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自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

窮鼠猫と戯れる~2021年2月27日 渋谷ユーロライブ Suspenders Guide~

あらゆる勝負ごとは全て、追い込まれてからが面白い

最高 サス ペンダーズのライブを見ました。渋谷のユーロライブで。 とても面白かった。 もう一度、言わせてください。 とても面白かった。 旧ネタ2作と、新ネタ3作。どれもめちゃくちゃ面白かった。旧ネタは何度も繰り返し見たネタだったけど、何度見ても面白いネタだった。最高だった。とにかく、最高だった。 会場は愛に溢れていた。サスペンダーズの愛に。コロナの状況の中で、満席になるユーロライブの客席を僕は初めて見た。なんだか、自分のことのように嬉しかった。

 

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去年の3月。サスペンダーズのコントを見て、雷に打たれたように痺れ狂って笑ったあの日から、サスペンダーズは、どんどんどんどん凄まじくなった。色んな人が、サスペンダーズを発見した。色んな人が、サスペンダーズを面白いと言い始めた。 そして、2021年ついにENGEIグランドスラムに出た。僕が知っているパターンだと、神田松之丞がジブリのプロデューサーの鈴木敏夫さんに「凄い!」と言われ、ENGEIグランドスラムに出て以降、あっという間にチケットの取れない講談師となって演芸界を盛り上げたので、サスペンダーズもそうなる。売れる。間違いなく。 とにかく、不思議な気持ちだった。新宿バティオス、グレイモヤでサスペンダーズを見て、そこから沼にハマって、布団に籠り、死ぬほど笑い転げた。今か今かと新ネタがYoutubeに上がることを楽しみにし、いつになったら生のサスペンダーズのコントが見られるのかと、もどかしくて仕方がなかった。 コロナの状況下でも、サスペンダーズの二人はYoutubeの配信を続け、見る者を魅了した。本当に面白かった。この二人の普段のやりとりも、コント同様に面白かったのである。 それは、僕が思うに『生活とネタが地続き』であるからだろう。古川さんの魅力、依藤さんの魅力。それが普段から常に発揮されているからこそ、見る者は魅了されるのだ。 まるで、追い込まれた鼠も、そして追い込んだ猫も、どちらも互いに楽しんでいるような姿が、心の底から微笑ましくて、温かいのだ。   ユーロライブに着くと、サスペンダーズ・ガイドのチラシが壁に貼られていた。その前で、数人が一緒に写真を撮っていた。元気モリモリポーズをしながら「いや、高い高い!!もっと低く!」みたいなことで盛り上がっていた。   あ、やべぇ、乗り遅れた。 もうちょっと早く来てたら、僕もその輪の中に入れたかも知れないのに。 やべぇ。くそっ、なんで遅れちまったんだ。 サスペンダーズの張り紙の前で待機してればよかった。 ああっ、逃したぁ。くそっ、これはデカイぞ。 結構、サスペンダーズの記事書いてるのに、全然、ファンの輪の中に入れてねぇ。 輪から外れちまってるじゃねぇか。なんでだよっ、なんの業だよこれっ、くそー、   と、古川さんみたいなことを思いつつ、静かに会場に入った。 満席だった。コロナの状況下での満席だった。それが、僕は嬉しかった。 何度も見てきた。 僕の好きな人が、他の人にも好きになってもらっていく過程、 そして、好きな人がどんどん凄くなっていく姿、 どんどんどんどん好きが拡がって、大勢の人に好きって言われる光景。 それが、ユーロライブにあった。 愛しいね。サスペンダーズも、そしてサスペンダーズを愛する人も。 僕はただただ、愛しいんだ。    タイムカプセル 知らぬ間に輪から外れてしまった古川さんと、輪の中心でキラッキラの青春を謳歌している依藤さんのコント。古川さんの不憫さが、面白くて仕方がない。 分かるのだ。輪から外れてしまう人の気持ちが。素直になれなくて、距離を取ってしまって、輪の中に入れない人の気持ちが。 ほんの少しのきっかけさえあれば、その輪の中でじっとして、青春の一滴でも口にすることができるのに、それすらもできない、自分に対して過剰な意識を持つ人。そんな、大きくなった自意識で事故ってしまった古川さんが、追い込まれていく姿。そして、追い込まれた挙げ句におかしくなっていく姿は、面白くて笑える。丁度、ファン同士の輪から外れてしまっている僕みたいに。。。 まっすぐに歩いているつもりなのに、いつの間にか曲がって歩いているような人。でも、曲がって歩いたことを肯定して開き直る人。そんな古川さんの強さが、依藤さんの強さとぶつからずに、絶妙な空気感で笑いになる。 