落語・講談・浪曲 日本演芸なんでもござれ

自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

あたたかき糸を手繰り寄せて~2018年12月29日 泣いて笑って踊って年忘れ~

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温かいお客様だね、今日は

 

マーケティングに纏わるお話を

 

あれ、9両?

 

ヨイヤァサァ

 

 演芸の夜明けは近い

暮れは暗いニュースが多い中で、明るいニュースがTwitterのタイムラインを賑わせていた。

『東家一太郎・真山隼人 平成30年度(第73回)文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞』 

柳亭小痴楽 2019年9月真打昇進決定・神田松之丞 2020年2月真打昇進決定』

浪曲界の東西、そして落語、講談。日本の演芸が今、にわかに注目を浴びて活気づいている。いずれ多くの人達が落語・講談・浪曲の世界に飛び込んでいくだろうし、凄まじい芸を見せる芸人に出会うだろう。

今はその一つの兆しを見せている。

落語界では入門者が多く、今年はだいなもさんや、やまびこさんや、まめ菊さんなど、中堅どころの落語家さんの前座さんが寄席で活躍し、講談界では神田松鯉先生の一門に入門者が増え、松麻呂さんや鯉花さん等が高座で軍記物を読み、浪曲界では天中軒すみれさんや京山幸乃さん等、新人の女性浪曲師が誕生している。

私は言いたい。

 

 今、演芸がアツい!!!

 

激アツである。武者小路激アツである。演芸の熱盛状態である。演芸が銭湯だったら入浴者が秒でのぼせるくらい激アツである。これほどまでにアツいを連記するのだから、どれだけアツいかお分かりいただけるかと思う。

その熱さは若手だけではない。現代の最高峰と呼ばれる名人達も未だ健在である。落語界には柳家小三治師匠や柳家さん喬師匠。講談界には神田愛山先生、神田松鯉先生、一龍斎貞水先生、浪曲界には澤孝子師匠、東家浦太郎師匠、沢村豊子師匠と、後世にも語り継がれる実力を持った名人が未だに芸を披露している。

東京に住んでいると、関東の名人に触れる機会が多いためか、なかなか関西の名人の会を伺うことが出来ていない。名と音声だけであれば関西には、浪曲界に三原佐知子師匠や二代目京山幸枝若師匠がいる。そして、今回、初めて関西浪曲界の最高峰で、真山隼人さんに『円山応挙の幽霊図』を継承したという、松浦四郎若師匠を見ることが出来た。さらに、三味線は三原佐知子師匠の浪曲でその凄さに圧倒された、虹友美さんも見ることが出来た。もはやこの二人を体験できただけでも満足なのに、萬橘師匠と浦太郎師匠の一番弟子瑞姫さんと、河内音頭の山中一平さんまで見ることが出来るというのだから、もはや暮れの演芸納めにふさわしい会だと思った。

 

初めての横浜にぎわい座

 

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文菊師匠の会やら、歌丸師匠の会で名前だけは知っていた『横浜にぎわい座』。今回初めてとのことで、早めに会場入り。二階にあるチケット受付で係員のお綺麗な方に電話予約の旨を伝えると、「地下2階にて、13時30分開場ですが、既にチケットをお渡しする準備が出来ておりますので、そちらにお伺いくださいませ」と、非常に丁寧に説明して頂き、「ありがとうございます」と言って一礼した。初めて来たのに緊張のあまり周囲を見ることが出来ず、歌丸師匠の看板やら、三遊亭金馬師匠の写真やらがあったのだが、じっくり見ずに降りた。

ロビーには先述した『東家一太郎・真山隼人 平成30年度(第73回)文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞』の看板が掲げられていた。凄いな、もう看板が出来上がっているんだ!と思って感動した。演芸に対する情熱をひしひしと感じる場所である。

一階に降りたタイミングで、幸運なことに四郎若師匠、山中一平さん、虹友美さんが会場入りされていた。その三人が乗ったエレベータに入るのはさすがに恐れ多かったので、一本見逃して地下2階に降りた。後になって図々しくエレベータに乗っていれば、少しはネタになったかも知れないと思ったが、根が臆病者の私は密室に名人方と乗る勇気は無かった。無念。

