落語・講談・浪曲 日本演芸なんでもござれ

自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

落語を見た!という~2019年10月27日 鈴本演芸場 夜の部~

f:id:tomutomukun:20191028234132j:plain

働くって辛いな

 

濡れねずみ

 

シロー

 

街頭演説

 

大谷翔平

 

おれは古典しか

 

大地!

 

今日はちゃんとやります

 

ふわぁああ

 

 

という 

Looking forward to the future

未来に楽しみを失うことなんてできない。食べる楽しみを永遠に失うことができないように。

どんな時でも、『これからが楽しみだ』と思う気持ちがあれば、レッドブルを飲まなくても背中に羽は生える。ローラースケートが無くてもパラダイス銀河は歌える。君と出会った奇跡が、この胸に溢れなくても、きっと今は自由に空を飛べる。

寄席という場所に入って、自分の座りたい席に座って、高座にあがった芸人を見ていると、座っているのに、飛んでいるような心持ちになるのは、笑顔だからだ。『笑』という字は『ショウ』と詠む。舞台で繰り広げられる『Show』を見て、『笑』が起こって『生』じるのは『昇』の気持ちでしょう?

今宵も、これからが楽しみな人々が続々と出てきた。もちろん、私もあなたも、楽しみなのは、これからだ。以下、個人的に気になった方をピックアップで記載。

 

鈴々舎美馬 金明竹

開口一番は鈴々舎馬風師匠門下の美馬さん。読み方はビバではなく、ミーマ。馬るこ師匠に弟子入りを志願したが、色々あって馬風師匠門下になったというのを、新ニッポンの話芸で聴いたことがある。

金明竹という話は大変に難しい噺だ。登場人物の描き分けであったりリズムであったり、表情であったり、同じパターンが繰り返されるので、飽きさせずに淀みなく聴かせる力が必要だと思っている。

圧巻だったのは、美馬さんの上方からの来訪客の言い立て。恐らく馬るこ師匠直伝のハイスピードな言い立てで、数々の名品の名を言い放つ美馬さん。表情筋が半端じゃないほど動いている。もう一度言う。表情筋が、表情筋が、

 

 表情筋がすげぇえええ!!!

 

と、思わず思ってしまうほど、喋る喋る。音だけ聴いてると「レロレロレロレロ」言ってる感じなのだが、それが耳に心地よく、場内拍手喝采

まさに『これからが楽しみ』な美馬さん。一体どんな方向に進むのやら!

 

 柳家花いち 猫と金魚

お次はクロマニヨンズのマスコットキャラクター『高橋ヨシオ』に風貌が似ている花いちさん。新作ネタも強烈な個性を発揮していて面白い花いちさんだが、寄席の流れで古典の演目。新作を作る噺家さんは古典になっても随所に小ネタが光っていて面白い。一体何と表現して良いか分からない不思議な雰囲気と、軟弱で非力感が漂う登場人物の様子が面白い。特に旦那から何か言われて、その都度ぷるぷる震える奉公人の態度と表情が面白かった。

 

 隅田川馬石 元犬

この可愛さに包まれた饅頭食べたい。と思うほどふんわり柔らかい馬石師匠の雰囲気。まるで気立ての良い饅頭屋の娘が、もうもうと沸き立つ湯気の中で一所懸命に饅頭をこねて、額に汗を流しながら作った饅頭を食べているかのような、甘さと清らかさ。目の前に一匹、無垢な白犬がいるのだが、猫のような自由奔放さも感じる。馬石師匠、見る度、噺の世界に入り込んでいて、なんというか、違和感が無いと言えばいいのだろうか。人が一歩引いて物語を語っているという感じでは無くて、むしろ物語そのものが語っている感じ。馬石師匠のフィルターを通すと、登場人物達がまるで目の前にいるかのように浮き上がってくる。思わず手を触れて撫でてあげたくなるような、可愛らしい白犬の姿に心が和んだ。馬石師匠の十八番はいつ聞いても最高である。

 

