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自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

SAN'IN IN THE SUN~2019年11月30日 神田連雀亭 第八回山陰合同勉強会~

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やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君

与謝野晶子『みだれ髪』

  

故郷は遠きにありて

年を重ねた男女の色気について、羨ましく思うことが多々ある。

一体どうやったら色気を身に纏い、怪しげで危うい紫色の、大人の色気を纏えるのか。藤圭子夏木マリの色気は、どうやったら出せるのか。伊集院静豊川悦司の色気はどうすれば出せるのか。自分の思う『色気』を、一生放つことが出来ないまま、私は死んでしまうのかと考えると、コンビニの棚に『色気』を置いてくれないかと思う。試供品でも良いから、『色気』が買える世の中になってくれたらと切に願う。

昔、スキー場だったかホテルだったか忘れたが、『食べるとモテモテになる飴』が売られていた。今考えれば自分でも馬鹿だと思うが、私は両親に頼んでその飴を買ってもらった。翌朝学校に行く前にその飴を舐め、「今日こそ、俺は女子にモテモテだ!」と、意気揚々として学校に行った。そんな馬鹿がモテるはずもなく、飴の効用が発揮されなかったことを恨んだ。

色気は、そう簡単には買えないのだ。

 

歴史に色気を学んでみる。何かの本で読んだが、昔の人々は、歳を重ねれば重ねるほど、今で言う『スケベ親父』になっていた。豊臣秀吉なんて信じられないほどのスケベ親父だった。インド独立の父であるガンジーも、次の一万円札で有名な渋沢栄一も、タイガー・ウッズも。偉大なる功績をあげる人物に共通しているのは『性欲が強い』という点である。と、歴史は教えてくれる(私の学び方が悪いのかも知れないが)

具体的な例を挙げないのは、私のブログの品格を落とさないためである。ブログだけは高潔を保ちたい。

なぜ冒頭にこんな話をしたかと言えば、久しぶりに参加した山陰合同勉強会で、瀧川鯉白さんの高座を見たからである。

エロは世界を救う。

山陰という言葉が、なんだか卑猥な言葉に聞こえてくる。

そんな合同勉強会の記録。

 

瀧川鯉白 ヨーグルトのフタ

初手、某有名子役の物真似から、フェチ全開(?)の鯉白さん。マクラを聴きながら「宇多田ヒカルと言ってること一緒だ・・・」と思った。

以下、引用、宇多田ヒカルのヨーグルトの食べ方。

 https://www.youtube.com/watch?v=VhpEKuqsJ1k

恐らく違法なので、消されるとは思うが、私はこの映像を思い出していた(というか、この動画を鯉白さんが見たら、興奮してしまうんじゃないだろうか)。同時に、私も鯉白さんと全く同感だった。昔、その食べ方で両親にめちゃくちゃ怒られた経験がある。「きたならしい!」とか「みっともない!」みたいに罵られながらも、「分かってないな!ここが一番美味いんだよ!」と言っていた思春期。鯉白さんに心の中で親指を上に立てていた。グッドジョブ。

語りの流れからネタ卸しの新作へ。どう笑っていいのか一瞬困惑するのだが、気持ちは共感している。共感してしまった以上、どれだけエスカレートしようとも、私は乗るしかない。

頭の中で与謝野晶子与謝野鉄幹の関係性が浮かび、必死に純文学の品位で想像を上塗りして固めようと思うのだが無理。もう完全にただの変態だった。最上級の褒め言葉として、鯉白さんは変態だった。

でも、なんていうか、世間体から解放された二体の雄と雌が繰り広げる物語かと思いきや、最後に「えええ!?」という転換もあって、もはや変態を越えた変態の一席だった。

良い変態を見ました。(絶賛しています)すいません。私も久しぶりに見た宇多田ヒカルの行動に、興奮しました(あとで消す)

 