地下2階に降りると、先ほどの三名が挨拶をしている。見れば、東家恭太郎さんと天中軒すみれさんの姿。ロビーにはお若い男性が二人。電話予約の旨を伝えると、チケットを出してくれた。3000円を払ってチケットを受け取り、13時30分まで待機。

続々とお客様が入場。若い人はほぼ皆無。50代~60代の浪曲ド直球世代が多い様子。私の夢は観客の層が20代で埋め尽くされた浪曲会に行くことだが、やはりロビーはご年配の方々の物凄い熱気に包まれている。ご常連の方々もさることながら、浪曲愛する人達のパワーが凄い。皆さん優しいお顔をされているし、何より元気である。実家の祖母に比べたらお着物も、お肌も、そして何よりコミュニケーション力が物凄い。あらゆるところで情報交換が行われているし、河内音頭を踊ろうと楽しみにしている人や、浪曲の名人芸に触れようという人の熱意が充満し、サウナだったら秒で水風呂行きの熱気である。

もはやこのまま河内音頭に突入しても些かの問題も無いというほどに盛り上がっているロビー。開場後も熱気は冷めやらず、開演時刻まで活気に満ちた客席。前記事の『この胸いっぱいの浪曲を』にも書いたが、浪曲愛する人は粋で熱くてパワフルである。楽しもう!という情熱が体と口から溢れていて、それはそれはとても楽しい。

そんな中で、司会の恭太郎さんが登場。前座とは思えない芸達者ぶりはもう常連である私には周知の事実。見事な司会で会場を盛り上げていた。

舞台には縦横1m50cmくらいの緋毛氈を敷いた高さ30cmくらいの台があり、その中央にはふっかふかそうな座布団が置かれている。座布団の前にはマイクが置かれている。開口一番は落語だ。

 

三遊亭萬橘『時そば

登場と同時に銀髪と茶色味のあるお着物。強烈なフラと優しそうな眼で、会場を一気に味方に付ける話芸はお見事。名前の話題から「浪曲河内音頭が目当てなんでしょ?本気出すよこっちは」みたいな予告宣言から、物凄く丁寧な蕎麦売りの説明の後で『時そば』へ。

萬橘師匠は物凄い丁寧で緻密な落語をやる人なのだと思った。強烈なフラがある中で、言葉の一つ一つが練られているし、見事な伏線を仕掛けて即座に回収する辺りが、「凄い、時そばの世界を崩さずに、さらに進化させてる!」と驚愕の一席だった。冒頭の蕎麦売りの描写は、初心者にもベテランにも想像を補助するための丁寧な解説になっていたし、その後で仕込まれる言葉の数々。本来は十六文で食べることが出来る蕎麦を、十五文で食べた仕掛けを真似するきっかけ部分も、萬橘師匠の仕掛けが施されていて見事だった。関東では十五文で蕎麦を食った男を見ていた間抜けな男が、その仕掛けに自ら気づく場面がある。関西では蕎麦屋に行くのがもともと兄貴と弟で、兄貴の技を弟が見て失敗する場面があるのだが、萬橘師匠はこの二つを見事に融合させていた。さらには、細かい仕掛けもたっぷりあって、今までの『時そば』の新たな一面を見たような、凄い発見のある『時そば』だった。さらにはリズムと表情が素敵である。目の見開きであったり、ツッコミの入れ方であったり、緻密かつ大胆な萬橘師匠の視点で展開された『時そば』。おそるべし、萬橘師匠。

 

瑞姫/紅坂為右衛門『団十郎と亀甲縞』

登場前の舞台設営では、天中軒すみれさんが手際よく準備されていた。軽やかなステップと、テキパキとした動き、一瞬の迷いもなくテーブル掛けを整える姿を見ていると、ますます高座が見て見たくなる。動きに迷いが無いというか、慌てる感じが一切ないし、悩むような仕草も無い。ただひたすら真っすぐに、せっせと舞台を整える様が素晴らしい。一席やってくれないかな、と思う。

