落語・講談・浪曲 日本演芸なんでもござれ

自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

Laughy Radio Show 鯉たま~2019年12月2日 浅草演芸ホール 夜席~

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I heard you on the wireless back in fifty two
Lying awake intent at tuning in on you
If I was young it didn't stop you coming through

The Buggles 『Video Killed The Radio Star』

  

Just Listen

ぼくが寄席であなたの落語をきいたのは、2017年の夏のことでした。

ひとりぼっちがさびしくて、夢中で寄席に飛び込んだものでした。

がらんっとした、風通しの良い客席でした。

ぼくはまだ寄席に通い始めたばかりで、なにもわからなかったけど、

あなたの一言一言がぼくの胸に飛び込んでくるのを

誰にも止めたりできませんでした。

あなたの言葉は、まるで松明に炎を灯すみたいに、

ひとりぼっちのさびしさに、明かりを灯してくれたものでした。

「そのままでいいんだ」

あなたは言いましたね。ぼくはその一言がうれしかったのです。

心の底から、うれしかったのです。

「楽しければいいんだ」

「人生は楽しいなぁ。そうでしょう?」

あなたは笑ってぼくのほうを見ました。涙が出ました。

どうして泣いていたのか、ぼくにはわかりません。

でも、あなたの一言には、あなたの笑顔には、

たとえ、百冊の本を読んでも得ることができないような、

温度がありました。

温かかったなぁ。

夏なのに、温かい雫がぼくの目からは零れて

ぼくは心の底から思いました。

「人生って、いいなぁ」

そんな思いを語るために、このラジオは始まりました。

今宵は、ラジオ風に語って行きたいと思います。

それでは、みなさま、チャンネルはそのままで、

Just Listen

 

瀧川鯉八 おちよさん

「人の心の裏表。知るも知らぬも自由だけれど、世間は何かと勘ぐりたがる。優しくすれば下心、素っ気なくすれば心上がり。なんて蔑まれてばかり。良いことばかりを口にすれば、やっかみ嫉みの機関銃。悪いことばかりを口にすれば、ベタベタ暗い粘りに巻き取られる。とかくこの世は生き難い。

そんな時代は今も昔も変わらぬようで、今は人の心の裏の裏の裏の裏まで剥がして剥がして見る世界。140文字で分かる筈も無い人の心を、さも分かったように理解するなんて、軽薄な世の中になったもんだと言ったのはどこの誰だか露知らず。長く書けば「長い」と罵られ、短く書けば「あそこはいらぬ」と罵られ、傷つき倒れて流されて、辿り着いたら黄泉の国。我が身体はドザエモンだよお富さん。

さてさて、そんな時代の移り変わりの真っただ中で、ここに男女の微妙な差異を、ご覧なさいと言わんばかりに言う男。姓は瀧川、名を鯉八。心優しき大男かと思いきや、『勘ぐれば 信じる間も無し 法話集』なんて、言わんばかりのテクニシャン。見た目大らか巨人に見えど、語る話題は哲学で、さながら恋の求道士。置いてけぼりを食らうのは、恋に疎い純な男か。はたまた初心で清楚な女生徒か。

断崖絶壁に立ちながら、自らの命捨てようと、身を投げた女に飛ぶ物。これいかに。投げた男の正体とは!?はたして、女の命やいかに!?

何度聞いても素晴らしい。考えさせられる話。こんな女に巡り合いたくない。だが、素敵な人に巡り合うためには、どこかで自分をアピールしなければならず、男のアピール力と、女のたこ焼きでも焼くかのような、ひっくり返す、ひっくり返す、そして見る、見る、見る。走らせる妄想。止まらない妄想。的中する妄想。黙る男。恥じらう男。戸惑う男。問い詰める女。狂気の女。狂っているのは誰か。鯉八か?それともおちよさんか?それとも聞いている私か?誰が狂っているのか、否、誰も狂っていないのか。男女の渦に飲み込まれて、辿り着く場所は混沌か?

