落語・講談・浪曲 日本演芸なんでもござれ

自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

いつも心に演芸を~2019年12月31日から2020年1月1日 連雀亭 年末カウントダウン興行~

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宝くじは買わない だって僕は

お金なんかいらないんだ

忌野清志郎『宝くじは買わない』 

 

寅の日

2019年12月31日は寅の日である。大安吉日で寅の日ときて、『お帰り、寅さん』がやっているとなれば、見に行かない道理などどこにもない。

今年で50周年を迎えた寅さん。それほど詳しいわけではないが、シリーズの幾つかの作品は見たことがある。

で、『お帰り、寅さん』を見た。

泣いた。これでもか、というくらいに泣いた。最後の場面など、目から滝でも流れるかのように熱い涙が零れた。

良かった。とんでもなく良かった。寅さんが物語の中で生きていたし、何よりも見る者の心の中に寅さんがいた。良かった。とんでもなく良かった。

泣きはらした眼をこすりながら、ぼんやりと歩いた。どこかに寅さんがいる気がして、風に向かって小さく「寅さん」と叫んでみた。「あいよ、呼んだかい?」なんて声が聞こえてくるようで、映画館を出た後でも涙が込み上げてきた。

殆ど私は満男だった。見る人が見れば、満男がどういう人物が分かるだろう。

生きてて良かった。そんな瞬間が何度もある人生を生きながら、私は一体どこへ行くのだろう。そして、どこでその生涯を終えるのだろう。

アウレリャノ・ブエンディア大佐は、長い年月の果てに銃殺隊の前に立ったとき、自分が初めて氷を目にした時を思い出す。私は一体何を思い出すのだろう。

きっと笑顔だろう。愛しき人の、出会った人の、それまでの人生で出会った人の、笑顔だろう。良く分からないけれど、そんな気がしてならない。

連雀亭の列に並んだとき、まるで残像のように人々の姿が見えた。どこもかしこも蕎麦屋は行列で、みんな蕎麦を食べて年越しをしようとしている。

蕎麦を食べて、ゲンを担ぐのだろうか。

来年も、あなたの『そば』に、と。

さて、今回は、去年の12月31日から常に楽しみにしていた『年末カウントダウン興行』である。去年は、色々な不安(?)やサプライズに包まれながら、第一回を終えた。まさしく『伝説』の一夜だった。

再び、私は『年末カウントダウン興行』に参加した。去年よりも圧倒的に人の多い客席。そしてバラエティ豊かなメンバー。

最高の一夜。その一夜の記録を記していくことにしよう。

 

 三遊亭鯛好 饅頭怖い

トップを務めたのは、笑点のピンクのお着物でお馴染み、三遊亭好楽師匠の五番弟子にして、ラジオ大好きの三遊亭鯛好さん。ICレコーダーで2倍速でラジオを聴くほどのラジオ好きである。1969年5月8日生まれの50歳。2009年に前座さんということなので、40歳での入門ということになる。最近では立川寸志さんや春風亭柳若さんなど、歳を重ねた二ツ目噺家さんが活躍されているので、鯛好さんもその一人だろう。

ラジオ好きのためか、枕がとても面白い。そのままラジオDJになって何か深夜のラジオ番組をやっても問題ないくらい、話が面白くて印象に残る。詳しくは書けないけれど、枕で語られたまさかまさかの展開はとても面白かった。柳家緑太さんと並んで、枕が面白い噺家さんである。

『饅頭怖い』も随所に捻りが効いていて面白い。特に私は『蟻』のくだりが最高だった。定番の内緒話かと思いきや!という部分なので、是非聞いて頂きたい。

眼差しの優しさと、語りの中に愛嬌のある雰囲気があって素敵である。枕の話も、なんだか許せてしまえるような愛嬌がある。時折、自虐的でありながらも、明るくてカラッとした雰囲気が好楽師匠譲りなのだろうか。好楽師匠の醸し出す『愛される人物感』は他のお弟子さんにも共通しているような気がする。兼好師匠など、まさに『誰からも愛される雰囲気』を持ち、『誰でも幸福にする雰囲気』の持ち主である。

そんな好楽師匠の愛嬌を受け継いで、素敵な一席を見せた鯛好さん。名前に『鯛』がついて縁起の良い開口一番だった。

 

桂鷹治 桃太郎

お次は十一代目桂文治師匠の一番弟子、桂鷹治さん。貫禄十分の見た目と落ち着き払った雰囲気が素敵である。1989年6月22日生まれの30歳。プロフィールを見るとかなりの多趣味で、岡崎生まれの岐阜育ちとのこと。

鯛の次が鷹で、お話が桃とあって、実に縁起がいい二席目である。

くりっとした眉と、がっちりとして安定感のある体躯。そして柔らかく流暢な語りのリズムが心地よい。ちょっと憎たらしい子供であっても、愛嬌があって憎めない。十一代目文治師匠の語りにある『どっしりとした安定感』を感じさせる語りが素晴らしい。

ウィキペディアを見ると、岐阜の落語研究会に所属し、アマチュアの大会で優勝する腕前。去年は『身投げ屋』をやって渋い一面を見せていたけれど、今回は早い段階の出演とあって、寄席でも良く掛かる一席を見事に語っていた。

