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志ん駒駅始発、真打行き~鈴本演芸場9月23日 古今亭駒治 真打昇進披露興行~

 

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 「おう兄(あん)ちゃん、飯食おう。すごい定食屋があるんだ。
目白にしかないから、ついてこい」。

 

「鉄道戦国絵巻」も、創ったときは誰も笑わないと思いましたもん。

 自分の趣味だけだなと。

 

誰も歩んだことのない道にようやくレールを敷きました。皆様、どうかこの駒治に末永くご乗車頂けますようお願い申し上げます。

 

駒治線 志ん駒駅始発~志ん橋駅経由~真打行き 本日出発致します。

  長い行列が鈴本演芸場の前に出来ているのを目にしたとき、長い長い修行期間を終えて、真打として立派な門出に立った一人の落語家の全てがあるように思えた。

 並ぶ人達の顔を見ていると、実直で真面目な鉄道員のような60代前半の紳士や、電車が大好きそうな30代と見られる男性、駒治師匠を優しい表情で待ち侘びているご婦人の集団、一言で言えば、鉄道ファンとしての品格を纏ったお客様が多いように思われた。

 しばらく列に並んでいると、急に女性の歓声が上がる。見ると、紺色のスーツを着て、赤地に電車の刺繍がされたネクタイをした古今亭駒治師匠が、白いアタッシュケースを引きながら丁寧にお客様に挨拶をされていた。どれだけ嬉しい心持ちなのだろうと駒治師匠の後姿を見送る。列に並んだお客様の温かい目が印象的であった。

 駒治師匠の真打披露興行は前売りで完売。なかなか珍しいことだ。それまでに培ってきた駒治師匠の落語に、多くの人が魅了され門出を祝いにきた。この事実が駒治師匠の凄さを物語っている。新作派として鉄道落語に限らず多くの作品を作ってきた。『十時打ち』、『鉄道戦国絵巻』、『公園のひかり号』、『CO-OP』etc...、林家彦いち師匠に駒治師匠は「新作だけしかやりません!」宣言をして「それはまずいでしょ」と言わせたという伝説がある。

 古今亭駒治師匠の魅力は何かと問われれば、私はその流暢な口調であると答える。今年の1月に亡くなられた古今亭志ん駒師匠のリズムを引き継ぎ、畳み掛けるように言葉を発して観客を乗せて行く。そこには、駒治師匠のDNAにまで染み渡った列車のリズムが混ざり合っているように思える。飄々としているようで内心は緊張しているのかもしれない。駒治師匠の心の奥底までは垣間見ることができない。それでも、耳馴染みの良いリズムに惹き付けられて、私はいつも古今亭駒治という列車に乗車してしまうのだ。

 

 着席をして、ざっと席を見回す。やはり実直そうな方が多い。もしかして半分以上は鉄道員なのではないかと思うほど、きびきびとした動きをする客が多い。特に驚いたのは、真ん中の席に座っていた男性、すっくと席を立つと左右に並ぶお客様にほぼ90度の角度で頭を下げながら、「すみません。申し訳ございません。どうもありがとうございます」と言いながら、席に座るお客様の前を申し訳なさそうに通って通路に出て行く。なんて素晴らしいお心をお持ちなのだと感心をしていると、戻ってきて自分の席に座る時にも同じ動作をしていて、平身低頭、私も見習いたいと思った。

 相変わらず前の方には常連のお客様が多い。古今亭駒治師匠の客層を知るためにわざわざ後ろの席に座るという涙ぐましい努力をしながら、私は舞台より手前、左右にある壁掛けの提灯に目を凝らした。9月に真打昇進をする新真打の名前と家紋が記された提灯が掛けられている。場内撮影禁止だったとは思うのだが、古今亭駒治師匠の名前と家紋が記載された提灯を多くのお客様が撮影されていた。今日くらいは無礼講だろうと思い、特に口出しをすることなくじっと見つめている。満席の場内が鉄道員の品格に包まれる。前の方にはご婦人方が多く見受けられ、どこでどう出会ったのか少しばかり気になったが、私はじっと開演時間を待つことにした。

 

 初めて古今亭駒治師匠に出会ったのは、昨年の深夜寄席でのことである。トリで『十時打ち』をやったとき、まるで新幹線に乗ったかのような爆笑に包まれ、畳み掛けるような言葉と押し寄せる笑いに度肝を抜かれた。私はその時、あまり鉄道に詳しくなく、今でもさほど鉄道に詳しいわけではないのだが、そんな素人の私でさえ大笑いしてしまうほどの勢いで、古今亭駒次という二つ目の落語家がネタをやっていたのである。もはや真打の領域だと思っていたところに、今年の真打昇進が決まった。異議なしと思いながら待ち望んでいて、今日を迎えた次第である。

 舞台の幕が開く。舞台の後ろの壁には古今亭駒治師匠の横断幕。さながらビールのような黄色い布地に、泡のような白い丸が描かれ、赤字にのの字の下をぐーーーと伸ばした文字の左に、古今亭駒治の文字。少し離れて正面左にはホッピーの白い文字があって、何か関係があったのだっけ、と思いつつ開口一番は柳家花ごめさんで『寿限無』。お綺麗なご婦人の戸惑いに会場が湧くアサダ二世のマジック。スケベな玉の輔師匠の『紙入れ』、渋くハスキーなお声の志ん橋師匠の『無精床』、バリバリにノりながらも時間調整を図るホームラン、文楽師匠の十八番で『権兵衛狸』、鈴々舎馬風師匠はお馴染み『楽屋外伝』、見たことを忘れなければならない翁家社中の芸、そして仲入り前に