えなりかずきが言うだろう。『男女の恋なんてこんとんじょのいこ

きっと、こう聞こえるだろう。

『男女の恋なんてかんたんじゃないか』

泉ピン子に会わせて、蕁麻疹でも出させてやろうぜ」

 

 笑福亭たま 山寺瓢吉(笑福亭福笑 作)

「お次はカミガタから。カミガタって言ったって、ヘアースタイルじゃないぜ。ルパンを捕まえる刑事じゃないぜ。おいおい、それは銭形だって?野暮なボケにツッコミは不要。大阪のことを上方って言うんだ。東京のことを江戸って言うことと一緒。女のことをスケっていうことと一緒。おっと、女がパンを食べてたらどうなるかって?おふざけは止してくれ。そういうときはパンって言わずに、ブレッドって言った方が、後々のためだ。ちなみに余談だが、アメリカのソフトロックバンド『Bread』の『IF』って曲は超名曲だから、みんな、チェックしてくれよな!(古っ)

上方落語界の音速の爆笑貴公子にして、即笑スナイパー、アイルトン・セナもびっくりの速度で畳み掛けられる『ショート落語』は最高だぜ。ジャズドラマーのバディ・リッチも驚愕の手数の多さ。秒速の小噺。笑ってる暇も無いくらい笑っちまうぜ(それは笑っているのか?)

そんな音速の爆笑貴公子が見せてくれたのは、浪花の爆笑首領、笑福亭福笑師匠作のネタだ。面白く無いわけないぜ。面白いか面白く無いかを理解する前に笑ってるぜ。

ネタは言っちまえば、バイオレンスだ。そこら辺のヤクザ映画を見てるみたいで、深作欣二が映画にしたいと言い出しそうな落語だぜ。仁義もクソもねぇぜ。そもそも深作欣二は死んでるから作品なんか取れないぜ。

この放送にコンプライアンスが関係無いように、福笑師匠作のネタをやったたまさんは最高だったぜ。たまが俺の胸に飛び込んで撃ち抜いて行った。たまだけに、弾丸だったてやつだ。どうだい、えっ!?もうそろそろ飽きてきたって!?関係ないぜ。今日はこういう感じで書くって決めたんだ。最高潮のボルテージで、アドレナリンマックスで書くって決めたんだぜ。一度決めたら二度とは変えぬ。人生航路を聞きやがれ。

終盤に出てくる山寺さん。こいつが最高。ダークヒーロー。今どき、こんな奴が主人公のドラマは見た事ない。でも、どっかで見た事がある。気に入らないやつはぶっ殺す。『メタルギアライジング』に出てくる『スティーヴン・アームストロング』みたいなイカれた野郎だ。

とんでもない爆音と、勢いと、半端じゃないバイオレンス。拳銃も飛び出す。罵詈雑言も飛び交う。意外に悲しい事実も飛び交う。

熱いぜ。上方!法令順守なんてくそくらえの最高の一席だったぜ!」

 

ザ・ニュースペーパー 漫談

「一旦CM入りましょうか。CMでぇっす。」キュイキュイ(ターンテーブルを回す音)

 

 春風亭柳橋 金明竹

「はい。楽しいCMも終わりまして、お次に登場は柳橋師匠。優しい雰囲気の素晴らしい師匠ですね。分かりやすいマクラ、妙に納得する小噺。その流れからの短い金明竹。これがですね。もうね、本当に素晴らしいのよ。ほんとうに。あのね、喩えるならば、マッサージね。凄い上手な人のマッサージ。性欲を抜かれた織田無道っていう感じね(笑い屋の声 アハハハハ)

いや、うそうそ。全然そんなことない。優しいオーラが滝のように流れてるわけですよ、柳橋師匠は。どことなくね、森にいそうな動物の雰囲気ね。自然に感謝している感じがするのよ。いやー、これは語弊があるかなぁ。でもね、滲み出るお饅頭みたいな雰囲気がね。最高なんですよ。茶屋?ここは茶屋か?みたいな。本当にねー、素晴らしい金明竹ですよ。ただね、オモトウが言うにはね。『金明竹は難しい』らしいのよね。はい、そんなわけでね。今日も無事じゃなく終わりましたけども。♪オレンジ色の~」

 

 三遊亭笑遊 魚根問

「ここでお便りが届いております。ペンネーム 森野照葉さん、男性。あっ、この方、住所も年齢も書いてませんね。鯉たまシール、ドーン!は出来ませんけれど、読ませて頂きますね。

バカボン鯉たまさん、きっくん、はじめまして』はい、はじめまして~

『ぼくは森野と言います。演芸が大好きで毎週寄席に行っています。

特に浅草演芸ホールで夏にトリを取る三遊亭笑遊師匠が大好きです』

へぇー、笑遊師匠が好きなんだぁ。いいねー

『笑遊師匠は、祇園祭や片棒、看板のピンやくっしゃみ講釈など、どれもとても面白くて、声が大きくて大好きです』

おおー、森野さんは小学生なのかなー?