 鈴々舎馬るこ 糖質制限初天神

世に古典と新作があるとするならば、馬るこさんはその中間を行っている気がする。以前、『馬・改造』と書いたことがあるが、もっと分かりやすく言えば『古典・改』と言っても良いかも知れない。古典をベースにしながら、思い切り現代的な感覚を導入して、ほぼ新作寄りのネタを作り上げる。この寄席の前に黒門亭で『闇のたらちね』を聞いたのだが、改めて馬るこさんの古典を下敷きにしたギットギトの現代風アレンジが最高だと思った。

古典をあっさりとした定番のラーメンだとすると、バームクーヘンのようなチャーシューが乗せられ、チョモランマを想起させる山盛りのモヤシがそびえたち、わけいってもわけいっても麺が見えて来ないラーメン版種田山頭火を、これでもか!これでもか!と力道山チョップの如く、体全身に叩きつけられる。

まさしく落語界の『ラーメン二郎』やぁ~、と言うと過言(?)かも知れないが、それくらいに古典のアレンジがなされている。言ってしまえば、好きな人は禁断症状が出るほど好きになるが、頻繁に食べると激太りするような、危険性(依存性?)を持った凄まじい落語をするのが、馬るこさんの魅力だと私は思う。

糖質制限初天神』に関しても、古典の『初天神』の流れをベースにしながら、糖質制限というワードにもがき苦しむ一人の男が出てくる。たった一つ『糖質制限』というワードを足しただけで、こんなにも抱腹絶倒の噺に様変わりしてしまうのかと驚愕するほど、馬るこさんの『馬・改造』された古典は面白い。

どんな風に古典が『馬・改造』されていくのか。これからが楽しみだ。

 

 柳亭燕路 粗忽の釘

前の馬るこさんとおしどりさんの芸を受けて、抜群の寄席の流れを一手に引き受けた代演、燕路師匠。あんなにウキウキしてはしゃぎまくっている燕路師匠を見たのは初めて。柳亭こみちさんの師匠で、こみちさんも物凄いウキウキ感で寄席の高座に上がられているのだが、正に燕路師匠にその姿があって、師弟の関係の素晴らしさに感動する。

はちきれんばかりに満面の笑みで燕路師匠が語り始めると、怒涛の勢いで粗忽な男が暴れまくり、物語の登場人物も客席もぶんぶん振り回される。いきなりジェットコースターに乗ってトップスピードで走り出すかのような爆笑の渦が巻き起こった。その中心で畳み掛けるように語り続ける燕路師匠の姿が、何かの神様に見えたのだが忘れてしまった。

滅多に見られないベテランの興奮した高座。寄席の流れと客席の温かさも相まって、最高に面白い一席を体験することができた。仲入り前にMaxの流れを作った燕路師匠。終演後もTwitterでは多くの人が燕路師匠の凄さをツイートしていた。

 

柳家小ゑん 長い夜・改Ⅱ

仲入り前は小ゑん師匠。彦いち師匠とはオフィスねこにゃさん主催の『どんぶらこっこ ゑ彦印』で二人会をされている。仲の良いお二人が同じ番組でトリと仲トリを務めるとあって、どちらも好きな私にとってはまさに『俺得』というやつである。

小ゑん師匠の素晴らしさは、マニアックな趣味や専門用語を喋っていても、それを聞いた人に全く知識が無くても、面白くて笑えるところである。なんだかよくわかんないけど面白いという究極の姿を体現しているのが、まさに小ゑん師匠の凄味の一つでは無いだろうか。

聞いているうちに意味が分かるという落語の『スピードラーニング』と言っても良いかもしれない。分かる人だけ分かれば良いと言う部分ももちろん残しながらも、寄席に来た初めてのお客様にも笑える話が多くて好きだ。仲入り中に「マティーニのところ、最初すぐにわからなかったー、悔しいー」と仰っている人がいて、そういう言葉を耳にするだけでも嬉しい。分からなくても面白い。分かっているともっと面白い。誰も拒絶せず、あるがままに受け入れてくれる懐の深い小ゑん師匠の落語。

なーんて、こんな素人が言うのは野暮だけれど、百聞は一見にしかず、見た人はきっと好きになるはずだ。

 

古今亭文菊 あくび指南

白い!白い!白い!いよっ!色男!

