落語・講談・浪曲 日本演芸なんでもござれ

自称・演芸ブロガーが語る日本演芸(落語・講談・浪曲)ブログ!

落語の敷居は高くない 2018年5月19日

千里の道もピップから

 

日本の演芸は、伝統があって格式張っていて、金持ちの娯楽と思われている。

南部 虎弾みたいな眼鏡を掛けた老婦人が、着物姿でプードルを抱きながら、「愚民どもの汗が、あたくしどもの血と金になるザマス」と言っている姿を思い浮かべているとしたら、大間違いである。(それは本当に間違っている)

南部 虎弾のような人々が多くいるのが、寄席である。否、それでは少々語弊がある。南部 虎弾がいてもいい場所が寄席である。否、それでもまだ少々語弊がある。よっぽどの酔客で無い限りは、寄席は誰でも入れる。蠅は木戸銭を払わずに入っているし、猫は木戸口で気持ちよさそうに寝ている。寄席に来る客は、全員、誰もが電撃ネットワークなのだ(間違っている気がするが、敢えて修正しない)

寄席の料金は破格の安さである。昼の12時から夜の21時頃まで、演者の話を聞き続けてたったの3000円である。2時間の映画ですら2000円近く取られる。高級マッサージ店では60分で25,000円。宇都宮の高級風〇だと2時間で50,000円は取られる(らしい)。

舞台に演者が代わる代わる出てきて面白い話をし、時間が来ると去っていく。それが寄席のスタイルだ。まるでコース料理。出てくる料理はどれも美味しい。ぼんやり余裕を持って聞いていると、きっと自分に合う落語家に出会える筈である。

人の話を聞くことに疲れたり、そんな集中力など塵ほども無いという人には寝ることをオススメする。寝て聴く落語は格別である。もしも自分の感覚に合わない噺家が高座に上がったら、その時間だけ休憩時間だと思って寝るのも良いだろう。嫌なことからは目を背けていいし、つまらなかったら寝てもいい。気を付けて欲しいのは、「あの芸人、クソつまらなかった!」と憤慨して、Twitterなどで呟かないことだ。あなたは満足するかも知れないが、それを聞いている第三者は何と思うだろうか。想像は容易い。あなたをつまらないと思うだろう。よほど意見が的を得ていない限り。

さて、3000円の使い方は人それぞれであって、他人様に迷惑をかけず、イビキをかかず、ただじっと寝ながら落語を聞くことだって自由である。

イビキではなく、鳴らされる携帯電話はもっとひどい。

切らなかった携帯の電源が鳴るということは、やたらと大きい屁が鳴ったのと同じである。周囲に撒き散らされた屁の臭さは、本人が思っている以上に臭いのだ。屁の匂いを嗅いだ周囲の客人の、心の火だけは灯さないで頂きたい。下手をしたら爆発する可能性がある。

下記に寄席鑑賞の注意点を記しておこう。

・携帯の電源は必ず切ること。電源の切り方を知らない場合は、思い切り床に叩きつけて壊すか、そうしたくなければ周囲の人に必ず聞くこと。鑑賞前に必ず確かめよう。電源の切り忘れによって、演芸鑑賞中に携帯を鳴らしてしまった場合、必ず身元がバレることを肝に銘じよう。Twitterにはあなたの悪口がアップされ、最悪の場合は地獄行きの呪いを掛けられる。私の『地獄行きリスト』にも、残念な人々の醜い顔が記載されている。あなたの持っている携帯は、いつ泣き出すか分からない赤子ではない。いつ爆発するか分からない爆弾なのだ。当然、処理を間違えると爆発して、大勢の観客を道連れに、最悪の演芸鑑賞の思い出を作ることになってしまうだろう。B-29を広島と長崎に投下した米兵に当時の日本人が抱いた気持ちと、ほぼ同じ気持ちを抱かれることになる。そんなの知ったこっちゃないという無神経な方には、どうか安らかではない永遠の眠りが訪れることを願う。

どうか、補聴器を付け始めたご老人の方々、今一度、電源のご確認を。

・ヤジは飛ばさないこと。ものすごく酔っぱらって聴く落語は最高に楽しいが、決して「へたくそー」とか、アサダ二世さんに「さっさとマジックやれー!」などと言ってはならない。心の声を、出してはならない。

寄席では、『心の声が出ちゃう人』がいる。「なんだこの芸人、くそつまんねーな」などと口にしてはならない。心の声を漏らすことは、寝小便よりタチが悪い。何より、周囲で聴いている客を不愉快にさせてしまう。もしかしたらあなたが物凄くつまらないと思っている噺家は、両隣の人にとっては面白いと思える噺家かも知れないのだから。気をつけろよ、そこのハゲデブ眼鏡オヤジ。なんて、心の声は決して出してはならないのだ。

・写真撮影・録画・録音は一切禁止である。高座に上がった芸人は、動物園の動物ではない。幾ら可愛いと思っても、写真を撮ったり、録画したり、録音をしてはならない。そう思わなくても、場内での撮影・録音・録画はご法度である。初めて寄席に訪れた人は、興奮のあまり写真を撮ってしまうことがある。かくいう私も初めて大手町ホールに行ったときは、開演前のホールの様子を撮影してしまって係員に注意された経験がある。

