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第10回 どんぶらこっこ ゑ彦印~バブルと鉄道と菜と煎餅と神の共演~

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イナモリ商店!?

 

千早駅ってのがあるんですよ。

嘘だと思ったらWikipediaで調べてごらんなさいな

 

クイズ!ドレミファドンだったら即座に分かる落語の出だし。

「植木屋さん、ご精が出ますな」

 

まっつぐかぁ、いいなー、下町だなぁ。 

 

スーザン・ボイルになってくれ!

  柳家小ゑんと聞くと、立川談志の旧名を思い出す方もちらほらいらっしゃるだろうと思う。今、柳家小ゑんを名乗っている落語家は、鉄道と電子部品とジャズをこよなく愛する素敵な人物である。寄席ではもう飽きるほどやっている『ぐつぐつ』が有名である。飽きるほど、と言っても柳家はん治の『妻の旅行』ほどはやっていないので注意してほしい。あっちはもう本気で飽きてしまった。

 同じネタを何度もかけず、さらには江戸の小粋な小噺を幾つか紹介し、さらにはマニアックな鉄道や電子部品の噺を随所に挟み込む。見ていて「ああ、こういう博識な友人がいたなぁ」という思いがこみ上げてきて、微笑ましく見ることが出来る。

 柳家小ゑん師匠の落語は、そのマニアっぷりと楽しそうに話す口振りが素敵である。意味は分からなくとも、その知識を一切の嫌味なく披露し、それでいて笑いを取れるのだから素晴らしい。きっとマニアになればもっと楽しめるのだろうと思うのだが、それほど鉄道や電子部品に興味が無いので、空気感で何となく笑っている。

 冒頭から畳みかけるような笑いで一気に聴衆を引き込むスタイル。老いを感じさせない、まるで鉄腕アトムに出てくるお茶の水博士ばりの活き活きとした落語家である。

 どんぶらっこ ゑ彦印の会は、そんなマニアックな小ゑん師匠と一緒に、格闘家の風貌と、本人曰く臼みたいな顔の林家彦いち師匠が落語をやる。林家彦いち師匠は『創作落語の鬼軍曹』と渋谷らくごで呼ばれるほど、新作の落語を作ってやっている落語家である。

 高座には早足で駆け込むように歩き、座布団に腰を下ろしてからお辞儀をし、顔を上げるまでの所作がハキハキとしていて、第一声をしゃべる前から「あ、この人、体育会系だな」と思うほどである。新作落語でも体育会系は発揮されている。ファンにはお馴染みのムアンチャイという外国人が、ボクサーのセコンドとして覚えたての日本語で応援する『掛け声指南』や、お化けに熱血指導をする『熱血!怪談部』、ジャッキー・チェンの息子と刑務所で話す『ジャッキー・チェンの息子』など、見た目のスタイルに沿った熱い落語をやる落語家さんである。

 どちらかと言えば、インドアな小ゑん師匠とアウトドアな彦いち師匠といった感じの二人会。ほぼ満席の会場は高座と客席に何ともいえないスペースがあって、その独特のスペースに最初は戸惑うのだが、慣れればどうということはない。

 席に座って、お囃子が鳴る。開口一番は彦いち師匠門下の林家きよひこさん。見た目は男性に見えるが女性で、新作落語の『うちの村』をやった。随所に小ネタが挟まれる。田舎の人って門出を祝う風習がありますね、というマクラを振ってから噺に入った。ざっくりの内容は田舎から上京して働いていた女が、田舎に戻ると田舎がバブルになっていて戸惑うという話。気になったのは『オスプレイのような乗り物』という部分で、いっそ『オスプレイ』でいいんじゃないか。というところぐらいだった。オスプレイから降り立つところの擬音が圧巻だった。イメージしづらかったけど。

 続いては小ゑん師匠。今年の9月に真打になる駒治師匠の披露宴の噺から、鉄道マニア垂涎の『鉄千早』。正直、何の知識が無くても笑えるのだが、聞き終えてしばらく経つと、詳細部分を全部忘れているという自分に驚く。その時は笑えたけれど、思い出し笑いが出来ない不思議なお話。色々とタメになる知識があったのだけれども。

 千早ふるのネタを鉄道バージョンに変えたお話で、物凄く練ったんだろうなぁ。という印象。鉄道好きなら爆笑できる個所があったのだろうと思う点もあったけれど、リズムと空気感で笑えるお話だった。

 仲入り前は林家彦いち師匠。冒頭に引用の「クイズ!ドレミファドンだったら、すぐにわかる落語」と言ってから、「この噺に入った瞬間の、皆さんの顔を見るのが楽しみ」と言って、「植木屋さん、ご精が出ますな!」で会場爆笑、『青菜』に突入する。

 新作落語家さんは青菜がやりやすいのだろうか、瀧川鯉八さんもほぼ新作落語をやっているが、唯一古典落語を見たのは『青菜』だった。物凄い個性が溢れ出していて、ザ・鯉八ワールド仕込みの『青菜』だったのが印象深い。彦いち師匠の『青菜』は、それほどワールド全開ではないが、やはり体育会系らしいアレンジをして、見事に彦いち師匠印の『青菜』になっていた。暑い夏にはぴったりの噺なので、旬な話を聞くことが出来て嬉しい。

 仲入り後は再び柳家小ゑん師匠で『下町せんべい』、小粋なネタが挟まれていたのだが、覚えているのは数か所ほど、江戸っ子の口調で「まっつぐいったところ」という言葉に強烈な感動を覚える青年の所作が印象的。下町愛好家というワードもあった気がする。古き良き時代に思いを馳せている青年に共感した。これも面白かったのだが、意外と数日経つと忘れているものである。その瞬間に存在していた強烈な面白さが消え去り、残り香だけが残っているといった印象。

 トリは林家彦いち師匠で『神々の唄』。嘘をついて引けなくなった亭主と、それを何とか助けようとする妻のお話。なぜかスーザン・ボイルにそっくりなスーザン・ボイッが出てきて、それがかなりの人気になるというお話。短くて、笑いどころもそれほど多いわけではないが、おおよその筋は覚えられる話。オチにカタルシスはなく、おお、ここで終わるのかーという感じ。特に大きな波は無いけれど笑える話だった。

 

 第10回ということだったけれど、特に目立ったイベントはなく、とつとつとやって終わった。不思議な組み合わせだなと思う反面、微妙なミスマッチ感が面白くて、時間があるとつい見に行ってしまう。落語終わりに近くの銭湯に行くのも良いだろう。

 場所は本所にある。オフィスねこにゃさんが主催者さんをやっていて、情報はTwitterなどで見ることができる。

 この二人に少しでも興味のある方にはオススメしたい。そんな、ちょっとマニアックな二人会だった。

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