見たことがあっただけに、見たかったという思いが強い。

 

満を持して

初参加の五月から、十一月の落語と浪曲の会に参加し、満を持して記事にすることを決意した。個人的にも、再び紋四郎さんの『三十石』を聞けたということもあって、タイミングが良いだろうと思った。今回のゲストである真山隼人さんと沢村さくらさんの『円山応挙の幽霊図』も、聴くのは二度目である。真山隼人さんで初めて聞いた演目も『円山応挙の幽霊図』であったために、この記事を書くことには何か運命のようなものを感じる。

上方落語仕掛人にして、牽引役でもある桂紋四郎さん。そして、上方浪曲界の至宝とも呼ぶべき真山隼人さん、そして沢村豊子師匠の一番弟子にして、浪曲師の魂と節を極上の世界へと導く音色を放ち続ける曲師、沢村さくらさん。

この三人が出演する会。たとえどこかで名人が芸を披露していようとも、見逃すわけにはいかない。この三人の現在と、そして未来に私はとてつもない興味があった。

 

トーク

まず紋四郎さんと隼人さんが登場された。前半は新人落語大賞の裏話。内容は書かないが、紋四郎さんの思い、華紋さんの思い、そして会場の空気など、紋四郎さんから聞くことができてとても嬉しかった。また、後半は隼人さんのお話。上方落語ブームが正に来ている。神田連雀亭で、巻き起こる上方の嵐。とても熱いお話を、タイムリーに聞くことが出来て、とても良かった。

 

桂紋四郎 浮世根問

シュッとした出で立ちと、美しい光を眺めているかのような声の響き、一瞬で見事に人物の表情が変わり、浮き上がってくる人物の性格。上方落語の品格と知性を存分に感じさせる桂紋四郎さんの落語。私は大好きである。上方落語のハイ・スタンダードと言うべきか。これほど流麗で気持ちの良いリズムと、高低と色彩豊かな声。語りの抑揚と表情のどれもが一級品の輝きを放っている。これは決して褒め過ぎではない。それほどに素晴らしいのだ。

上方演芸を広めようとする気概に、芸が伴っている。私が言うのもおこがましいが、非の打ちどころがないほど、高座で落語をするだけで美しさと情熱を感じるのである。古典の演目ながら、滑らかなリズムと間で放たれる言葉の一つ一つが、実に美しい。

先達の名人を挙げるとするならば、五代目桂文枝師匠に近い気がする。ハイトーンの声の切れ味の鋭さは、まるで清流に石を投げたときに、石が水面を跳ねて飛んでいくような様を見ているかのように爽やかな気持ちになる。

何とも言えない知性を感じるのは、整理された言葉が淀みなく放たれるからであろうか。とてもカッコイイのである。もはや絶賛以外の何ものでもない。

間違いなく、今後、上方落語の未来を背負って立つ噺家になることは間違いない。2010年代の大勢の猛者の中で、ひと際異才を放ち、滲み出る知性と精密な美しい落語が、これからどんな風に変化していくのか。

もしや、読者の中に見逃す人などいるまい。

早く、紋四郎さんを見て、上方落語の次世代の魂を感じて欲しい。

 

真山隼人/沢村さくら 円山応挙の幽霊図

去年の12月2日に見て以来の隼人さん。一度だけ一心寺でお手伝いをされている様子は見た。なんと数奇な運命もあるもので、久しぶりの隼人/さくらコンビの演目は、私が初めて聞いた『円山応挙の幽霊図』だった。思わず「うおおお!!!凄い巡り合わせだ!!!」と思って歓喜した。

木馬亭で見た時よりも、会場のおかげでより身近に感じられた。本当に素晴らしい噺だと思う。twitterの方からの情報によれば、松浦四郎若師匠から受け継がれた演目だという。隼人さんは澤孝子師匠から『徂徠豆腐』も受け継いでる。来年の一月にネタ出しで会があり、一体どんな風に『徂徠豆腐』をやるのか楽しみだ。

間違いなく、上方浪曲の未来を担う最高峰の浪曲師である。浪曲を愛し、浪曲に愛された肉体と声。その全てを存分に活かす曲師の沢村さくらさん。この二人のコンビは、無敵である。ゲームで言ったら、マリオカートでずっとスターを取り続けながら走っている状況と言っても過言ではない。リングに上がれば秒速で相手を倒す山本KID徳郁など、無敵を表現するありとあらゆる言葉が、『隼人/さくら』には当てはまるだろう。

私はそれほど浪曲に詳しいわけではないけれど、とにかく隼人さんとさくらさんの浪曲は『凄い』のだ。言葉にするのは難しい。以前、『浪曲の情』として『浪情』なる言葉を発案し、『浪情が掻き立てられる』と書いたが、正に、その感覚があるのである。