最近では、『芸協カデンツァ』を組んで、西新宿のミュージック・テイトでも高座を務めている。成金に続いて、羽ばたく存在が誕生するのか。とても楽しみな噺家さんである。

 

快楽亭ブラ坊 町内の若い衆

第一部の三番手は快楽亭ブラック師匠門下の一番弟子、ブラ坊さん。昨年は信じられないほどヤバイ状況でありながら、芸一本で乗り越えた凄まじいタフさを持つ噺家さんで、尋常ではないバイタリティに溢れている人である。1986年1月31日生まれの33歳。もうすぐ誕生日。

これは見た感じの印象であるが、『人生を楽しんでいる人』という感じがする。面白いことに目が無くて、困難を物ともしない精神力。生き方そのものが巨大戦車のような重厚感。嵐が来ようが雷が来ようが、笑ってふらふらっと乗り越えてしまうような、底の知れない生命力を感じる。

上方の桂ぽんぽ娘さん、芸協の瀧川鯉白さんらとともに、落語艶芸ユニット『Pan☆Tee』のメンバーである。昨年は単なるエロい人かなと思いきや、並外れたタフさに底知れなさを感じ、今後どうなっていくのか気になる噺家さんになった。

師匠である快楽亭ブラック師匠の高座を見たせいか、好きなものにはトコトンの人であるようにも思える。今はエロスが目立つが、今後はどんな風にエロスを推していくのだろうか。演目である『町内の若い衆』はオーソドックスでありながらも、随所にブラ坊さんらしいカラッとした逞しさがあって面白かった。

私個人としては、ドエロい一席も見てみたい。

 

 らく兵 勘定板

四番手はらく兵さん。去年同様、亭号の無い理由はお調べ頂くとして、独特の語りが凄まじい噺家さんである。1977年5月8日生まれの42歳。

私は立川談志師匠という噺家をテレビでしか見たことが無いが、一番『談志らしさ』を感じるのがらく兵さんである。これは個人的な談志師匠へのイメージに、らく兵さんが一番近い雰囲気であるという意味である。

幾つかの小噺で会場の雰囲気を探るらく兵さん。先ほどのブラ坊さんの若干のエロもあってか、らく兵さんの小噺に大爆笑の会場。

余談だが、連雀亭カウントダウン興行に参加されるお客様は、とにかく陽気なお客様であると思う。落語の楽しみ方が私に近い人と言えば良いだろうか。語弊があるといけないが、高額な落語会に参加されるお客様のような「笑わせてくれるんだろう。凄い演目を聞かせてくれるんだろう」という過度な期待が一切ない。むしろ、積極的に「笑いに行く」という姿勢があって、それが演者と相まって最高の雰囲気を作り上げているのである。

だから、私は年末カウントダウン興行が好きなのである。昨年は、まさにそんなお客様方の雰囲気を如実に感じたのである。これから三十年、四十年と関わっていくことになる二ツ目噺家さんの芸に、全力で笑いに行き、楽しもうという静かな熱意が会場には満ちていて、それが12月31日という2019年の終わりに、とんでもない奇跡を起こしているような気がするのだ。

そして、そんなお客様方が30名近く連雀亭に集まっている。この後に満席になるのだが、信じられないほど楽しい雰囲気が出来上がっていた。もはや何をやっても爆笑の渦に巻き込まれる、特別な連雀亭が出来上がったのである。

さて、大爆笑の小噺で決意を固めたらく兵さん。談志師匠が生前、良く高座に掛けていたという『勘定板』を語り始めた。

これがとにかく最高なのである。言葉の認識のちょっとしたズレが巻き起こす、とんでもない面白さ。ノリノリのらく兵さんと、爆発し続ける客席。まさに笑いの混沌に包まれた会場で、指揮棒を振り続けて笑いの大渦へと観客を誘うらく兵さん。まさにイリュージョンの一席が、そこに起こっていた。

なんと面白い一席であろう。特に、「勘定板を持ってこい」というような発言からの、オチまでの流れがとにかく面白い。らく兵さんの語りの気持ち良さに、まるで機関銃を放つかのようにゲラゲラと笑いに包まれる会場。渦、渦、渦、まさに笑いの鳴門海峡。うねりをあげて会場が揺れんばかりの爆笑が巻き起こっていた。

金明竹』、『親子酒』、『勘定板』と、まだ三席ほどしか聞いていないが、いずれもめちゃくちゃ面白い。語りのリズムと、狂喜の表情、何とも言えない不思議な雰囲気、全てが渾然一体となって、凄まじいまでの爆笑を巻き起こした一席だった。

 

凄まじいぜ!!!

 らく兵さん!!!