さて、お次は瑞姫さん。チラシには『美人浪曲師』と書かれており、どうせ麗しい声の浪曲なんじゃろう?と思っていたのだが、登場と同時にその考えを覆される。鋭い眼光と勇ましい佇まい、そして大音量かつ硬い石が迫ってくるような力強い節。物語を導く紅坂さんの三味線も漫画ベルセルクのガッツが振る大剣のような凄まじさ。眼光鋭い二人によって畳み掛けられた演目は『団十郎と亀甲縞』。恥ずかしながら最初は『亀甲島』か『吉好島』という島に纏わるお話かと思っていたのだが、ネットで調べていたら全然違う話。数字に纏わる話は聞き漏らすと訳が分からなくなってしまい、団十郎が亀甲島に行く話かと思っていた。どうやら簡単に言うと『品物を宣伝してもらって繁盛する』話である。ジャスティン・ビーバーがピコ太郎の動画をツイートするというような、そういう感じの話である。

前述のように内容を勘違いしていた私は、後半ようやく団十郎が何かを着てるらしいというところまでは分かったのだが、再びお金の話になって頭が混乱。うーむ、初めての話はなかなか筋が掴みづらいなぁ。と無念。最後まで『吉好島』の話だと思っておりました。お恥ずかしい。

 

松浦四郎若/虹友美『西鶴諸国話より、武士気質/大晦日は合はぬ算用』

待ってましたの虹友美さんの三味線に導かれて、四郎若師匠の登場。真山隼人さんに伝授したという『円山応挙の幽霊図』でその名を知った名人。マクラも手短に『リストラ侍が酒の席に呼ばれ~』というような話をしてから演目へ。

終わった後で『鈴木 原田 浪曲』で検索しても引っかからず、Twitterで題名を尋ねると、真山隼人さんから『武士気質』、chaconne0430さんから『大晦日は合はぬ算用』との題だと教えて頂いた。どちらも良い題だと思ったので記載させていただく。

内容は簡単に言えば『男の美学』が凝縮された、『語らぬことが語ること』というような話である。当時の武士の気質が染み込んだ素敵な話である。

この物語の最初の節で、ぴりぴりっと背筋に電流が走った。四郎若師匠の円熟の節。そろそろ意識せずに「名調子!」が出ちゃうんじゃないかと思うほどの名調子。この前の浪曲十八番の五月一郎先生の『誉れの三百石』の時も、家で一人「名調子!」、「たぁっぷりりりぃいい」とか練習してしまうほどに、浪曲好きな人間になった。

そんな『思わず出ちゃう名調子!の掛け声』という『立つ際に出る屁』みたいな、もはや生理現象になりつつある衝動を堪えつつ、四郎若師匠の節と友美さんの三味線に痺れながら話を聞いた。

虹友美さんの三味線が生で聞くと音源で聞いていた以上に素晴らしくて、水色の可愛らしいお着物で、表情からは想像もつかないような、演目と空気感にぴたりと合った迫真の音色を披露されていた。四郎若師匠の中音豊かな節は、今まで聞いてきた名人の音源に感じてきた思い以上の、凄まじく胸を揺さぶる節。

「うわー、ええ声やんけぇー、ええ三味線やなー、ええ話やなぁあ~」と、思わず関西弁になってしまうほどの節。

四郎若師匠の表情も堪らない。節を唸っている時の表情が凄く素敵で、まるで名酒を飲んでいるかのような、人情を噛み締めてじわぁ~っと滲み出しているかのような表情。節をどう表現したらいいか分からないが、白みのあるお着物が神々しく輝いていて、ただただ圧倒されてしまった。

さらには、物語がかなりスッと入ってきた。割と登場人物が多い(七人)なかで、それぞれの表情であったりとか、親しい友人同士の仲睦まじさが感じられて、それほど多く描写が無いのに、ありありと光景が浮かんできたのは、四郎若師匠の節と声、そして虹先生の三味線の導きがあったからだろうと思う。