許可を得た人には、必ず首から下げる許可証が与えられる。勧進帳が無ければ関所を抜けられないのだ。

以上、上記3点が落語鑑賞のマナーである。この記事を読んでいる方の中にはいないと思うが、是非、注意されたし。

さて、話を戻そう。

噺家に関して、好き嫌いというのはその人自身の問題であるから、とりあえず3000円だけ払って、自分の集中力が続く限り噺家の話を聞いて、ああ、この人は面白いなと思ったら、その噺家が出ている個別の落語会(独演会etc...)に参加するなども手である。人気の噺家ほどチケットは取りにくいと言われているが、数秒で完売するほどのものではない。大抵の会社員が休むことのできる土日の落語会はかなり倍率が高く、チケットは取りにくいが、平日の19時頃からのこじんまりとした落語会がオススメである。なかなか大御所と呼ばれる噺家はそういう小さな会には出ず、大ホールなどの大勢のキャパがある場所で落語を披露することが多い。運よくチケットが取れても点のようにしか見えない噺家を、見えているのかいないのか分からずに聞くことになる。それではせっかくの表情等を楽しむことができない。中にはバードウォッチングでもするかのように、双眼鏡を取り出して見ている観客もいるが、そんなことをするくらいなら前の方に座った方が得である。(その時見ていた噺家さんは白鳥師匠だろうか)

前述したが、寄席はコース料理だと思っている。最初からとても美味しい料理が差し出されることは無い。まず徐々に前菜などから口を慣らしていって、最後に最高の料理を頂く。終盤になっていくにつれて面白さが上がっていくのが寄席である。最初から血眼で「さあ、面白いことをやってみせろ!」という観客は殆どいない。3000円払ったからといって、徹頭徹尾、笑いっぱなしということは無い。それはさすがに疲れてしまう。車の加速と同じように、徐々にスピードが上がっていくのである。確かに1万円とか10万円とか高い金額を出せば、「とてつもない面白いことをやってみろ!」という気持ちは強くなるだろう。本当にその落語家が面白ければ1万円でも10万円でも安いと思うだろう。

だから3000円という価格設定は本当に丁度いい。軽い気持ちで3000円をドブに捨てたと思って寄席を見ると、とても満足できるだろうと思う。むしろ、そういう気持ちで寄席に行って頂きたい。「今日は金をドブに捨てる日だ!」とはっきりと諦めて寄席に行く心持ちが初心者には必要である。「今日は人生で最高に笑う日にするぞ!」と思って3000円を支払い寄席に行くのも良いが、期待を裏切られた反動で寄席に通わなくなってしまっては大変である。「今日は良い演芸に出会えたらいいな」という祈りの気持ちが大切である。

初心者が寄席の最初から最後までいるのは少し大変だと思う。忙しくて寄席どころではないという人には、19時から入場することをオススメする。上野・新宿・池袋・浅草と、19時以降は1500円に割引される夜割という制度がある(多少、場所と番組内容によって金額は異なる)これは実に安心できる制度である。この19時以降というのは面白い人間しか出てこない時間なのである。と言っても人によって好き嫌いは当然あるが、まず外れが無いのが19時台からトリまでの時間である。私はこれを『寄席のゴールデンタイム』と呼んでいる。とにかく笑って帰りたい、頭を使って考えたくない、そういう人には是非ともオススメしたい。これなら3000円よりもさらに入りやすいだろうと思う。

寄席は何も落語家だけが出るとは限らない。漫才師や奇術、講談まで様々な芸人が出てくる。是非ともそういう芸人の芸を見ていただきたい。落語の敷居は全く高くないのである。女人禁制でもなければ、政治家お断りでもない。ただふらっと魔がさして入るくらいが丁度いいのである。

最後にもう一度言っておこう。くれぐれも携帯を鳴らさぬようにお願い申し上げたい。スカイツリーが完成目前で、大地震によって破壊されたとしよう。この時の大地震とは、鳴らされた携帯であり、スカイツリーは演者と客席が一体となって作りあげた芸である。もしもあなたが神経を持たない人間だとしたら、まずは病院に行って神経をどなたかからでも良い、移植を受けてほしい。首里城に火を点けた犯人と等しい行為、それが寄席で携帯を鳴らすということなのだ。

また、お菓子のパリパリ音も演芸の妨げになる邪魔な音だ。客席も演者も、誰が音を鳴らしているのかハッキリと分かる。先日、寄席のトリを取っている最中に、お菓子パリパリで注意され、逆ギレする客を見かけた。酷い顔と体をしていて、「無神経な顔つきだな・・・」と思ったこともある。地獄行きの呪いがかかっているので、私は何も言うまい。

それでは、あなたが携帯の騒音とお菓子のパリパリ音に悩まされずに、

素敵な演芸に出会えることを祈って、この記事を終わります。