渋谷のラッパーはなぜ浪曲を聴きに行くのか~2020年1月1日 浅草木馬亭 初席~
俺は浅草生まれ 浅草寺育ち
戦争行った奴らが友達
関東武士だ 韓国人じゃねぇ
神社よりもジンジャエールだぜ
唸るじいちゃん 鳴らすのはばあちゃん
聞こえて来るぜ 人生 浪花節
関東節だ くるぶしじゃねぇ
痛んでるのは体の節々
ぼちぼち木馬亭に入りな
癒されるんだぜ 浪曲だぜ
Rock Youよりも
浪曲だぜ
Yeah Check It Out!
韻を踏むより唸りたい
チルアウトしたいから波に乗る。浪曲スタイルだ。
俺は彼女を仕事から早く連れ出し、浪曲、浪曲、浪曲そして浪曲に連れて行くタイプの人間ではないが、まるでラザニアのように一日を過ごしたいなら、浅草木馬亭に行く。
浅草木馬亭には、渋谷のラッパー達が広辞苑をひっくり返しても出て来ないような言葉と、リズムと、三味線の音色がある。(広辞苑は捲らなきゃ何も見えない)
リリックにアドリブのメロディが乗り、ストーリーがファイアーする。サーフボードが無くても浪に乗れる。それが浪曲なんだしなんだしAGC。
俺は午前三時の風呂上りに、御前様に手を合わせてフロウを紡ぎ出すこともなく眠りについて、午前七時には覚醒した。思わずブッと転失気を放つと、俺は「かぁ~くせぇい」と言ったかどうかはミステリーだが、ヒステリーを起こすことなく、自分のヒストリーを思い出して、ケミストリーを聴きながら服を着替えた。堂珍みち、家を出る予定だったし、ドタバタ川畑していたけど、時は金なり、鳴るは雷、川端康成、伊豆の踊子よろしく、舞を踊るような気持ちでせっせと浅草を目指し、駆けるは韋駄天の如く、揚げるは海老天の如く、財布はスッテンテンのカラッケツのガス欠で、ケツケツするより尻が無い。
新年早々駆け足アザラシ野ざらしマンゴラッシー、人混み掻き分けやってきました浅草木馬亭。威勢の良い従業員の掛け声と、人も非人も溢れ出して黒山の人だかり。黒山ぼた山あたま山。あやかりたいのはやまやまだが、2500円を払って入場する。
カレー臭より加齢臭。左ヒラメの右カレイ。いぶし銀よりプラチナの、髪を染め抜き年輪を、重ねに重ねたバームクーヘン・ジェントルメン&バームクーヘン・マダムが席を埋め尽くし、ここはさながら敬老会。さっさとお家にけぇろうかいって、そんな訳にも行かず、俺以外の全員が玉手箱を開いたのだと思って着座。セット・オン・ファイヤー
玉川奈々福/みね子 次郎長伝よりお民の度胸
春夏秋冬、それは四季なり。奈々福さんとみね子師匠。それは勇ましきなり。バンバンバンと溢れ出す勇ましさに、オーディエンスは絶叫している。
「マッデマシダァアア!」「ダアアアップリイイイ!」なんて雄たけびがあがる。ターザンもライオンキングも顔負け。フリースタイルダンジョンよりも唸るスタイル男女って感じで、奈々福姉さんの勇ましさは男顔負け。一騎当千、イッキ飲ません、総務本線。戦々恐々。
ギラッと光った奈々福姉さんの眼。お外題は『お民の度胸』。渋谷のラッパーが常に携帯しているもの、度胸。お寺の坊さんが常に暗記しているもの、読経。大学、獨協。鉄道員、不器用。
さて、つい最近、講談で『お民の度胸』を聞いた。これも凄まじい一席だった。
浪曲で聴く『お民の度胸』も素晴らしい。まさに『憑依』したかのような奈々福姉さんの浪曲。グワングワンに揺らされる心と感情。勘定は2500円。環状線、一周するなら330円。ヨーデルヨーデルは桂雀太郎師匠。
ストーン・パインを匿う、石松を匿うお民と七五郎。この二人が、石松を追う連中と対峙する前に交わす言葉。
なんと!なんと!狂おしいほどに好き合う二人であることか!
ここまで男に惚れ込んだお民の心根に痺れる。それに、奈々福姉さんは実に、実に見事にお民を描き出す。思わずむんずと心を鷲掴み。浪曲界のイーグル。イーグルだろうエフグルだろうが、ジーグルだろうが、奈々福姉さんの唸りは凄まじい。
そして、みね子師匠も白熱の三味線である。太福さんで聴くときは、割と大人しい雰囲気かと思いきや、否、否、稲、稲、稲中卓球部である。
心の奥底から旦那を愛するお民、そんなお民に惚れられたことが嬉しくて、命すらも惜しくないぞとばかりに威勢よく、都鳥を迎え入れる七五郎。石松という一番の仲間のために、命を張る七五郎の勇ましさ。そして、その七五郎の姿に惚れ直すお民。
なんと!なんと!素敵な女性なんでございましょうか!