桂伸べえ 鮑のし

変態の流れを受けつつも、見事にワールドを塗り替える芸協のお笑いミュータント、伸べえさん。どんなに前の人が変態であろうと、正統派であろうと、着物を着て高座に上がり、一言発すれば、そこから全ては『伸べえゾーン』。

伸べえさんで聴くの初。振り回される甚兵衛を地で行く雰囲気が良い。女将さんのツッコミが楽しそう。甚兵衛さん以外の登場人物の口調も面白く、文句なしの伸べえワールド全開。

もはや、自分に備わっているのか分からない母性本能が爆発する一席。ちょいちょい挟み込まれる現代のボケがめちゃくちゃ面白い。本当に凄い。古典が全て『伸べえ印付きの古典』に変わっている凄さ。圧巻の一席だった。

 

 立川幸之進 田能久

お次に登場は小気味良い語り口が粋な幸之進さん。前半二人の変態とミュータントの流れを見事にスルーして、江戸の風に持っていく姿のクールさが見事。

私も動画で見た芸協カデンツァの動画。詳細は以下

https://www.youtube.com/watch?v=qSFQFVFV5iE

この動画についての私の感想は控えさせていただくとして、ガチッと雰囲気を変えて、古典を語り始める幸之進さん。明るくハキハキとしながら、淡々と描写していく語りの気持ち良さ。心地の良いリズム。師匠である談幸師匠の、何とも言えない江戸前の雰囲気を纏いながら、張りのある素敵な語り。

立川流の田能久はシブラクで見たこしら師匠以来だった。と言っても、こしら師匠の『田能久』は独自のアレンジが聴いているので、実質は初ということになるだろうか。何とも言えない不思議にメルヘンチックな一席である。

 

 立川らく人 中村仲蔵

変態→ミュータント→江戸の風と来て、黒紋付きを身に纏ったらく人さんから醸し出される清流の如き清らかさ。凄まじいまでの端正な雰囲気。感覚的に、七大陸制覇の旅に出て、ようやく最後の大陸に辿り着いたかのような、きゅっと身の引き締まる感覚。

端正で流麗な語り口から始まったのは、『中村仲蔵』。詳細は語らないが、微に入り細に入り、素晴らしい一席だった。

とても丁寧で、中村仲蔵という人の成りであったり、思いというものが、まるで本を読んでいるかのようにするすると入ってくる。一つ一つの所作であったり、言葉や雰囲気はそれほど大きく、ダイナミックには動いてはいないのに、心に染み入るように語りが入ってくる。ふっとらく人さんの姿が消えて、試行錯誤する仲蔵の姿が浮かび上がってくる。女性を演じさせても一級品のらく人さんが演じる、仲蔵の女将さんの姿。目と眉の動き。全てが清らかな流れの中にあるかのような、知性のある語り口。

中村仲蔵』はそれなりに色んな演者で見てきたが、どれも演者の個性が際立っていて凄く良い。どれもが一級品に輝いている。もしもまだ『中村仲蔵』を聞いたことが無いという方がいるとしたら、誰でも良いので一度は聞いて欲しいと思う。

素晴らしい一席だった。絶品の一席だった。終演後のトークで鯉白さんの言葉通り、私もまったく同じ思いだった。というか、今回は激しく鯉白さんに私は共感し続けた。

 

トーク

トーク内容については、詳細に語ることは止す。伸べえさんの感じが、とても好きである。映画の『すみッコぐらし』を見たせいか、「ああ、いいなぁ。伸べえさんの立ち位置、いいなぁ」と思いながら見た。私も人前に出るのは苦手である。どこかでスイッチを押さないと、なかなか前に出れない。

終演後、良く同じ会場になる方とお話をさせて頂いた。二ツ目の未来は明るい。

そして、山陰にも太陽がある。四つ、別々の輝きを放つ太陽が。

久しぶりに参加することが出来てとても良かった。山の陰に隠れている感じというか、山の陰の良さを口にすることはないけど、みんなが分かっている感じというか。そんなぼんやりした空気が相変わらずで、私は嬉しくなった。

素晴らしい勉強会。今後も続いていきますように。