 

 春風亭一左 ふぐ鍋

第一部のトリは、春風亭一朝師匠門下、四番弟子の一左さん。キリっとした切れ目と、溌溂とした気風の良い語り。2020年3月下席より真打昇進の噺家さんである。1979年2月17日生まれの40歳。

兄弟子には柳朝師匠、一之輔師匠、三朝師匠。弟弟子には一蔵さんや一花さんがいるなど、間に挟まれて私が思うに『マフィア派』に属する一左さん。

師匠譲りの江戸前の語りと、表情が素敵である。以前、ふぐ鍋の一席は見たことがあるが、互いにふぐを食べ合う場面での表情がたまらなく面白い。

真打に昇進し、寄席でどのような高座を見せてくれるのか、とても楽しみな噺家さんである。

 

第一部総括 全派集結 年末へ向けて全力前進

円楽一門の鯛好さん。落語芸術協会の鷹治さん、立川流のブラ坊さん、らく兵さん、落語協会の一左さんという、第一部だけで都内の四派を制覇する構成。

いずれも盤石で第一部に相応しい、それぞれの個性が光る演者の並び。特にらく兵さんの爆発力が凄まじかった。昨年はトークもあったが、今回は無し。

誰が来るか分からないというミステリーな落語会。メニューの分からないコース料理を頼むドキドキ・ハラハラ感を存分に味わった第一部だった。

さて、お次は天歌さんが「カオスゾーン」というようなことを仰った第二部。

どうなる!?第二部!

 

 桂優々 動物園

第二部のトップバッターは上方から桂優々さん。何度も仰っていたので覚えてしまったのだが、桂米朝師匠の弟子の、桂枝雀師匠の弟子の、桂雀々師匠の弟子の、桂優々さんである。物凄い系譜に連なる、まさに上方落語の本流に連なる噺家さんである。1986年1月8日生まれの33歳。もうすぐ誕生日。

高座を見るのは初めて。枕でちょっとしたハプニングもありつつ、演目の『動物園』は絶品の一席だった。

特に主人公が虎の皮を被る描写の細かさ。ヒーローの変身をじっくり見ているかのようなリアリティ溢れる描写によって、目の前に立ち上がってくるのは、移動動物園で虎をやらされる主人公の姿。

檻の外にいる人物に対する主人公の対応がめちゃくちゃ面白い。真剣に虎に徹しない主人公の不真面目さが振り切れていて、ダイナミックで力強い。私はまだ雀々師匠の高座を見たことは無いが、チラシから伝わってくる勢いが、優々さんにも受け継がれているのかも知れない。

何せ、あの枝雀師匠の系譜に連なるのである。その枝雀師匠の圧倒的なまでの熱意を極限まで継承し、突き詰めたのが雀々師匠だと、高座も見ていないのに勝手に思っているが、そうした上方落語の熱というのは、桂九雀師匠や、そのお弟子さんの九ノ一さんを見て感じる。とにかくアツいのである。その熱に、私は惹かれる。どことなくクールな江戸落語の青さと、真っ赤に燃える上方落語の情熱。この二つを味わうと、落語がますます好きになるのではないだろうか。もちろん、何に熱を感じるかは人それぞれであるが、少なくとも私は、上方の噺家さんには燃えるような熱を感じるのである。

ご結婚もなされて、ますます芸に磨きのかかっていくであろう優々さん。今後、どんな高座が見れるのか、とても楽しみな噺家さんである。

 

 橘家文吾 磯の鮑

二番手は橘家文蔵師匠の一番弟子にして番犬1号の文吾さん。昨年は色々とありながらも二ツ目に昇進し、一気に才能を開花させている凄まじい噺家さんである。1991年12月12日生まれの26歳。

とにかく畳み掛けるような語りのリズムと、表情の緩急のキレ味が鋭い。立て板に水の語りと、にやりと笑いながら話の世界を楽しんでいる様子が見ていて気持ちが良い。

パンパンの客席が生み出す、未曽有の笑いの世界にどっぷりと浸かって、気持ちよさそうに縦横無尽に爆笑を巻き起こす文吾さん。喩えるならば、芯の太い包丁を美しく振り回しながら、魚を見事に切って極上の刺身を作り上げるような感じ。包丁で魚を捉える眼もさることながら、無駄の無い包丁捌きに思わず見とれてしまう。

与太郎の間抜けさが痛快なのである。色んな人にからかわれながらも、与太郎が言葉を信じて吉原に突撃し、ハチャメチャに搔き乱す場面は痛快爽快である。与太郎に突撃された女郎屋の慌てぶりも最高で、相手をしなければならない花魁の不幸っぷりがとにかく笑えるのである。映画で言えば殆ど『ランボー状態』である。圧倒的なまでの『間抜けさ』で、全てをなぎ倒していく超迷惑人間の与太郎が最高だった。

どっかんどっかんと会場が大爆笑に包まれた素晴らしい一席。

 

宝井梅湯 快男児

三番手は前半二人の爆裂っぷりの後で、ピシッと場を引き締める梅湯さん。宝井琴梅先生門下。1976年7月26日生まれの43歳。

この絶妙の出演順。最高である。もしも自分で落語会を開くとしたら、前半二人は暴れん坊にし、三番手で講談師で場を引き締め、最後は浪曲で泣かせにかかるという構成にするかも知れない(そんな日が来るかは分からないが)

それほどに、絶好の位置で登場の梅湯さん。しっとりと縦の感覚を意識させるような語りで始まった快男児

じっくりとした語りの中に、威勢の良い声が飛び出す高低のある一席。

内容については

新講談。西郷隆盛(たかもり)の部下仁礼半九郎(にれはんくろう)の伝。

婚約者との再会を念じて、城山(しろやま)より逃走した仁礼は、南洋に新日本列島を発見ののち自殺する。

原作は『朝日新聞』連載の西村天囚(てんしゅう)の『快男児』(1893刊)。2代大島伯鶴(はっかく)が得意とした。

引用先:https://kotobank.jp/word/%E3%81%8A%E3%82%82%E3%81%AA%E8%AC%9B%E8%AB%87%E3%81%AE%E6%BC%94%E7%9B%AE-1614445