味覚、触覚など人間には五感が備わっている。その全てを刺激した先にある『浪情』を誰よりも揺さぶり、高めてくれるのが隼人さんとさくらさんだ。生で見る迫力の凄さ。隼人さんの表情、さくらさんの表情、つまびかれる音色は、まるで感情という名の水が入った壺に、手を入れられてグルグルとかき回されるような感じである。

凄すぎて、言葉が出ない。

私にとっても思い出深い一席であるだけに、実に見事だった。

上手いとか下手だとかは私には分からない。

とにかく、感情の間欠泉が勢いよく吹き上がったことは間違いない。

圧巻の一席だった。

 

真山隼人/沢村さくら 朝一番

本来の演目のタイトルは、平仮名三文字で、最初が『う』で、終わりが『こ』である演目であるらしい。

もはやなんといって良いか分からないほど、超最高だった。

徹頭徹尾、勢いに押し切られ、腹が捩れ全身が『シライ・スリー』を越えるほど捻る。捻る。捻る。面白すぎて何がなんだか分からず、感情をぐちゃぐちゃにされて、ただただ笑うしか無かった。

丁度、キング・オブ・コントでどぶろっくが下ネタで優勝したが、正にあれと同じような雰囲気を、隼人さんの新作から感じた。

ひー、思い出すだけでも面白い。

絶対に見て欲しい。

隼人さんとさくらさんの、うPeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee

 

 桂紋四郎 三十石夢乃通路

前の演目を見事に一言で評価し、爆笑をかっさらった紋四郎さん。会場に浪曲好きなお客様が多いと感じられたのか、自らも舟唄の美声を響かせる『三十石』へと入った。

これも実に、約1年ぶりに聞く演目である。初めて紋四郎さんを見たときに見た『三十石』よりも、さらに凄くなっている気がした。

ごちゃごちゃと人が入り組んだりする場面や、色々な妄想に耽る男。勇ましい船頭の姿など、活き活きとしていて素晴らしい。一度でいいから、こんな風景のある船に乗ってみたい。

時代も海の流れも、穏やかに流れていた時代に思いを馳せるような、素晴らしい舟唄。鳴り物入りでいつか聴ける日が来るだろうか。

浮世は夢だと誰かが言った。人生は船旅に似ているのかも知れない。誰が船頭かもわからぬままに、舟は進み、それぞれが思い思いの場所で降りる。

束の間の浮世のひと時に、同じ場所で同じ時間を過ごし笑いあっている奇跡。

ああー、のんびりと。

ああー、のんびりと。

私も人生を過ごそうではないか。

そんな風に思える。素晴らしく、思い出深い一席だった。

 

総括 終わりの無い上方落語ブーム

上方落語好きが昂じて、天満天神繁昌亭まで行き、どっぷりと上方落語に浸かった日々を思い出す。紋四郎さんのおかげでたくさんの素晴らしい上方落語家を知り、繁昌亭では運命に導かれるかのように、様々な噺家さんに出会った。思い出深いのは露の都師匠や、桂九ノ一さん、森乃福郎師匠や笑福亭福笑師匠。

貞橘先生の会でゲスト出演された南湖先生や、紋四郎さんの会に出演された南龍先生など、上方講談界も熱い。上方浪曲界には真山隼人さんや、京山雪乃さん、京山幸枝若師匠や三原佐知子師匠など、名人と呼ばれる人々も数多く存在している。

上方落語には、江戸落語とは異なるものが数多くある。Twitterを見れば桂米紫さんがご活躍されている。個人的に注目は桂吉の丞さんや桂吉坊さんで、いつか東京で独演会をやってくれないかと待ち望んでいる。吉の丞さんの語り、めちゃくちゃすっきやねん(急な関西弁)

若手からベテランまで、熱い情熱と知性を軸にそれぞれの個性を磨き上げて行く上方落語。もちろん、江戸落語だって等しく素晴らしいのだけれど、『隣の芝は青い』ということわざにもあるように、大阪に住まわれている方々が羨ましくて仕方がない。きっと、東西で同じ思いを抱いているのかも知れない。

一つ期待するとすれば、私のように趣味で演芸のブログを書く人が、上方にも存在してくれたらいいな、という思いである。そうすれば、その人を通して、上方落語がどのようなものか、なんとなく知ることができる。

もしも、既にそんな方がいるのならば、会って話がしてみたい。東西で趣味で演芸ブログを書く者同士、積もる話もあるだろうと思う。

さて、話しをまとめよう。

まだまだ上方落語の風は吹き止むことなく、浪は大波となって人々の感情を揺さぶっている。講談の張り扇の音が、東京に響くとき、上方も江戸も渾然一体となって、日本の演芸の未来を活気づけて行くのではないだろうか。

はぁ~、なんと楽しみであることか。

なんと、

なんと、

 

 なんと楽しみだろう!!!!

 

今まさに、その未来の途上にいる自分の運命が嬉しい。

私も私なりに、素晴らしい芸人さん達に言葉を費やしていきたい。

それでは、読者が素敵な演芸に出会えることを祈って。

いずれ、どこかでお会いしましょう。

ほな、さいなら~