落語・講談・浪曲 日本演芸なんでもござれ

自称・演芸評論家が語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!お仕事のご依頼、文章のご依頼はtomutomukun@gmail.comまで!

落語の敷居は高くない

世界三大珍味。トリュフ、フォアグラ、あと一つは?」と聞かれて、

ガッツ石松、こう答えた。

さきいか

視聴者全員「それは名取の珍味だろ」

ガッツ石松、思い出したように、

「あ、間違えた。キャタピラだった」

そいつは食えねぇ 。

  

 落語に限らず日本演芸は敷居が高いと思われている節がある。伝統芸能は料金が高く、お金持ちの紳士・淑女が通う場だと思われている。だが、そんなことは決してない。ほぼ浮浪者かと見間違うような酒臭い親父が、舞台に立った演者に野次を飛ばす。そういうことが起こりうる場所の値段は破格である。特に寄席は安い。昼の12時から夜の21時頃までずっと演者の話を聞き続けて、たったの3000円である。

 寄席は伝統芸能でありながら、大衆に開かれた場である。たった3000円払うだけで酒臭い親父も、青臭い少年も、黴臭いパンも入り放題なのである。

 舞台に演者が代わる代わる出てきて面白い話をし、時間が来ると去っていく。ぼんやり余裕を持って聞いていると、きっと自分に合う落語家に出会える筈である。

 人の話を聞くことに疲れたり、そんな集中力など塵ほども無いという人には寝ることをオススメする。寝て聴く落語は格別である。私のように寄席に行き慣れてしまうと、毎度同じネタばかりやる落語家が出てくるとすぐに寝る。どれだけウケていても寝る。その時間だけ休憩時間だと思って寝る。3000円の使い方は人それぞれであって、他人様に迷惑をかけず、イビキをかかず、ただじっと寝ながら落語を聞くことだって自由である。もちろん、寝られた落語家にとっては辛いのかも知れないが、そんなことは知ったことではない。つまらないお前が悪いのだと心の中で思っていればよろしい。

 落語家に関して、好き嫌いというのは本当にその人自身の問題であるから、とりあえず3000円だけ払って、自分の集中力が続く限り落語家の話を聞いて、ああ、こいつは面白いなと思ったら、その落語家が出ている個別の落語会(独演会etc...)に出てみるなども手である。人気の落語家ほどチケットは取りにくいと言われているが、数秒で完売するほどのものではない。大抵の会社員が休むことのできる土日の落語会はかなり倍率が高く、チケットは取りにくいが、平日の19時頃からのこじんまりとした落語会がオススメである。なかなか大御所と呼ばれる落語家はそういう小さな会には出ず、大ホールなどの大勢のキャパがある場所で落語を披露することが多い。運よくチケットが取れても点のような落語家を、見えているのかいないのか分からずに聞くことになる。それではせっかくの表情等を楽しむことができない。中には双眼鏡を取り出して見ている観客もいるが、そんなことをするくらいなら前の方に座った方が得である。

 大御所ほどチケットは高い。大御所の落語家の芸は確かに優れているが、若手だって負けてはいない。落語家には階級制度があって、ドブネズミ並みの扱いの前座→やっとスタートに立った二つ目→一定の芸を身に付けた真打→ご臨終という形である。

 前座の中には輝くほどの才能を持った人間もいる。こんなどうしようも無い芸の真打がいるのか?と驚くほどの真打の落語家もいる。それはあくまでも私の主観であるが、おそらく寄席に通っているとそういう考えになるだろうと思う。あまり寄席に通いすぎるというのは少し問題があるかもしれない。だが、寄席には寄席の楽しみがあるのだ。

 寄席は私が思うにコース料理だと思っている。最初からとても美味しい料理が差し出されることは無い。まず徐々に前菜などから口を慣らしていって、最後に最高の料理を頂く。終盤になっていくにつれて面白さが上がっていくのが寄席である。最初から血眼で「さあ、面白いことをやってみせろ!」という観客は殆どいない。3000円払ったからといって、徹頭徹尾、笑いっぱなしということは無い。それはさすがに疲れてしまう。車の加速と同じように、徐々にスピードが上がっていくのである。確かに1万円とか10万円とか高い金額を出せば、「とてつもない面白いことをやってみろ!」という気持ちは強くなるだろう。本当にその落語家が面白ければ1万円でも10万円でも安いと思うだろう。まぁ、そんなことはありえないが。

 だから3000円という価格設定は本当に丁度いい。軽い気持ちで3000円をドブに捨てたと思って寄席を見ると、とても満足できるだろうと思う。むしろ、そういう気持ちで寄席に行って頂きたい。「今日は金をドブに捨てる日だ!」とはっきりと諦めて寄席に行く心持ちが初心者には必要である。「今日は人生で最高に笑う日にするぞ!」と思って3000円を支払い寄席に行くと、もう目も当てられないほど悲惨な目に合う。

 初心者が寄席の最初から最後までいるのは少しキツイと思う。忙しくて寄席どころではないという人には、19時から入場することをオススメする。上野・新宿・池袋・浅草と、19時以降は1500円に割引される夜割という制度がある。これは実に安心できる制度である。この19時以降というのは面白い人間しか出てこない時間なのである。と言っても人によって好き嫌いは当然あるが、まず外れが無いのが19時台からトリまでの時間である。私はこれを『寄席のゴールデンタイム』と呼んでいる。とにかく笑って帰りたい、つまらない芸人は見たくない、頭を使って考えたくない、そういう人には是非ともオススメしたい。これなら3000円よりもさらに入りやすいだろうと思う。

 寄席は何も落語家だけが出るとは限らない。漫才師や奇術、講談まで様々な芸人が出てくる。是非ともそういう芸人の芸を見ていただきたい。落語の敷居は全く高くないのである。女人禁制でもなければ、政治家お断りでもない。ただふらっと魔がさして入るくらいが丁度いいのである。