追い込まれた鼠が、猫に鼻でつつかれて、遂には「いいよ、食え!食えよ!」みたいに言って開き直る感じが、ここにはある。猫が「食べないよ。大丈夫だよ」と言っても、「いや、食わんのかい!じゃあ、自分からお前の口に飛び込んでやるわ・・・」みたいなあきらめムードもあって、それが何とも言えず面白い。 『開き直りの人間臭い美学』が、このコントにはある。    竹原ピストル 趣味と行動の不一致をコントに仕立て上げた、サスペンダーズならではの着眼点が光る面白いコント。 古川さんの偏見が縦横無尽に振り回される面白さがあって、その偏見に対してどこまでも理解できない態度を示す依藤さんの姿も面白い。依藤さんの行動の辻褄の合わなさを、古川さんがノンストップで喋りまくって責める。 例えば、ヘヴィメタル聴いてる奴はスイーツ食べないとか、黒人はみんなリズム感あるとか、イタリア人はみんなナンパが得意とか、そういう根拠のない偏見を振りかざした挙げ句に、古川さんが言い放つ「俺の期待が強すぎたのかなぁ!!!」みたいな言葉がめちゃくちゃ面白くて、腹が捩れるかと思うほど笑った。最高過ぎる。 古川さんのめちゃくちゃな偏見が、とにかく暴れまくる痛快なコントだった。 猫に苛立ち、暴れ狂う鼠のような姿。「猫ってさぁ、普通鼠を食べるんじゃないの!?なんで食べないのさぁ!?なんで食べてくれないのさぁ!?」みたいな雰囲気があって、面白かった。    回転寿司 冒頭の勘違いから、絶望的状況に追い込まれた古川さんが、何とかして状況を打破するために、辞めたバイト先の店長である依藤さんの力を借りるコント。このコントには、まるでSAWとか、カイジとか、脱出系のゲームのような雰囲気を感じて、見る度にスリルに満ちていて面白くて最高なコントである。 なんとかして、お金を払って店を出たい古川さんが、依藤さんに金を借りる場面が最高である。過去の行いが現在に災いをもたらし、どうしようもない状況が作り上げられてしまう。古川さんの背負う人間の業が、次から次へと古川さん自身に降りかかっていく。その災いの張本人である依藤さんの、有無を言わせぬ正論に叩きのめされながらも、ギリギリ潰れないところで復活する古川さんだが、最後の最後で再び絶望を味わうというどんでん返しに笑うしかない。 この構成の巧みさもさることながら、回転寿司店という舞台で、これだけ面白くできるセンスと力量に脱帽である。    パンダの飼育員 5作のコントの中で、どれが一番面白かったかと問われれば、僕はこれが一番面白かったと答える。 パンダの飼育を任された古川さんの、逃れようのない業がもたらした悲劇と、その悲劇に追い打ちをかけるようにやってきた依藤さんのコント。 冒頭の古川さんのとんでもないミス(?)に笑いつつ、さらに状況説明を一言で言い切ってしまう力強さがめちゃくちゃ面白い。「なんだそりゃ!」というツッコミが入る隙間もなく、「どうしようもないなぁ」という、人間の耐えられないどうしようもなさが、古川さんにはあって、それが最高に面白い。 責任感の強い古川さんが慌てふためいているところに、何も知らない先輩の飼育員である依藤さんがやってくる。なんとかして場をやり過ごし、自分の失敗を隠蔽しようとする古川さんの姿が、めちゃくちゃ面白くて、人間臭くて、最高である。 何か失敗をして、ヤバイ!と思っても、なかなか言い出せないことってある。 咄嗟に、場を取り繕おうとして言葉を放つも、どれも相手には刺さらない。 どれだけ依藤さんの足を止めようともがいても、どうすることもできない。 何とかして隠そうとする古川さんの姿が笑えた。そして、終盤で古川さんが隠しきれずに依藤さんに向かって放つ「すんませんでしたぁ!!!」には、とーんと胸を突かれて、思わずうるっと来てしまった。笑って泣ける良いコントだ。 凄く気持ちが分かるのだ。自分の失敗を隠そうとして、どうしようもできず、バレる直前くらいで、思い切って謝る。その謝りの姿勢の真っすぐさが、僕は人間らしくて好きだ。凄く良かった。じーんと来た。上手く言葉に出来てないかも知れないけど、僕は、古川さんが思い切って謝る場面が、凄い好きだ。 依藤さんがパンダを発見し、ブチ切れるのが今までのパターンだったかも知れない。だが、ここで先輩飼育員である依藤さんが放つ言葉のもたらした安堵感。 緊張と緩和の後で訪れる笑い。 ああ、なんか良い。なんか良いな。と思って、体が熱くなった。 会場にいる人々も、同じように依藤さんの言葉に笑っていて、僕はそれが凄く気持ちが良かった。そこに流れている温かい情が、僕はたまらなく好きだった。 サスペンダーズが好きな人達が、自分が面白いと思うポイントで笑うことの、言いようの無い喜びを、僕は味わった。そうだよ。ここにはサスペンダーズを見に来た人しかいないんだ。それが、この上無く、僕には幸せだった。 