『いつも、高座で楽しそうにしている笑遊師匠の笑顔を見ると、「人生っていいなぁ」と思います。ぼくは体が弱くて、人見知りで、人とおしゃべりすることが苦手です。小さい頃からあまりお友達と一緒に外で遊ぶことができなかったし、お話しすることもできませんでした。けれど、寄席で元気に大きな声で楽しそうに落語をしている笑遊師匠を見ると、なんだかいいなぁって思います。ぼくも、笑遊師匠みたいに、大きな声を出して、「行くぞ、行くぞ、行くぞ~!」とか、「イカってなんでイカって言うの?」とか、お父さんやお母さんに聞いてみたいです。今日、浅草演芸ホールで見た笑遊師匠の落語は、お魚さんの名前を聞くお話でした。ぼくも「なんでイカっていうんだろう?」とか「するめイカって、なんでするめイカって言うんだろう?」って思いながら聞いていました。笑遊師匠は、思いっきり楽しそうに、お魚の名前の理由をお話していました。ぼくは、今度学校で、それを友達にお話ししたいと思いました。それに、笑遊師匠はもうすぐ70歳になるそうです。お父さんが『古希って言うんだよ』と教えてくれました。笑遊師匠は骨が鳴るそうです。ぼくの骨は鳴りませんが、これから、コツコツ、頑張りたいと思います。アッペラペッペー』

はーい。とっても素敵なお便りですねぇ。最後のアッペラペッペーは笑遊師匠の物真似かなぁー?いやー、とても良いですね。きっとお子さんなのでしょうが、気持ちが伝わってきますね。はい、森野さんね、後で住所をメールしてくださいね。鯉たまシール差し上げますからね。一体いくつなんだろうね?イカの話、是非学校でしてほしいよねぇ。

実はきっくん。僕もね。結構人見知りなんだよ。人から話しかけられない限り、絶対に人には話しかけないの。なんでか分かる?怖いんだよね。相手の時間を奪っちゃうことがさ。自分と話して面白いと思われるかな、とか。なんか気にしちゃうんだよ。周りは「気にし過ぎですよーバカボンさーん」とか言うんだけどね。あとさ、人の目を見て話せないの。これも昔っからそうなのよ。酷いよ。小学生の頃の写真とか。いかにも暗そうな顔しててさ。

 

やなぎ南玉 曲独楽

でもね、落語っていいよ。凄く良い。僕は森野さんの気持ち、良く分かるなぁ。寄席ってさ、365日やってるって、きっくん知ってた?でしょ?知らなかったでしょ。でさ、寄席って、本当に毎日、色んな噺家さんが出るし、マジシャンとか曲芸やる人も出るわけ。俺もこの前見てきたけど、やなぎ南玉師匠、凄かったよ。笑遊師匠の大爆笑の空気をね、ピリッと真剣な空気に変えて、素晴らしい曲独楽を披露したわけさ。俺感動しちゃってさ。空気の繋がりが凄いのよ。これは寄席に行かなきゃ分かんないだろうなぁ。

さっきの話に戻るんだけどさ。人見知りだとさ、相手と会話しなきゃいけないじゃん。ちょっと、自分を良く見せようとしちゃうじゃない。肚に思ってることと、違うこと言わなきゃならないときがあるじゃない。でも、寄席はさ、高座の噺家さんを見て笑ったり、拍手するだけでいいの。あと、言いたかったら「待ってました!」って言ってもいいんだよ。面白く無かったら寝ればいいしさ。ほんと、色んな人がいるからさ、そりゃ、何を思ってもいいわけ。浅草だと酔っ払いも多いけどね。あの看板の文字が読めない人は入場お断りらしいんだけどさ。他の人の邪魔にならなきゃいいと思うんだよ、俺は。

本当にさ。俺も浅草演芸ホールに行ったわけ。もしかしたら森野さんと同じ会場だったかも知れないけど、俺は森野さんほど子供心に帰って見たわけじゃないんだけどさ。とにかく良いんだよ、寄席。すげぇ良いの。なんていうかさ。ひとりぼっちでさびしい思いしてる人とかさ、仕事の人間関係とかさ、擦り減るじゃん、心が。毎日家を出てさ、心をかんなで削られてるわけよ。かつお節だよ、俺の心なんてさ。その削ったかつお節で出汁を取ったらさ、いい味すると思うぜ。大勝軒みたいに暖簾分けできるスープ作れるぜ。麺は知らないけどさ。話それたけど、そういう擦り減った心にさ、「お前はお前のままでいいんだ!」って言ってくれるんだよ、落語は。下手に見栄を張ったりとか、背伸びしたりするやつは出て来ないの。全員が全員、自分でぶつかってんのさ。分かる?これって難しいことよ。着飾る事に慣れすぎちまってさ、本当に自分見失いそうになるときない?無いか?そうか、きっくんは無いか。俺は時々あるよ。そういう時に思い出させてくれるのよ。落語ってのはさ。