ここまで、ここまで女を惚れさせる女が、渋谷のどこにいるというのか!
道玄坂を転がり落ちても見つからにゃーのではにゃーか!(荒れている)
今まで次郎長伝を講談や浪曲で聞いてきたが、ここまで度胸があって、ダイナミックで、凄まじい一席は初めてだった。
恐るべし、奈々福姉さん!!!あっぱれ、大当たり!!!
渋谷・新宿のラッパー必聴の浪曲師、曲師と言えば、澤孝子師匠と貴美江師匠。
山が唸っているかのようなぶっとい声を持つ孝子師匠と、スーパー・クールなシザー・ハンズ・ガールの貴美江師匠の三味線の音を聞いたら、イチコロ・チンコロ・サイコロ・コロコロ・ドングリコロコロである。グリコは一粒300メートル!500ガウスを越える磁力はピップエレキバン!カラオケならバンバン!中華ならバンバンジー、上・中・下なら2020年はチュウ!
もはやこの記事自体、冒頭から意味不明であるが、全ラッパー、頭パラッパラッパー必聴の浪曲がここにある。
演目の『竹の水仙』。竹から生まれた『水で出来た仙人』の話ではない。『竹』という男の友達の、『水で出来た仙人』の話でもない。『竹の水』という名の『水で出来た仙人』の話ではない。
竹で出来た水仙の話を巡るお話であろう。お分かりか?おかわりか。ご飯おかわり自由なのはやよい軒。ドリフターズは志村けん。Charの息子はKenKen、チキチキマシン猛レースの犬ならケンケン。うやうやしく慎むなら拳拳。やかましいのは喧々囂々。男の息子は、、、
さておき、去年と同演目の孝子師匠。去年と変わらない演目をかけるという安定感。安心感。いつにも増して気合いの入った孝子師匠。冒頭、一節を唸って「今年も大丈夫!」というようなことを言ってから、甚五郎の物語。
左甚五郎と言えば、ラッパー界で言えばR-指定みたいな存在で、ラップの世界では右に出るものはいないという存在。どんな言葉でも即座に韻を踏む。どんな材料でもすぐに名品にしてしまう左甚五郎そっくりである。見た目も似ている。ぼっさぼさの髪型もR-指定と甚五郎はそっくりである。殆どR-指定=左甚五郎である(強引 Going)
さて、『人は見かけに寄らないぞ」ということが、この『竹の水仙』の教えである。OCAである。目覚めよ、君の個性である。
ラッパーもそうである。私はラッパーと言えば、完全に頭パラッパラッパーであり、全員が何らかのイケナイクスリに手を出しており、語彙が少なく、口の締まりが悪く、キレやすく、ムササビのようなデカイTシャツに、派手なサングラスと、ニューエラのキャップを被っている奴等だとばかり思っていたが、全然そんなことはない。
今や、クールで、エモーショナルで、最先端。アツイ言葉の応酬が繰り広げられ、全ての若い男たちを熱狂させる、強烈な文化になっている。かくいう私も、フリースタイルダンジョンという、互いにメロディに乗せて罵り合う番組の大ファンである。特に呂布カルマさんとFORKさんが好きで、毎週欠かさず見ている。
総括 ラッパーよ、木馬亭へ行け
語彙力で他を圧倒したいラッパーがいるならば、浪曲を聴きに行くと良い。どんなふうにメロディに言葉を乗せれば良いかがきっとわかる筈である。むしろ、『メロディに言葉を乗せて放つ』という芸の原点が、浪曲である。全ては浪曲から始まったと言っても過言ではない。(歴史を良く知らないけど)
今や、ターンテーブルを回せば色んな音楽の鳴る時代である。昔は三味線しか無かった時代から考えれば、驚くべき飛躍である。
ラッパーよ。全てのラッパー達よ。今一度、もっともシンプルな三本の線、三味線の音色に立ち返ってみないか。唸ってはみないか。ストーリーをファイヤーさせてみないか。
きっと、君の語彙力は増えているだろう。
きっと、君は唸っているだろう。
きっと、君の言葉は上手にメロディに乗って放たれることだろう。
聞け!ラッパー達よ。君たちが今、メロディに乗せて言葉を放つ、
その原点には浪曲があるのだ!
Rock Youも良いが、浪曲だ!
2500円を握りしめて、今すぐ浅草木馬亭に突撃だ!
昨年は、木馬亭の席亭だった根岸京子さんが亡くなられた。そして、今年は京子さんの思いを乗せ、浅草木馬亭は50周年を迎える。
浪曲のビッグ・ウェーブは、ラッパーの波を越えていくのだろうか。
否、きっとラッパー達とともに、浪曲は勃興するのではないか。
浪曲の未来は明るい。サーフボードなんて無くても、
浪に乗ることのできる木馬亭。
君も海パン一丁で、浅草木馬亭で『唸り』と三味線の『音』に
心を泳がせてはみないか。