さらりと正蔵師匠で『新聞記事』。

 仲入りが終わって、いよいよ【真打昇進襲名披露口上】

 ここで一つ、ハプニングが起こった。前座の柳家小ごとさんという、ウルトラマンに出てくる怪獣レッドキングに似ている落語家が、諸注意として「携帯電話の電源をお切りください」というアナウンスを終え、拍手を受けて去っていったあと、いよいよ口上の幕が上がるというタイミングで、

 

ピリリリリリリリリ

 

 前列で携帯が鳴ったのである。会場中に苦笑いが起こり、どこからかちらっと「電源切っとけって言ったじゃないか」という声が聞こえた。

 大切な披露目であるから、携帯の電源だけはどうかお切り頂きたいと切に願う。

 

 さて、そんなハプニングの後で幕が上がる。舞台にはずらりと落語家が並ぶ。

 左から、

 

五明樓玉の輔師匠 林家正蔵師匠 桂文楽師匠 古今亭駒治師匠 古今亭志ん橋師匠 鈴々舎馬風師匠 柳亭市馬師匠

 

 錚々たるメンバーの中心でじっと顔をあげて真正面を見つめる駒治師匠。場内はいつ止むのか分からない程の拍手で包まれている。ざっと並んだ師匠達の口上を聞くと、玉の輔師匠は「口上見学」、正蔵師匠は「鉄道戦国絵巻を聞いて凄いと思った」、文楽師匠は「師匠、志ん駒も草場の陰から見守っているでしょう」、中でも一番良いことを言っていたのは志ん橋師匠。「誰も歩んだことの無い道にようやくレールを敷いて」という言葉に思わず涙腺が緩んだ。歳を取るとどうにも涙腺が緩んで仕方がない。

 古今亭志ん駒師匠に憧れて飛び込んだ芸の世界。二つ目になって一心に突き詰めた新作落語の創作と葛藤。その全てを私は目の当たりにしたわけではない。それでも、今日まで諦めることなく、絶えず物語を生み出し続け、切磋琢磨しあった大勢の仲間に支えられて、今日、晴れの舞台を迎えた古今亭駒治師匠。その幸福な瞬間を鈴本演芸場の満員の場内で、客席、演者だけでなく、天国で優しく微笑みながら見守る志ん駒師匠が共有していた。

 どんな気持ちで駒治師匠はいるのだろう。私は想像することしかできない。けれど、間違いなく駒治師匠の思いは大勢のお客様に届いたのだ。志ん駒師匠に連れられて入った大戸屋で、うどんとソースカツ丼のセットプラス麻婆丼を食べきることが出来ず、さん助師匠と文菊師匠に食べて頂いていた青年は、ヨイショの志ん駒と呼ばれた志ん朝のリズムを継いで、とにかく明るい芸風と、自衛隊時代の手旗信号を持ち味とした落語家に弟子入りし、その後姿を必死に追いかけて走り続けてきた。その一つの区切りとして、そして新たな始まりとして古今亭駒治師匠は今日を迎えたのだ。

 前を走る先輩達も一切速度を落とすことなく走り続けている。柳亭市馬師匠は踊るような気持ちの良いリズムで『山号寺号』、圓歌襲名が決まった歌之介師匠は『お父さんのハンディ」で爆笑を巻き起こして去っていく。歌之助師匠は出てくる時に前座に向かって「いいじゃないの」と横断幕を指さして登場していた。

 さぁ、大きな大きな真打たちと肩を並べ、これから駒治線を開業して走っていく真打はどんな落語を見せてくれるのだろうか。正楽師匠の後で、必死に紙屑を拾う柳亭市松さんがめくりを翻す。新しい文字で『古今亭駒治』と出る。

 出囃子の『鉄道唱歌』が流れ、出番前の楽屋からは大きな歓声と手拍子。会場もそれにつられて手拍子。万感の拍手で持って迎えられた古今亭駒治師匠に向けられた「待ってました!」の掛け声。会場に集まった全ての人々が駒治さんの真打を祝っている。私はもう既に泣いている(笑)

 

 「兄ちゃんよぉ、立派になったじゃねぇか」

 

 そんな志ん駒師匠の言葉さえ聞こえてきそうな会場で、駒治師匠は両手で拍手を制止してマクラの話をする。学校寄席の話をしてから、寄席で良く掛けている『作文』から『鉄道戦国絵巻』へと話に入る。

 やはりどこか飄々としている。志ん駒師匠の話とかお涙頂戴の話をするわけでもなく、ただ淡々と、あくまでも自らのリズムと姿勢を変えることなく、古今亭駒治師匠は自ら作り上げた話の世界を繰り広げ、そして爆笑を巻き起こしていく。底の見えない真打であることには間違いない。古今亭の風格を携えた駒治師匠の見つめる眼の先に、一体何が待っているというのだろうか。

 鉄道戦国絵巻の内容は他に詳細を任せるとして、終わった後、鳴りやまない拍手を受けながら幕が閉じた。真打昇進披露興行はここからスタートなのだ。その温かい空気と、一人の真打の誕生を支える客席の姿をしかと目に焼き付けて、私は会場を後にした。

 普段、乗り慣れた電車にさえ駒治師匠の視点が介入する。鉄道、電車という私の知らない世界に、大きな笑いと知恵を見出した古今亭駒治師匠。この駒治線、一体どんな風景を我々に見せてくれるのだろう。乗車した乗客に素敵な光景を見せてくれる駒治線、さぁ、すぐに乗車券を買って乗り込もう。出発進行の歌を口ずさみながら。

 

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