おっといけねぇ。この話にはオチがねぇや。」

 

 瀧川鯉朝 聖夜の鐘(柳家喬太郎 作)

「さ、そろそろエンディングの時間がやってまいりました。最後にきっくんから、何かありますか?」

「あ、はい。いいですか。この前私、瀧川鯉朝師匠がトリの浅草演芸ホールに行って来たんです。凄く良かったんですよ、鯉朝師匠。なんていうか、あの、クラスにアトピーを持ってる人とかいませんでした?海老アレルギーとか、魚介アレルギーとか」

「うーん、俺のクラスにはいなかったかなー。ニキビに悩んでいるやつはいたけど」

「あ、そうですそうです。なんていうか、僕にとっては、そういう人達を見るような思いに近かったっていうか。語弊があるといけないんですけど、なんていうか、その、自分ではどうすることもできない、体の拒絶反応ってあるじゃないですか。そういうのを受け入れて生きてきた人の強さっていうか、たくましさみたいなものを、僕は鯉朝師匠から感じたんです」

「きっくん、それちょっと詳しく」

「はい。あの、僕は普段、アレルギーとか気にすることなく食事をしています。でもアトピーの人達は、生まれながらにアレルギーを持っていて、海老が食べられなかったりする。昔の僕だったら『可哀想だな』とか、『うわー、海老の美味しさを知ることができないんだ』って、どっちかと言えば蔑んでしまっていたと思うんです。でも、大人になって、なんていうか、そういう人達が抱えているものって、僕にも理解できるなって思ったんです。あの、誤解されると嫌なんですけど、なんていうか、どうすることもできないじゃないですか。僕が仮に事故で右腕を失ったとするじゃないですか。そりゃ、右腕失ったら文字も書けないし、箸も持てないし、大好きな彼女の手も握れなくなる」

「きっくん、彼女いるんだ。ていうか、左手はどうした、左手は」

「いや、彼女いますよ。バカボンさん、僕を何だと思ってたんですか。まぁ、話し戻りますけど。左手じゃダメですよ。やっぱり、彼女は僕の右側にいて欲しいから。それで、多分、僕は右手を失ったショックで自殺するかも知れないと思うんですよ。でも、鯉朝師匠の高座を見ていたら、思いとどまれるというか」

「なんじゃそりゃ。きっくんの右手を鯉朝師匠が担ってるってこと?」

「いや、そういうことじゃないんですけど。なんていうか、『無くてもいいんだ』っていうか、『今のままでいいんだ』って言う感覚なんですよ。すいませんね、さっきのお手紙の影響か、僕も良い話しちゃうんですけど。ほら、有ったものが無くなると、苦しみとかストレスって計り知れないじゃないですか。たとえば、バカボンさん。今後一切、お刺身を醤油無しで食えって言われたら、めっちゃショックじゃないですか?」

「いや、それはかなりショック・・・」

「ですよね。でも、醤油が無いのが、お刺身本来の味を楽しめるじゃないですか。考えてみれば、醤油って邪魔なものじゃないですか。そりゃ、美味しいけれど、無くてもいいぞっていう。むしろ、無いとか有るとか関係無くて、現状が最高なんだ!っていう、そういう感覚を鯉朝師匠から感じたんです。ありのままを受け入れるっていう」

「レットイットゴー的な?」

バカボンさん、僕の話、真面目に聞いてます?まあ、いいや。僕も上手く伝えられたか分からないんですけど、凄く、温かいんですよ。聖夜の鐘っていう演目で、柳家喬太郎師匠っていう凄い噺家さんが作った噺なんですけど、鯉朝師匠の人柄がにじみ出ていて、なんていうか、貧しても鈍しないっていうか。貧しいには貧しいなりに幸福があるっていう。ああー、なんかよくわかんないけど、幸福の形って、人それぞれだとおもいませんか!?」

「はい、ではお時間が来たようです~」

バカボン鯉たま、コロス・・・」

「えっ?きっくん何か言った?凄い殺意を感じたんだけど」

「・・・」

「はい、殺意を感じたところで、今日はこれにて!」

「来週からは、平野レミさんの、洗脳クッキングが始まりまーす」

「安易にネタにしちゃ駄目だよ!それでは、皆さんが素敵な演芸に出会えることを祈って!」

「「バイバーイ!!!」」