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自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

いつまでも少年のままで~2019年11月10日 渋谷らくご 17時回~

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毎日を生きよ。

あなたの人生が始まった時のように。 ゲーテ

 

将棋

渋谷らくごの行われるユーロスペースへと続く道を歩いていると、『将棋の最善手』を選んでいる感覚に近いものを感じた。

坂を下ると、色んな姿の若者達が群れている。クラブがあったり、ライブハウスがあったり、欲望のビルがあったり、匂いのキツイ店があったり。そういう、色んな選択肢を省いて、最善の一手が『ユーロスペース』なんじゃないだろうか。僕が選択せずに候補にもあげなかった選択肢が、あちこちにある。でも、僕が選んだ一手は間違いなく、僕にとって『最善手』であるような気がしたのだ。

どうして急にそう思ったかは分からない。それでも、渋谷らくごへと続く道を歩いていると、僕は羽生善治先生のような心持ちになって、最善手を選んだ気持ちになるのだった。

 

神田鯉栄 寛永宮本武蔵伝~狼退治~

鯉栄先生の高座は、アドレナリンが放出するんじゃないかと思うほど、力強くて熱くて、とてもキュートだ。語りの緩急はまるでランボルギーニのように加速するし、軽やかな狼の所作が可愛らしい。

オオカミ同士の会話の場面も、客席を巻き込んで大盛り上がり。演者と観客が渾然一体となって一つの噺にのめり込んでいく。

初めて一緒にいった友達は、「犬の場面が可愛かった」と言っていた。飼い犬の鳴き声を演目に入れ、グッと親しみやすい高座を作り上げる鯉栄先生。

思わず犬の遠吠えを真似してみたくなる。

 

 入船亭扇里 三井の大黒

高座はお初の扇里師匠。マクラ少なに甚五郎ものの演目へ。友達は「言葉がわからなくて、途中、良く分からないところもあったけど、後から聞くと、ああ!そういうことか!ってわかった」と言っていた。

簡素でさっぱりとした語りの中に、骨太の芯を感じる語り口。派手さは無いが名工が彫刻で丹念に彫り上げるかのような語り口。色は無く、語りの強弱もさほど大きくはないが、耳馴染みが良くて、まるで精進料理のような一席。日頃、味の濃い一席を聞いているせいか、ふいに飾り気のない語りを聞くと、心が整う気持ちになる。

まだ一席しか聞いたことは無いが、物語の筋の魅力を邪魔しない語り口。実に見事な一席だった。

 

 古今亭駒治 車内販売の女

鉄道を知らなくても楽しめる鉄道落語をされる駒治師匠。知っていたら面白さは何十倍にも跳ね上がる鉄道落語。あらゆる面白さを秘めた、落語と鉄道の世界へと誘う魅力的な話をする噺家さんである。

落語初体験の友達は「三番目の人が一番面白かった。こんな落語もあるんだね!」と言っていて、新作落語は初心者の方にも好評のようだ。

僕も『車内販売の女』を聞いたのは初めてで、なんと言っても、最後のポーズ。最後のポーズがめちゃくちゃカッコイイ。思わず「うわ、あのポーズやりたい・・・」と思ってしまうほど、オチと同時のポーズがカッコ良かった。

駒治師匠の語りのリズムは唯一無二の機関車リズムで、豪快に動く口と上半身が凄い。笑える話かと思いきや、どことなく泣ける部分もあって、「これ、もはやスター・ウォーズやん・・・」と思ってしまうほど、実に見事な一席だった。

ダークサイドに落ちたマキさんを救おうとする、ジェダイの騎士、タカコ(?)の姿が印象深かった。ありえない肉体改造をするマキの執念にびっくり。

 

 入船亭扇遊 夢の酒

実はほろ酔い気分で落語を聞いていた僕は、丁度駒治さん辺りで目が覚めてきて、トリの扇遊師匠で開眼して聴いた。

初めての落語体験をした友達は「凄い新鮮で面白かった」と言っていた。

この度紫綬褒章を受章したというおめでたいニュースもあった扇遊師匠。賞をとっても相変わらず最高の笑顔と語り口。これぞ、ベテラン世代の語り口とも呼ぶべき圧巻の語り。特に女将さんの声の高低差が素晴らしい。リアルで笑ってしまう。

お酒好きの登場人物を出したら天下一品。極上の語り口に、ただただ笑うしかない。

 

総括 酔った少年

シブラク前にたらふく食べて、たらふく飲んでしまったせいか、あまり記憶が無い記事になった。でも、最高だったという感覚だけはあるので、それで良しである。初めて行った友達も満足してくれたので、文句は無い。

他に言いたいこともたくさんあった気もするのだが、それはまた、別の機会に語ることにしよう。とにかく、駒治さんがめっちゃカッコ良かった。