と、ついつい声をかけてしまいたくなるほど、アリエールを越える驚きの白さ。早乙女乱馬は水を被ると女性になり、お湯を被ると男に戻るが、私は文菊師匠が高座に上がると女性になり、袖に消えていくと男に戻る。そういう特異体質だと信じ込んでいる。

おそらく喜多八師匠直伝のあくび指南。これもまた久しぶりに見たのだが、相変わらずの切れ味。思わず、

 

あたいが

 あくびを

 指南してあげるわっ!!!

 

と、心の中で思う。私の中で少女鉄仮面伝説が始まり、私の心は南野陽子演じる麻宮サキに成り代わる。性別なんてナンノその。あたいの文菊を苛める人を見つけたら、「おまんら、許さんぜよっ」なのだが、ひとたび、あくび指南のお師匠様が出てくると、思わず息を飲む。会場がシーンと静まり返る。

思わず、私は鉄仮面を外したときのように、

 

 風…

 

 生まれて初めて頬に

 

 風があたっちょる…

 

それまで顔の衛生管理どうしてたんだよ、というツッコミは消え去り、小さく、乙女のように、呼吸を止めて一秒。文菊、真剣な眼差しをしたから、私の心が星屑ロンリネス。ああっ、やめて!そんな美しい瞳であたいを見ないで!あくびなんて、あくびなんて、もうどうでもいい!稽古を、稽古を、なんでもいいから、

 

 稽古をつけてくりゃれえええ!!!

くりゃれぇえええ!!!

くりゃれぇええええ!!!

くりゃれぇえええ!!!

 

眼差しで魅せ、声で魅せ、表情で魅せた文菊師匠。絶品の『あくび指南』。え?あくびですか?つられて?そんなわけないじゃないですか。あくびで吸い込まれたのは、空気と、私の心です(以上、文菊乱れお終い)

 

 林家彦いち という

放心状態のまま、南野陽子から私に戻った私(?)は、トリの彦いち師匠を見た。ん?ここは空手道場かな?という一瞬の錯乱の後、彦いち師匠はマクラから演目に入った。

名前だけは知っていたが、内容までは詳しく知らなかった『という』という演目。新作のネタなので詳細は語らないが、彦いち師匠らしい場面転換が光る一席。どことなくテイストが似ている話を聞いたことがあるが、それでも一言で場面が展開していく豪快さが鮮やかである。

もう心は大満足なので、彦いち師匠らしい一席が聴けて良かった。彦いち師匠の『圧』は、全然嫌な感じの圧じゃなくて、むしろボクシング・スタイルと言えば良いだろうか。『という』というキーワードを軸に、ワンツーパンチを繰り出し続ける姿は、まさに五度の防衛に成功した鬼塚勝也を彷彿とさせる。人生はワンツーパンチの水前寺清子先生は。。。

大満足の一席だった。

 

 総括 これから それから

最高の気分で寄席を後にした。一緒に行った方がいたので、落語会の楽しさを語り合った。最近、特に文菊師匠の懇親会に参加してから、語り合いたいという欲求が強くなってきた。それまでは、一人、パソコンの前で文字を書いてネットの人々に思いを拡げてきたが、直接、お話を聞いたり、お話をしたりするのはとても楽しいということに気づいた。ちょっとずつ、落語好きな方々と接点を持っていけたらいいなぁと思う。

基本的に、私は『好きな噺家さんは徹底的に語り、そうでもない噺家さんのことは語らない』というスタンスである。誰々が嫌いという話は、私には不要である。

これからも、それは変わらない。

この記事は、私の記事を読んでくれて、一緒に見た会の記事を読みたいという方のために書いた。

お喜び頂けたら、幸いである。文菊師匠のところは、お目汚し程度に乱れてしまいましたが(笑)

ではでは、この記事を読んでくれたあなたが、これからも素敵な演芸に出会いますように。

いずれ、どこかでお会いしましょう。

それでは、また。