じっくりと仁礼という人物の男としての性格と、女性に出会ったのちの転換を物語ながら、激動の時代に引き裂かれる男と女の姿を見事に描き出す。

決して派手さがあるわけでもなく、笑いどころも多いわけではないが、『聞かせる』講談であることは間違いない。耳馴染み良く、また惹き付けられる語りには、前半二人の畳み掛ける語りには無い、華道のような、花留めにゆっくりと花を挿していくような清廉さがある。

がらっと締まった会場の雰囲気。落語好きなお客様が多いせいか、どこかぼんやりとするかと思いきや、意外とガッチリした雰囲気となり、トリの浪曲に向けて体制の整った雰囲気があった。梅湯さんのじっくりとした語りが素晴らしい一席だった。

 

港家小ゆき/沢村美舟 最強主婦伝説 ひまわりマート戦記

トリを務めたのは浪曲。お初の港家小ゆきさん。故・五代目港家小柳師匠門下の一番弟子。2012年2月の入門で芸歴7年。とてもお若く見える5月4日生まれ。金髪が印象的。

曲師の美舟さんは新婚ホヤホヤ。浪曲界の人間国宝と言っても過言ではない沢村豊子師匠門下。美しい瞳を持ち、魅惑の音色で浪曲師そっちのけで見てしまうほどの美貌。世の若き男たちよ、曲師になるなら今です!

さて、そんな美人二人が披露するのは主婦の物語。新作なので詳細については避けますが、登場する人物の名前と性格が面白い。

日常の風景に個性あふれる主婦が登場することによって、こんなにも面白い一席になるのかと驚くような一席。タイトルだけで笑ってしまう面白さがある。

美しく芯のある声と、しっとりとした語りのリズム。滑らかな節を導くように響き合う三味線の音色。

スーパーマーケットで繰り広げられる女たちの知能戦。他にも『サラダ太閤記』や『陰謀の赤ずきん』などの面白そうなタイトルから、『銀河英雄伝説』なども手掛けている。

今後も新作浪曲を聴く機会に恵まれたら、聴きたい浪曲師である。

 

 第二部総括 カオスゾーンの果てに

優々さんと文吾さんが爆笑をかっさらい、ホクホクに温まった会場に若干の疲れが見えるかと思いきや、梅湯さんのじっくりと引き締める勇ましい講談と、小ゆきさん/美舟さんの美しい浪曲の調べによって、絶妙に気分転換ができ、体力も回復の第二部。正直、一部から年明けまで聞き続ける人間にとっては、物凄く体力の配分が難しいのだが、後半折り返しに向けて素晴らしい出演順となった。既にこの段階で満席。一部から客席にいるお客様も山のように一歩も動かないという気合の入りっぷり。去年の光景を見ているだけに、嬉しい限りの客席の熱気である。

こんなにも落語を愛している人が連雀亭に集まっているという奇跡。出演される演者さんもさぞ気持ち良かっただろうと思う。個人的にはお初の優々さんと小ゆきさんを見ることが出来て良かった。

さて、第三部は、ネタも多く出てきて、内容が重ならないようにしなければならない。寄席では『ネタが付く』というのだが、同じような内容の演目は避けなければならない。そこで、実力もネタ数もあり、かつさっぱりとした個性を持った『薄味』の噺家さんが登場するとのこと。

さて、年越しに向けて後半戦。一体どんな演者が飛び出すのか、ワクワクの第三部、開演。

 

 三遊亭吉馬 やかん

トップバッターは三遊亭圓馬師匠門下の三番弟子にして、力強く骨太で、逞しい高座が魅力の三遊亭吉馬さん。前座名を『馬ん長』と名付けられていたほどであるから、まさに『組の長』としての風格を持つ分厚い個性の噺家さんである。1989年5月2日生まれの30歳。三遊亭遊かりさん、桂伸べえさんと三人で『新作一年生』という会を開くなど、新作も作る噺家さんである。

落語協会で言えば柳家小もんさんに近い。『この人が出れば乙な落語の雰囲気だよね』という安定感のある噺家さんである。何と言っても語りの勇ましさは絶品。張りのある声と、太い眉と、気風の良い語りのリズム。船頭とか番頭とか、何か大勢の人々を指揮するような風格がある。

演目の『やかん』も、まさに吉馬さんの魅力全開の熱い一席である。『やかん』の由来を問われたご隠居が、その由来を講談調に語る場面は圧巻である。勢いのある噺家さんで聴く『やかん』は実に気持ちが良い。

師匠譲りの芯のある語りと、大きな旗を振って前進していくような勢いのある語り。今後、ますます勢いを増して、熱い高座を見せてくれるのではないだろうか。そんな予感のある、熱く、まさに落語!な雰囲気を見事に作り上げた一席だった。

 