僕はこのコントが、たまらなく好きだ。 猫の餌を食べた鼠のところに、猫がやってくる。もう餌は無いので、鼠は必死に猫の気持ちを逸らそうと試行錯誤する。だが、猫は餌の場所まで来てしまい、鼠は思わず「ごめん食べちゃった!」と言う。猫が怒るかと思いきや「ああ、いいよ。お腹減ってないから」と言い返す。そんな光景が見えて、とても微笑ましかった。    けん玉 けん玉の世界記録に挑戦する依藤さんと、依藤さんが働く会社の上司である古川さんが、テレビで依藤さんを発見したことから始まるコント。この着眼点も、本当に素晴らしくて、めちゃくちゃ面白い。 何の変哲もない、普通の日常をここまで面白く出来るのがサスペンダーズである。ネタ的にはにゃんこスターの『縄跳び』ネタに通ずるものを感じるが、そこはサスペンダーズ節である。 このコントの構成で、けん玉をする方が依藤さんという配役に妙味がある。 普通なら、失敗するのは古川さんの役目のように思える。ところが、依藤さんがけん玉に挑戦するのである。 挑戦者が依藤さんであることによって、ツッコミを入れる古川さんの、人間の温かさが見る者に伝わってくるのではないかと僕は思った。 それまでの四つのネタは、どれも古川さんが失敗したり、憤ったり、誤魔化したりする構成になっている。だからこそ、けん玉に挑戦する依藤さんを見て、古川さんが応援したくなったり、次こそやれるぞ!と鼓舞したり、なんだよお前ー!と言ったりすることに、説得力があるのだ。 失敗し続けた男、古川さんだからこそ依藤さんの失敗に突っ込んで笑いにすることができる。配役が逆だったら、全く面白くならないと僕は思う。 真人間である依藤さんの失敗には、古川さんの失敗に抱く感情とは違う感情を抱くのである。それは、依藤さんが持つ真人間さ。完璧さ。出来て当たり前という無意識の思いが、そうさせるのかも知れない。 これは結構、サスペンダーズ的には挑戦のコントなのではないだろうか。 依藤さんの失敗を、ことごとく許して受け入れる古川さん。真っすぐに謝りながらも、何度も失敗する依藤さん。この違いは一体何なのだろうか。上手く言い表すことはできないが、このコントの配役は依藤さんが失敗する役でなければならないのだ。 凄く温かいのである。5本連続という、最高過ぎる流れの中で、このコントを最後に持ってくるサスペンダーズの構成の巧みさ。ラストにふさわしいコントであると同時に、見る者に問いかけてくるのは、不思議な面白さなのである。 それは、思うに、依藤さんも古川さんと通じる部分を持っているからだろう。そして、誰もが古川さんに通ずるものを持っているから、心惹かれ、笑えるのだ。 窮鼠猫を噛むという言葉があるが、最後のネタには、鼠を追い込んでいた猫が「俺も、お前と一緒だぜ」という、気持ちの良いぬくもりがある。 僕は、そのぬくもりに用があるのだ。 鼠も猫も、同じ動物であり、同じ命なのだと。僕はそう言っているように思えた。 新ネタの持つ、人間としての温かさを、僕は最近のサスペンダーズのネタに感じている。人間臭くて良い。全然、背伸びしてなくて、ありのままでコントをやっているサスペンダーズが最高である。 もう一度言おう。 サスペンダーズが最高である。    アフタートーク ずっと続けばいいと思うほど、サスペンダーズ愛に溢れた時間が流れた。あっという間の時間で、出来ることならば永遠に続いて欲しかった。それほどに、主催者であるポテンシャル聡さんの一言一言が愛に満ち溢れていた。ゲストであるラブレターズの塚本さんの言葉や、ザ・マミィの林田さんの言葉も、どれもが愛に満ち溢れていた。   お前ら、最高かよっ!!!!!   出来ることなら加わりたいなぁと思いつつ、ぼんやりと眺めていた。 サスペンダーズの二人が褒められすぎて、湯上りのトーンで「ありがとうぅ」とか「嬉しいなぁ」と言っている姿も面白く、緊張が解けていつものプライドが全開になったワル古川さんが出てきたのも最高だった。ノリノリのサスペンダーズと、じんわりと染み込むように愛を語るポテンシャル聡さんの姿が、最高過ぎて温かかった。炬燵かと思った。サスペンダーズの炬燵かよと思った。 そして、ポテンシャル聡さんがサスペンダーズにハマるきっかけになった、KDさんの編集された動画が会場に映った。僕は、それもめちゃくちゃ嬉しかった。サスペンダーズのファンが、サスペンダーズへの愛を力にして、人を突き動かしている。 これは、本当に凄いことですよKDさん。あなたは本当に凄い。誇ってもいいくらいですよ。 サスペンダーズは、色んな人に支えられて、メキメキと力を付けて凄まじくなっている。 この1年。見てきたから分かる。サスペンダーズは、売れる。 そんなサスペンダーズに触れる、最高のガイドとなった。 最高だった。 もう一度言わせて欲しい。 何もかもが、    最高だった!!!!!