物語は若干ミステリーチックなのだけれど、そこに集まった者達の色んな心意気が錦繍のようで、最後の場面なんかもじんわりと温かいぬくもりに胸が熱くなった。

熱燗の名酒をとくとくと注がれ、美味しくて飲んでいるうちに、体も心も温まってきたというような、そんな凄さが四郎若師匠と虹友美さんの一席から感じた。節を聞いていると、なぜか頭の中で鼓の音が「ポンポンッ」と聞こえる時がたまにあるのだけれど、四郎若師匠の節の時にそれが何度かあって、そこに存在しない音にも魅力があるなと感じた。

聞き終えた後の『四郎若師匠ロス』が激しすぎて、「ああっ!すぐにでも聞きたい!」と思うほどに、絶品の、中毒性のある節だった。聴いている時は、体がぐぐぐぐっと前かがみになって、腹の奥辺りに力が入ってしまう癖があるらしく、絶品の節が来ると「ぐむむむむぅうう」っと前かがみになり、節が終わると「ふわぁあああ」っと開放されて背もたれに寄りかかって気持ちが良くなるというか、私だけかも知れないが、節を聞いている時に腹に力を込めていないと、何かが吹き飛ばされて行きそうになる感じがある。私はあれを『浪曲圧』と呼んでいて、真山隼人さんの時は浪曲圧が凄まじすぎて、節が終わった後の反動で飛んで行くんじゃないかと思うくらいに、ぐっとお腹に力を込めていたことがある。冒頭でいきなり『浪曲圧』がかかってくると、「名調子!」と「日本一!」とか声が出てしまうのだと思う。

とにかく素晴らしくて、浪情を掻き立てられた一席でした。

 

山中一平『河内音頭 雷電・神崎東下り

四郎若師匠と虹友美さんにたっぷり痺れた後で、最後は『踊り』の河内音頭。ここでもご活躍の虹友美さんは超絶技巧の三味線。会場にいた皆さんも河内音頭を踊られていて、お祭り気分の会場。ああー、お酒飲みたい!と思ったし、ああー、夜空の下で提灯の灯に照らされながら、お酒飲みたい!と思ったり、結局お酒を飲んで酔っ払って踊りたくなるような、素敵な河内音頭。山中一平さんの声や、太鼓、ベース、ギター、三味線。どれも温かくて粋で楽しくて、踊らなきゃ損なくらい、素敵な歌と踊りで会が締めくくられた。大満足の会が大団円を迎え、強烈な名残り惜しさに襲われながらも、心地よい気持ちで横浜にぎわい座を後にした。

 

2018年の締め括りと2019年への思い

総括すると、初めて松浦四郎若師匠と虹友美師匠の浪曲に触れて、関西の浪曲師さんの素晴らしさに驚愕したというか、東西にとんでもない浪曲師と曲師が存在しているのだなぁ。ということが改めて分かった。関東に住んでいるため、触れることの出来る機会は少ないかも知れないけれど、関西の方々が関東にいらっしゃったときは、逃さず見に行きたい。

名人も若手も、分け隔てなく活躍する演芸の時代が到来している。2019年は私にとって浪曲の年になるかも知れない。落語は盤石だし、講談は2018年に大きな基礎を築いたし、2019年は浪曲が脚光を浴びる年になったらいいな、と思う。そして2020年は落語・講談・浪曲の魅力が、世界にも発信されることになるかも知れない。木馬亭が日本の文化に敏感な外国の方(特にインド人)で埋め尽くされ、物凄いことになるかも知れない。そうなったらいいなぁ、と思ったりもする。

様々な演芸の温かいご縁を手繰り寄せて、2019年はもっともっとたくさんの演者さんの魅力をお伝え出来たらいいなぁ、と思う。演者もお客様も着実に素敵な方たちが増えているように私には思える。

どうかあなたも、素敵な演芸の糸を手繰り寄せて、あなただけの素敵な演芸の錦繍を形作って頂けたら幸いである。それでは、また。来年もどうか御贔屓に。

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