 三遊亭ぽん太 時そば

二番手は三遊亭好楽師匠門下、七番弟子のぽん太さん。1985年2月24日生まれの34歳。法政大学の出身。

端正な面構えは役者の如く、語りの素朴さは正に正統派の語り。ピンクの着物を着て『よせよ~』と言っている好楽師匠からは想像も付かないほど、本格派の噺家さんである。名前がゆるキャラのような緩さだが、落語はとても朴訥として衒いが無い。

本寸法の『時そば』をじっくりと語る。後半の間抜けな男が不味い蕎麦に翻弄される場面も、実に丁寧に描き出す。

見た目からの印象だが、非常に真面目な雰囲気を感じる。これからどのような方向に成長していくのか、とても楽しみな噺家さんである。

 

三遊亭遊かり 紙入れ

三番手は三遊亭遊雀師匠の一番弟子にして、社会人として様々な職業を経験した後、2011年に落語に出会い、翌年に前座となった遊かりさん。

遊雀師匠譲りの底抜けの明るさに、遊かりさんにしか放つことのできない色気が魅力的な噺家さんである。私のような小僧は、遊かりさんの色気に『悩殺』されてしまいそうである。(ガチです)

噺家になった覚悟もさることながら、『悋気の独楽』や『女子会ん廻し』など、随所に遊かりさんの芯の通った力強さを感じる。遊雀師匠の遊び心というか、落語の登場人物の躍動感をそのまま受け継いで、自らの血肉として芸に昇華させている気がする。新作に果敢に挑戦したり、古典落語を磨き上げたりと、2019年はとても飛躍の年だったのではないだろうか。

2016年に二ツ目に昇進し、芸歴は7年。寄席で何度か見かけたことがあるが、見る度に凄まじくなっていく。特に『悋気の独楽』に関しては、相当磨きをかけていると思う。登場する女将さんの躍動感が見る度に凄くなっていくのである。

さて、演目の『紙入れ』である。前半二人のさっぱり塩味から、どっぷりアダルティな濃い味に見事に方向転換。思わず心の中で「お待ちしておりました!」と思ってしまうほど、十八番の一席。

妖艶な女将さんに翻弄される貸し本屋のシンキチ。俺はお前になりてぇよ。禁断の恋に手を出してみてぇよ。と、時間帯のせいか若干おかしくなりながら、そろそろ欲しいと思っていた大人の色気全開の『紙入れ』。羽織脱ぐ瞬間、ちょっとドキッとする。

落語における色気って、とても大事だなと思う。感じ方は様々であるが、文菊師匠の色気、遊雀師匠の色気、春蝶師匠の色気、菊之丞師匠の色気、菊丸師匠の色気など、様々に『色気』を感じさせる噺家さんがいる。遊かりさんの放つ『色気』には、酸いも甘いも噛み分けてきた女性の持つ色気があるような気がする(こんなことを言っても良いのか分からないが)

その色気には、『逞しさ』があるのだ。一所には留まらずに、自分の生き方を常に更新して肯定して推し進めていく『逞しさ』がある。私の目には、その『逞しさ』を含めた遊かりさんの力強さが魅力的に映る。転がり落ちた坂道を、また別の坂道を転がり上がって、高さを越えていくような強さがある。

それは、一歩を踏み出す決断に悩む人々の背を押すのではないか。どんな一歩でも、踏み出したからには進むぞ!という雰囲気を感じるのである。だから、遊かりさんが落語の世界に身を浸して、落語の登場人物を活き活きと描き出す様を見るのは、とても気持ちが良いのである。

これは想像であるが、遊雀師匠や遊かりさんの持つ『力強さ』や『色気』に惹かれている人は多いのではないだろうか。私はそういう人々を知っているし、そういう人達の力強さに、私自身が『憧れ』ている。

内容とは少しそれてしまったかも知れないが、今後、三遊亭遊雀一門がどのようになっていくのか、そして、遊かりさんが真打になる日、一体どんな光景が見れるのか、今からとても楽しみでならない。

 

 桂竹千代 掛け取り

四番手は、桂竹丸師匠門下の一番弟子にして、古代史を専攻し、2019年は『落語DE古事記』という古事記に纏わる本を出版された竹千代さん。1987年3月17日生まれの32歳。

師匠譲りの語りのリズムと、圧倒的なまでの古代史の知識に裏打ちされた含蓄のある落語が魅力的である。内容が分からずとも語りを聴いているだけでも面白い噺家さんである。

難しい名前ばかりが登場する古事記も、竹千代さんの手にかかれば分かりやすく噛み砕かれて差し出される。日常の出来事を引き合いに出しながら、わかりやすく神様のことを語る竹千代さんの高座は神々しい。

演目の『掛け取り』も、本寸法の古典落語かと思いきや、竹千代さんの得意分野である古事記のネタが差し挟まれる。自らの知識で古典落語に彩りを添える竹千代さんの手腕が素晴らしい。

師匠である竹丸師匠も、新作落語で道を切り開いた噺家さんであり、ラジオにテレビと多方面に活躍されている。竹千代さんも竹丸師匠の系譜に連なり、古代史では他の追随を許さない噺家さんになるのではないだろうか。

受験勉強などで古代史が苦手な方は、今すぐ竹千代さんの落語を聞きに行くべきである。溢れ出るほどの古代史への知識に触れて、ひょっとしたら落語の世界に飛び込んでしまうかもしれない。そんな魅力に溢れた絶品の一席だった。

