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自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

地下帝国で芸人に笑う人になる~2019年4月6日 池袋演芸場~

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(志ん松さん、いいなぁ。凄くいいなぁ)

 

(馬石師匠。かわいい・・・)

 

(うわぁ、鉄平師匠。すっごく楽しそうだぁ)

 

(菊之丞師匠。うわぁお家芸!凄まじい!)

 

花緑師匠、後半も聴きたいなぁ)

 

(彦いち師匠。絶好調だなぁ) 

 

喬太郎師匠。無条件で面白いわぁ!会場が爆笑の渦だぁ!)

寄席に行こうよ 地下だけど

私の体は「寄席だから」という理由だけで、地下に降りてしまったことがある。階段を一段一段降りる度に、地上の光は消え、桜満開の景色は冷たい壁に遮られた。暗い寄席で芸人に笑うためだけに、私は2000円を支払って客席に座した。

割引はちゃんと使った。

池袋には、地下に入っただけで「Oh! NO!」と言ってしまう寄席がある。でも、笑うことで芸人達の笑い人になることは出来る。芸人の力と可能性に圧倒されよう。それはきっとあなたの心を変える大きな一歩になる。

開場時刻の12時までに長蛇の列となった池袋演芸場。これも私の前記事『4月神池袋演芸場に行け!』の効果かな、と思いつつ(1ミリもそんなことはない)、列に並ぶ。老若男女が入り乱れる物凄い行列で、落研らしき人々も見に来ていた様子である。尻の皮と財布の中身が厚い人々が集まっているのか、などと愚にも付かぬ想像をしながら、竹中平蔵氏もびっくりの秘密クラブ的な地下帝国、池袋演芸場へと入った。

落語の『ぞろぞろ』よろしく、次から次へと人がなだれ込んでくる。雪山だったら遭難するほどのなだれ込みようで、サーフーボードを持ったら軽く3メートルは波に乗れるであろうし、これがロックバンドのライブだったらダイブした奴はかなり目立つ状況である。一揆の決起集会かと思うほど人が入ってくるので、私も鋤と鍬を持参しなかったことを三秒だけ後悔しつつ、足腰がヨボヨボの牛蒡であるため、後ろ側の席に座した。だが、立ち見客がぞろっかぞろっかと入ってくるではないか。ポニーも驚愕の和やかな速度である。いずれも寄席の初心者というような風貌で、小さく「やばくね、人」とか、「そのうち座れるっしょ」などと、戦場だったら真っ先に戦死する甘い言葉を耳にしつつ、私は自分の席を8時間の友として愛した。歴戦の覇者であろう常連客は鉄壁の布陣で前衛を守っている。立ち見をする青年にこう声をかけたかった。

「良いか、青年、いつまでもあると思うな親と席」

今どき、地方の公民館でもこんなに人は集まらないと思う。私が幼稚園生の頃、ダンスの発表会でさえこんなに人は集まらなかった。すなわち、この場には私の幼稚園時代のダンスの発表会を超える、凄まじいダンスを披露する芸人が登場するのである。否、凄まじい芸を披露する芸人が登場するのである。

これは前記事でも書いたが、出演する演者全員が、まさに今をトキメク、明日にキラメク、未来にめくるめく世界を作り上げているであろう演者さん達なのである。

地上では桜が咲き乱れ、頬を上気させた女性が好きな男に向かって「あたし、甘酒きらーい、もっと強いのがいいー」などとほざいているかも知れず、男は「じゃあ、バーボン、ウイスキー、ストレートでいっちゃおっかー」などと戯けたことを言っているやも知れないが、そんな上界とは完全に隔離された下界で、大勢の人々は笑いの一揆を起こすのである。どう考えても客観的に見て不健康さは際立っているが、良いのである。大人とは、娯楽とは、地下でこそ楽しまなければならない。微妙に心に起こる背徳感を抱きながら見る寄席は、格別である。一度ハマると、地上ではもう二度と落語が聞けなくなるだろう。そんな後ろめたさと悪魔的な魅力が詰まっているのが、池袋演芸場である(個人の意見です)

 

昼の部 ガッツリ古典なユニバース

演者の全員の感想を述べていると、長大な記事になるため、以下は私が気になった演者のみを記すことにする。

 

 古今亭志ん松 牛ほめ

 

 モグラだぁ!

 

地下に潜って最初に出会ったのは、陽の光を浴びていなさそうな志ん松さん。これ、文字だと伝わらないかも知れないし、失礼な感じで受け取られたら困るのだけれど、久しぶりの志ん松さんはめちゃくちゃ良かった。そんな志ん松さんを「モグラだぁ!」などと最初に書いたのは、記事を読んで頂くための苦肉の策です。実際は一切、そんなことは思っておりません。最高です、志ん松さん。

兼ねてより、早朝寄席で聞いた『岸流島』などの古典を、独特の静かな語り口で表現していた志ん松さん。最初に見た時は、「元気ないなぁ」と思っていたのだけれど、静かな語りがとてつもなくパワーアップしており、それがむしろめちゃくちゃ良かった。入れ事をせず、現代的フレーズも一切なし、ただ純粋に落語の世界に即した、落語本来の面白さを突き詰めた語りが素晴らしく、私の方の聞く姿勢が成長したのかは分からないが、会場に爆笑を起こしていた。

