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自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

まっつぐだから曲がれない~2019年12月27日 鈴本演芸場 琴調六夜 千秋楽~

あたしゃ生まれた頃からまっつぐ育ち

曲がったことが大嫌い。

免許だってS字クランクが合格できなくて

いつまで経っても取れやしない。

馬鹿で結構。笑いたきゃ笑いやがれ。

あたしゃ天下に恥の無い

まっつぐ生まれのまっつぐ育ちよ 

Straight To Hell

アルファベットを辿るように、AからZまで街を旅してみたい。神様の辞書から言葉を引用して、世界の秘密を解いてみたい。地獄も天国も渡り歩いてみたい。やりたいことばかりが募って、結局できないまま、街を歩く一つの影。

確かNIne Inch Nailsが『俺は誰かのコピーのコピーのコピーで、俺の言うことの全ては、以前誰かが言っていた言葉』みたいな歌を歌っていた。その歌詞を見たとき、ちょっとドキッとした。オンリーワンな自分という存在が揺らいだ気がして、眩暈がしたのだ。

でもまぁ、ネットのどこを探しても、私と同じような人はいないし、多分大丈夫だろうなと思う。誰かの言葉を借りているだけに過ぎないのかも知れない自分の言葉も、自分だけの言葉だと信じて書かないと、ブレブレである。

さて、キンチョーの冬である。去年も参加した琴調六夜。去年は中村仲蔵を聴き、今年は次郎長伝よりお民の度胸を聴く。

この番組は客席も面白い。講談ファンと落語ファンが混在しているから、どんなことになるやら想像が付かない。個人的な印象だが、講談ファンの方はカッチリされているから、あまり笑うということが無い。講談会でゲラゲラ笑い、やたらと拍手が大きくて耳を塞がざるを得ない人はごく稀にいるが、殆どのお客様はじっと耐えるように聞いている人が多い気がする。歯を見せたら負けとでも思っているのかも知れない。かの三島由紀夫は人前で絶対に欠伸とくしゃみをしなかったというから、そういう意識の高い人が多いのかも知れないと思う。と、一概に言い切ってしまうと、講談ファンから張り扇で尻を叩かれかねないので、何とも言えないが、割とスーツを着て、キッチリとした恰好で講談を聴いている人が多く、ジャージしか無かったころの自分だったら、絶対に講談会には行けないな、と思う。

落語ファンとの比較になって申し訳ないが、落語ファンは結構のんびりしている印象である(あくまでも個人の意見です)落語家さんだろうが講談師さんだろうが、たとえ高座で真剣に話していても、パリパリと音を鳴らしながらお菓子を食す。そういうマイペースな人が、割と落語好きには多い気がする。番号順なのに友人の席を確保したり、携帯を鳴らしたり、寝たりする。講談ファンと比べると、若干自己中な人が多いのではないか。と書くと、これも落語ファンから大批判を浴びかねないので、あくまでも『一部』としておきたい。少なくとも、このブログを読んでいるあなたは、常識があり、品があり、知性に富み、美しく、沈魚落雁な人物であることは私が保証する。読んでいない人に関しては、当てはまる可能性がある。とだけ書いておこう。(これはフォローできているのか)

気持ちの良いくらいの自己中は、自分に影響を及ぼさなければ見ていて気持ちが良い存在である。『振り切れている人』は誰が見ても面白い。また、今までに無い捉え方をする人も私は興味深く観察する。以前ツイートで、『文菊人間味無い』と呟かれた方がいて、「おお、凄い。そんな風に見えるのか!」という驚きと感動があった。さらには「演芸ファンのアカウント、興味深い内容は一つも見当たらない」みたいなことも呟いていて、「おお、すげぇ。マジか~」と嬉しくなって小躍りしたくらいである。なんとか、こういう方にも「演芸ファンって素敵ですね」と思って頂けたら幸いである。少なくとも、私がお会いした方々は、もれなく興味深かったし、色んなお話を教えてくださるし、語り合えば語り合うほど落語が好きになっていく。そういうことを分かってほしいなーと思いつつ、記事を書く。

 

 林家八楽 子ほめ

林家二楽師匠門下の八楽さん。そう、紙切り芸の師匠のお弟子さんなのである。どういうシステムかは分からないが、紙を切らず落語を一席披露される。楽一さんも二楽師匠も正楽師匠もそうだったのだろうか。それほど長く見ていないので分からないが、初めて見た時は衝撃的だった。

なんというか、ちょっと不思議なのである。八楽さんの中にある隠居さんと八五郎の感じが、なぜか、私には不思議だなぁと思えるのである。その正体は良く分からない。

 

 柳家勧之助 熊の皮

声質から佇まいから素敵な勧之助師匠。薄紫の雰囲気を漂わせながら、演目へ。

振り回される甚兵衛さんと、振り回す女将さんとの対比がとても面白い。夫婦の演じ方は人によって好みが分かれるけど、甚兵衛さんってつくづく可哀想な存在だなぁと思う。

面白かったのは、甚兵衛さんを迎え入れたお医者の先生の態度。この演目の一番の見どころとも言える、医者の優しさというか、懐の深さが見える。会場が爆笑に包まれ、汗だくになって高座を去っていく勧之助師匠。

 

宝井琴柳 笹野名槍伝より海賊退治

去年も書いたが、とにかくカッコイイ琴柳先生。しゃがれた高音のハスキーボイスが絶品。途中でくすっと笑える小ネタも挟みながら、笹野権三郎という勇ましい男の姿を活写していく。今更私が言ったところで何だが、とにかくカッコイイ先生である。

 

 宝井琴鶴 エルトゥールル号の遭難〜山田寅次郎の足跡

去年は琴柑だった琴鶴さん。名前を新たに真打昇進。マクラから話に入った瞬間に切り替わる語りのトーンが勇ましい。張り扇も去年ほどは振り上げている感じは無い。それでも、パンッと一度音がなれば、会場はシャキッと締まる。

語られたのは日本とトルコの間に起こった心温まるお話。和歌山県串本町と言えば、民謡の串本節でも有名な場所である。

一度行ってみたい。素敵な講談だった。

 

 柳家喬太郎 夢の酒

毎回、何度見ても面白い師匠。語るに及ばず。会場は爆笑に包まれていた。

 

 宝井琴調 清水次郎長伝よりお民の度胸

マクラでは『玉川太福読本』に関するエピソードを語りながら、本題へ。

浪曲で聞いていたおかげか、身受山の50両や都鳥の話がスッと入ってくる。

なんと言っても、森の石松を匿う場面、そしてお民の肝の据わった勇ましい心。

そして、その後に訪れる石松の最後。

「馬鹿は死ななきゃ治らない」という言葉があるが、石松の最期は、まっつぐに生きた男だからこそ、曲がれなかったのだろうという気迫を感じた。

素晴らしい語りで終演。