 

 柳家吉緑 鈴ヶ森

トリは柳家花緑師匠門下、九番弟子の吉緑さん。にっこりとした時の笑顔がとても素敵な噺家さんである。花緑師匠のお弟子さん達が持つ『色気』を纏い、キリっとした眉とパンッと張った頬も愛嬌のある噺家さんである。

遊かりさんからの濃い流れを受けて、トリもどっぷりと濃い目の間抜けが登場する『鈴ヶ森』。泥棒のお話ということで縁起が良い。考えてみたら、噺家さんの名前は遊んだり、吉だったりと、色々と縁が良い。

泥棒親分と新米泥棒の性格の違いを、表情と声色で見事に描き分ける。特に泥棒に成り立ての男の間抜けっぷりが面白い。随所に笑える個所があって、間抜けな泥棒のドタバタな初仕事(?)が失敗に終わるまで、会場が爆笑に包まれた一席だった。

 

 第三部 結構濃い!持つのか、体力!

吉馬さんとぽん太さんまでは、「おお、本寸法であっさり、さっぱりだ」と思いきや、遊かりさんからの『濃い味三人衆』の流れに度肝を抜かれる。サラダを食べた後にいきなりステーキとビッグ・ボーイとフォルクスを回った感じ。

それでも、並外れた落語好きが集結している。こんなもので胃もたれを起こすほどの落語好きではない。会場は熱気に次ぐ熱気。このまま蒸発していくのではないかと思うほどの熱気である。

そして、いよいよ年越しに向けた第四部が始まる。第三部で数人のお客様が帰られたが、入れ替わるように席が埋まっていく。

昨年以上にパワフルな年末カウントダウン。ガッチガチに個性に溢れた四人が登場する、もはやラストスパート、全力疾走の第四部、開演。

 

春風亭吉好 ツンデレ指南

トップバッターは五代目春風亭柳好師匠門下、二番弟子にして、オタク落語で名を馳せる吉好さん。1980年12月12日生まれの39歳。なんと文吾さんと同じ誕生日。

お恥ずかしながら私は吉好さんの『紺屋高尾』しか聞いたことが無いのだが、溢れ出る優しい雰囲気と、柔らかい雰囲気が、師匠である柳好師匠の醸し出す雰囲気を受け継いでいるような気がして、とても好きである。

そんな吉好さん。開口一番でまさかのハプニングもありながら、ツンデレについて念入りに説明した後での『ツンデレ指南』

結論から言おう。

 

 めちゃくちゃ面白い!!!!!!!

 

私は悪い意味でオタクという言葉は用いない。特定の分野に情熱と金銭を注ぎ込んでいる、オタクと呼ばれる人々を尊敬している。そんな『オタク』の世界において、吉好さんの右に出る者は現れないのではないだろうか。それほどに、唯一無二して、たとえアニメオタクではない人でも楽しむことのできる新作落語、それが『ツンデレ指南』である。

古典落語好きにとっては『あくび指南』を知っていれば大笑いできるし、アニメを知っていれば、そちらで大笑いできるであろう。まさに古典×アニメという二大文化を組み合わせた究極の一席である。

正直、『紺屋高尾』のイメージが強く、「え、こんな雰囲気の人が、オタク落語やるの!?」と、些か疑問だったのだが、蓋を開けてみれば、連雀亭の会場が未曽有の笑いに包まれる。『ツンデレ』やら『ヤンデレ』のワードが飛び出す度に、引きつけを起こしたように会場にけたたましく笑い声が響き渡り、その笑いの中心にいる吉好さんがノリノリで言葉を紡いでいく姿は、まさに連雀亭、年末カウントダウンだからこそ起こるミラクルだったのではないだろうか。というか、『ツンデレ指南』を秋葉原のアニメオタクが初めて聞く場面に立ち会ってみたい。きっと、とんでもない事件になるのではないだろうか。世のアニメオタクの全てが度肝を抜かれ、内臓が飛び出るくらいに笑うのではないだろうか。

竹千代さんは古代史を古典落語に入れ、吉好さんはアニメを古典落語に入れて新作に変えてしまう。それまでの古典落語から、現代の、今まさに現在進行形の文化を混ぜ合わせることによって、ブーストされる落語の世界。物凄い時代である。ありとあらゆる文化が、落語をベースにして昇華されていく。

とんでもない爆笑によって、全身痙攣するかと思うほどの素晴らしい一席だった。吉好さんのオタク落語をもっと聴きたい!