語りの落ち着いたトーンと、大げさではなく、オーバーなリアクションでもない、地の語りでリズムを精緻に組み上げ、人物描写に嘘っぽさもない。滲み出るような面白さが、思わず「ん!?亭号は古今亭だったっけ?」と思ってしまうほど、どちらかと言えば柳家の亭号に近いような語り口。私の中の勝手なイメージだが、古今亭の人はとにかく早口で、テンポが早く、ハキハキとしている。だが、志ん松さんは木が根を張るようなどっしりとしたテンポで、かつ樹液が漏れるような面白さがあって、それがとても心地が良かった。今回の記事は、殆ど志ん松さんのところを語ったら終わりなくらい、素晴らしい一席だと思ったし、以前見たよりも格段に良さが分かった。

筋が分かっているのに、面白いのは、与太郎の雰囲気が絶妙に面白かったからかも知れない。馬鹿になり過ぎていない与太郎の感じ、嘘っぽさがなく、どこかつむじ曲がり、捻くれた感じの与太郎が物凄く良かったのである。もう『凄く良かった』しか書けないところがもどかしいのだが、古今亭志ん松さん。要チェックである。

 

隅田川馬石 元犬

語りのソフトクリーム感。馬石師匠が出てくると、私はいつもソフトクリームを捻りだすような感覚を覚える。それは馬石師匠の声が醸し出す雰囲気と言ってよい。何も考えず、ただ座席に座して、目の前に座った馬石師匠を見つめ、馬石師匠が口を開いた瞬間に、声が発された瞬間に、私の舌の上に乗るソフトクリーム、バニラ味。柔らかい感覚がすっと胸を通り抜けて行くと、胃の中でとろんと溶けて行くソフトクリーム。語り始めた馬石師匠は、可愛らしい白い犬の話をする。ごろんっと寝転がった犬の可愛らしさ。もはや、元犬という話では他の追随を許さないほどの面白さで、馬石師匠は動物系の話がとても可愛くて好きだ。特に、寄席のバージョンのためか犬が人間に変化するところの描写が短縮されているところが気持ちが良い。どこを語り、どこを語らないか、その省略の美学が最高だった。

 

林家鉄平 堀の内

ケリー・スレーターもびっくりの波乗りっぷりで、イケるところまでイクという気概全開の小ネタを随所に挟み込み、時折「へへ、やっちまった」と照れくさそうに笑う鉄平師匠が最高だった。寄席が女子高生で埋め尽くされていたら、ルールなど無視されて即座にTikTokにアップされ、ファッキングラビッツよろしく『いい波乗ってんねぇ』のパーティ状態になっていても過言ではないほど、ノリノリの語り。最高に気持ちの良さそうな表情で熊五郎が暴走する。熊五郎の底抜けっぷりが最高で、身近にいたら結構迷惑なのに、何だか面白くて許せてしまう人柄がとても面白かった。

 

柳家さん喬 天狗裁き

ネタも最高だったんですが、冒頭のアグネス・チャンさんの物真似が最高だった。

 

柳家小八 千早ふる(物理学ver)

人間国宝の言葉恐るべし。オチで会場から「おぉ~」の声。

 

 古今亭菊之丞 火焔太鼓

待ってました!の大歓声、大観衆に迎えられ、やってきました『火焔太鼓』。古今亭のお家芸にして、見事な笑いをまき起こした凄まじい一席。

もうこれは、語るに及ばずという渾身の一席。

 

さて、後半戦

 

夜の部 めくるめく夜のワンダーランド

 

柳家花緑 花見小僧

花緑師匠の定吉が物凄い可愛らしい。特に表情の変化が最高である。物凄い能天気な笑顔から、一瞬にして真顔に表情が変わる時の面白さ。お節と徳三郎の関係を語るまいとしながらも、お給金の誘惑とお灸の仕置きに挟まれて、結局全てを話してしまう定吉の可愛らしさ全開のネタだった。ドSの主人の誘導に耐えながらも、その時の様子をぽろぽろと喋ってしまう定吉は必見である。後半は結構シリアスで教訓めいた『刀屋』へと繋がるのだが、花緑師匠が通しでどのようにやるのか見てみたい。

桜満開の風景の中で、男女の恋が可愛らしい定吉によって語られる。その語りの朗らかさに、地下にいるのに春を感じた。

 

 林家彦いち マイナンバー

説明不要の面白さ!!!!!

マイナンバーの紙を失くした私には、恐ろしい噺でした・・・

 

柳家喬太郎 結石移動症

説明不要の面白さ!!!!!パート2!!!

もう今更書く必要が無いほど、大爆笑の一席でした。

 

 総括 やっぱり神席

正直、面白すぎて言葉を失っている。随分と気の抜けた記事になってしまったが、冒頭で書いたように、志ん松さんの部分だけ書くことが出来れば、この記事は90%完了したようなものなので、後悔はしていない。

冒頭に某企業の広告をオマージュした文章・画像を書いたが、悪意は一切ない。やってみたかった、というだけである。実際、ピンクの文字が見づらいし、背景が人ではなく寄席文字看板ということもあって、非常に雑なオマージュになってしまった。

某企業さんの広告は個人的に衝撃的だった。見た瞬間に「うっ」と心がパンチされたような衝撃があった。出来ることなら目にしたくないし、背景にいる物言わぬ人物の眼が怖くて、私は視界に入ると遠ざけるようにしている。広告のワードも強烈で、そのメッセージが意図することは恐らく、伝わりにくいのではないか、と思う。某企業さんのキャッチフレーズは、『遠い国の女の子の親になる』だが、別段、女の子に限定しなくても良いのに、と思うのだが、その強烈なビジュアル、ワードが、やけに胸をザワつかせるので、今回、違った形でオマージュしてみた次第である。

いろいろと、その広告については言いたいことがあるのだが、趣旨とズレるのでやめておくことにする。

でも、それくらいに強烈な寄席だった。公開に際して後悔はしていないが、少し反省している。