 

 桂伸べえ 粗忽の釘

私のブログの読者であれば、言わずもがなの、生まれながらの噺家にして、島根が産んだ笑いの化身、桂伸べえさんが二番手で登場である。

改めて紹介すると、桂伸治師匠門下。1990年1月23日生まれ。ワン・ツー・スリーの伸べえさんである(意味不明)

もはや説明不要の面白さで、高座に上がった瞬間、マリオカートで言えばスターをゲットして虹色に輝きながら、触れる者全てを吹き飛ばしていくほどの凄まじい高座をする噺家さんである。無敵以外の何ものでもない。走り出した暴走列車は止まることが無い。レールが途切れるまで走り続けるのである。

なぜこんなに面白いのか。最初の頃は考えたのだが、結局、説明ができない。私は伸べえさんより面白い人を知らない。他の誰よりも面白い噺家であり、他の誰よりも私にとってベストフィットの噺家さんなのである。読者にもいるであろう、「この人が落語やったら、全部面白いよね」という噺家さんが。そういう人である。

料理で言えば塩みたいな人で、欠かせないのである。どんな料理にも入れざるを得ない。速水もこみちにとってのオリーブオイル。柳家小さん師匠にとってのあさげ、トニー谷にとってのそろばん。みたいなものである。

伸べえさんの面白さを、今更私が力説したところで、たった一回の高座の破壊力には敵わない。圧倒的に面白いのである。伸べえさんの面白さの前では、私の文章など小樽で作られたガラス細工くらいの脆さである。重戦車に轢かれ、一瞬でパリンッである(ちょっと喩えが良くない)

これも繰り返しになるが、伸べえさんの場合「この人が古典落語をやったら、一体どんな風になっちゃうんだろう!!!???」という、強烈な思いを感じさせてくれるのである。三遊亭笑遊師匠や桂南なん師匠の系譜に連なる、『くだらなさの真髄』を突き進む噺家さんではないだろうか。

この人を見ずに落語を聞くのは、かなりの大損だと私は言ってしまいたい。だが、落語好きな方は多様であるから、それを言い切ることはできない。それでも、古典落語に慣れ親しみ、「ちょっと飽きたな」と思う人がいたら、絶対に聞いた方が良い噺家さんであることは間違いない。

さて、演目の『粗忽の釘』である。ただでさえ面白い伸べえさんが、ただでさえ面白い演目を、普通にやって大爆笑を巻き起こす。伸べえさんの前では、全ての古典落語は勢いよく燃える着火剤となる。伸べえさんはマッチに火を点けて、それを着火剤に当てるだけで、天明の大火並みの大火事を起こしてしまうのである。

ちょっと褒め過ぎだと怒られそうだが、それほどに魅力のある噺家さんなのである。もしもまだ見ていないという方がいるのならば、2020年は必ず見てほしい。そして、「森野の言っていたことは本当だ!」と思うか、「森野は嘘つきだ!」と思うかはあなた次第である。私の言葉を信じてくれた人とだけ、私は友達になります(笑)

吉好さんの大爆笑の新作落語の後で、もはや異次元の大爆笑を巻き起こした伸べえさん。本人が読んでるか分からないですが、来年もよろしくお願いいたします。

 

月亭天使 雪の旅笠ー時怪談

殆ど前半二人が荒らしに荒らした荒れ地に舞い降りた上方よりの使者、月亭天使さん。月亭文都師匠門下。生年月日は公表されておりますが書きません。

私の親戚のおばあちゃんの若い頃にそっくりのお顔立ち(どうでもいい)

Twitterでは良くお見かけしていたし、なんか訳の分からないお偉い評論家さんに絡まれるという災難もありながら、お初の高座。そういう前情報を一切取っ払って聴いた高座は、とても面白かった。

というか、吉好さんから伸べえさんの流れの後では、正直、かなり出づらかったのではないだろうか。もしも私が天使さんの立場だったら、正直出るのを躊躇って、天歌さんか誰かにワンクッション挟んでもらっているかも知れない。それほどに、立て続けに違うワールドを見た後で登場の天使さんだった。

雪女のような白い着物の後で、枕で探るように客席の様子を伺いながら、前半の梅湯さんが講談で締めたように、怪談でしっとりと場を締めた天使さん。

結構早口だった伸べえさんの畳み掛ける語りのリズムの後で、じっくりと、ゆったりと、声のトーンを落として緩急を付けた天使さんの語り。素朴な語りが急に肥大した瞬間、前の席のお客様も思わずビクッと反応する怪談の語り。

まだ一席しか見ていないので何とも言えないが、東京の噺家さんに囲まれながらも、見事に会場の雰囲気を年越しに向けて締めた一席。他の一席も是非聞いてみたい。

 

 三遊亭天歌 暴走族

四番手は、『年末カウントダウン』の番頭にして、昨年のトリで『Who』の大名演を見せた天歌さん。2019年に四代目三遊亭圓歌を襲名した噺家さんの門下で、一番弟子。1982年7月22日生まれの37歳。宮崎県宮崎市の出身である。私の勝手な印象だが、宮崎県の出身の方々は、皆さん思いやりがあって優しい印象。宮崎を旅した時は、やたら高額なバスチケットに騙されたり、やたら宮交シティに連れて行かれそうになったり、市内のバスがとにかく不便で、主要な観光地を効率良く巡れない等の不満に苛まれた。きっと、そういう災難を乗り越えているから、宮崎出身の人は優しいのだと思う(どうなんでしょう)

様々なハプニングに若干ご立腹(?)な雰囲気もありつつ、そこは番頭としてしっかりとされている様子。私としては、ハプニングも含め、とても楽しめた。

荒れる気持ちが演目選びに影響したのかは分からないが、演目は『暴走族』。名前もそのまま、暴走族が登場する話である。もはやこの長丁場によって、完全に笑いのリミッターが外れた客席が、ワードだけで大爆笑するというカオスな状態。

そんな状態に戸惑いながらも、間抜けな新米暴走族が巻き起こす騒動が面白い一席である。このネタは、以前連雀亭でお客様が10人ほどしかいなかった時に聞いた。その時もとても面白く、大笑いしたのだが、年末カウントダウン、それもほとんどのお客様が17時から笑いっぱなしという状況にあって聴くと、殆ど10倍されたくらいに面白かった。改めて、演者とお客。両者がピタリと合致してこそ芸なのだな、と思う。

第一回の空気を思い起こすと、とても感慨深い。第二回は、本当に大勢のお客様、それもとても素晴らしいお客様が連雀亭に集まっていた。こんなに集まらなくてもいいんじゃないか、と思うほど集まっていた(嘘です。とても嬉しい)

『甲子園の土』、『死神王のまね』、『暴走族』、『Who』と、まだ四席ほどしか聴けていない。2019年、『Who』という大きな指針によって突き動かされた一年だった。

本当に多くの演者さんに触れたし、落語好きな方々との出会いもあった。天歌さんには感謝してもしきれない。たった一つの演目が、ここまで人を突き動かしたのである。ご挨拶のときは、お恥ずかしながら言葉足らずで、ちょっと野暮なことを聞いてしまったことを反省したい。いつか、打ち上げに参加して、直接、お伝えしたいと思う。

新米暴走族の振り切れた明るさが気持ちいい、素敵な一席だった。

 

 三遊亭楽大 金は廻る(持参金)

年末カウントダウン、最後のトリを務めるのは三遊亭円楽師匠門下、四番弟子の三遊亭楽大さん。1981年1月19日生まれの38歳。もうすぐ誕生日。

初代はラジオでも人気の伊集院光さんである。

昨年はトリ前に絶品の『時そば』で、客席のお腹を鳴らした楽大さん。2020年は4月から真打昇進ということで、まさに2020年は飛躍の一年。

ガッチリとした体躯と、愛嬌のあるお姿。楽しそうな表情の緩急と、声の高低が絶妙で、誰もが真打昇進に納得の素敵な芸。

演目は『金は廻る(持参金)』、年末のカウントダウンに向けて、ちょっと駆け足な語りのリズム。それでも、笑わせるところはキッチリと笑わせて、会場もどっかんと盛り上がる。年越しタイムに向けてスリルのある雰囲気の中、素晴らしい一席だった。

 

 第四部 個性激突!!!

トップバッターの吉好さんのオタク落語から、伸べえワールド炸裂の古典、天使さんのしっとり怪談話から、天歌さんの爽快なお間抜け暴走族の新作、そしてお金がぐるぐる回る楽大さんの古典まで、落語の幅広さと個性の豊かさを感じた第四部。

落語好きとしては、まだまだ聞けます!と思えるほど、素晴らしい並びだったと思う。今年も、最高の年末カウントダウン興行だった。

 

 年越し 2020年へ

1分前のところで楽大さんの一席が終わり、楽屋にいた方々が登場。全員で2020年となった年越しをお祝い。上方から来た天使さんは若干肩身が狭そうだったけれど、温かい雰囲気に包まれ、楽大さんの真打昇進のニュースもあり、とても和やかな雰囲気。

遊かりさん、吉馬さん、伸べえさんの『新作一年生組』と、番頭の天歌さん、天使さん、楽大さんの6人が高座にあがって年越しをお祝い。

プレゼントタイムもあって、大盛り上がりのうちに幕を閉じた。

 

総括 いつも心に演芸を

総勢19名、五派の二ツ目落語家さんたちが出演した『年末カウントダウン興行』。去年出演の噺家さんから、初登場の噺家さんまで、改めて落語界の幅広さを感じる。これほどの個性に溢れた噺家さんたちを見て、2000円は安すぎる。

上方からは優々さんと天使さんを見ることができ、浪曲では小ゆきさんを見ることが出来て良かった。伸べえさんは相変わらずぶっ飛んでいるし、天歌さんはしっかりと番頭を務めていたし、本当に素晴らしいイベントである。

去年の、手探りのなか、ハラハラ・ドキドキの年末カウントダウンも手作り感があって、とても面白かった。そして、今年はさらに様々な噺家さんに囲まれ、色んなハプニングもありつつも、去年より大勢のお客様に支えられて、素晴らしい一夜になった。

微力ながら、もしも去年の記事が、読者の皆様を動かしたのだとしたら嬉しいが、本当のところは分からない。出演される演者さんあっての年末カウントダウンである。小さな希望としては、2020年も、私の記事が演者さんのためになっていたら嬉しい限りである。

改めまして、2020年、明けましておめでとうございます。

読者の皆様に支えられて、ここまで書き続けてくることができました。

2018年は82記事、2019年は134記事を書くことができました。

これからも、噺家さんの素晴らしさを書き続けるとともに、

明日には皆様が寄席やどこかの会で、満面の笑みで演芸に触れて頂けるように、

微力ではございますが、記事を書き続けて行こうと思います。

2019年、色んな言葉をかけてくださった皆様、本当にありがとうございました。

これからも、あなたが素敵な演芸に出会えることを祈って、

この記事を終わりたいと思います。

あなたの心に、いつも演芸がありますように。

それでは、また。