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いぶし銀の閃光~ 2018年10月6日 池袋演芸場 柳家小満ん 古今亭菊之丞~

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しんがりですから、30分はやらなくっちゃいけない。

 

皆様を品川の海へお連れ致しやしょう。 

 

ぴかぴかでしゅーしゅーのさんま!

 

全ては俺の意のままに

10月は寄席が凄い。鈴本演芸場柳家小三治師匠に始まり、池袋演芸場柳家小満ん師匠、浅草演芸ホールは古今亭寿輔師匠に、新宿末廣亭鈴々舎馬るこ師匠に真打昇進、と上席から怒涛の布陣である。かく言う私も鈴本演芸場小三治師匠の『野晒し』を聞き、本日池袋演芸場に行ってきた。

会場をざっと見回すと年配の方が多い印象である。ちらほらと女性もいるが、多くは男性。私と同じくらいの六十代の男性方たち。やはり通好みといったところであろうか。顔付けがとにかく渋い。

川柳川柳師匠はもちろんのこと、柳家さん生師匠、蝶花楼馬楽師匠、仲入り前は古今亭志ん輔師匠という、落語お初の方には少々とっつきにくい布陣である。仲入り後は隅田川馬石師匠、柳家小のぶ師匠と、ここも実に渋い流れである。こんなに渋い布陣を組んでトリを取るのが柳家小満ん師匠である。

何が渋いかと言えば、若手のフレッシュさが少なく、また新作派が少ないこと、そして世代的にマスメディアに取り上げられて隆盛を誇った落語家が少ないことである。桂三木助師匠、川柳川柳師匠、隅田川馬石師匠くらいは多少耳にした方もいると思われるが、なかなか蝶花楼馬楽師匠や柳家小のぶ師匠を聞いたことがある人は少ない筈である。東西800もの落語家がいる中でも、これだけの面子が番組に並ぶこと自体が、長らく落語を愛してきた通好みとされる所以である。

そんな通に向けた演者の演目も、普段寄席で若手が掛ける落語とは一味も二味も違って、落語本来の『噺』という部分に重きが置かれているように私は思う。下手な脚色をせずに、長年培われた語り口で発される言葉。ともすれば冗長と思われがちに、地味に地味に話が進んでいく。それでも後を引く笑いというか、濃厚というよりもあっさり

といった感じのテイストで進んでいく。

特に昼の部は柳家さん生師匠からの流れが良かった。古き良き伝統の寄席というような塩梅で仲入りまで進んだ。

問題は古今亭志ん輔師匠である。この人は未だに良く分からない。というか、どうやら私には完全にフィットしていないのだということだけは分かった。どうにもとっつきにくく、話を聞いていても惹きつけられない。そういう落語家がいるということを発見しただけでも良しとする落語家さんである。

仲入りが終わって馬石師匠。なんだかぴょんぴょんしているという印象で、それが馬石師匠の持ち味なのかも知れないと思う。微妙にふんわりとした不思議な間で噺が進んでいく。柳家小のぶ師匠で霧のような『気の長短』を聞き、橘家橘之助師匠で『たぬき』の後で、いよいよ柳家小満ん師匠である。

出てくるなり低いハスキーボイス、そして『皆様を品川の海にお連れいたしましょう』という、痺れるようなストーリーテラーっぷりを発揮した後での『品川心中』。

老いた品川の女郎、お染と貸本屋の金蔵が心中を企てる話である。シリアスな展開かと思いきや、くすっと笑えて後半に向けて盛り上がっていく話。いかにも『噺』といった物語を淡々と語っていく。

この話の最中に実にマナーの悪い客がいたのだが、無粋だからやめておこう。

ゆったりとしたリズムと独特なハスキートーン。聞き漏らすまいと聞き耳を立てていると飛び込んでくる笑えるネタの数々、シリアスでありながらも金蔵の間抜けさと、お染の心変わりが面白い。小満ん師匠の博識は鳴りを潜めて、それでも小満ん師匠の流麗な語り口で心地良く物語を堪能した。

今まで、その良さが分からなかった落語家の良さが分かるというのは、結構気持ちの良いものである。最初は何を言っているのかさっぱりわからなかった柳家小満ん師匠だったが、今や大ファンである。往々にして落語にはそういうところがある。今、好きな人も明日は嫌いになり、今嫌いな人も、明日は好きになる。そういうことが起きうるのが落語なのだ。そして好きになったり嫌いになったりする自分自身を自覚することで、今自分が何を求めているのかが分かるのだ。そういう自分の心の変化を感じることが出来るのも、落語の醍醐味である。

 

さて、昼の部が終わってお次は夜の部、菊之丞師匠トリである。

前半は菊太楼師匠の『祇園絵』が実に気持ちが良く、柳家甚語楼師匠の『浮世根問』も快活で笑えるし、久しぶりに聴いた小ゑん師匠は『フィッ!』、仲入り前の雲助師匠は『家見舞』。この家見舞いが良かったぁ。後半に笑いを持ってくるパターンの落語が実に気持ちが良く、この後を引く面白さが何とも言えない。決して笑い疲れることなく、寄席の流れの中で最高のネタを披露していく落語家さん達のセンスに脱帽である。

仲入り後も凄かった。怒涛の勢いで爆笑をかっさらっていく白鳥師匠『実録 鶴の恩返し』の後、スパッと江戸の風に切り替える春風亭一朝師匠『目黒のさんま』。「あいつの後に出るの嫌なんだよぉ」と白鳥さんの出番の後で愚痴をこぼしつつも、そこはベテランの風格。とにかくお殿様が可愛い『目黒のさんま』でスパッと空気を江戸に変えたのはお見事だった。切り替えられる一朝師匠の力量の凄さに、古典を長く続けてきた落語家の強烈なパワーを見た。ともすれば白鳥師匠のような爆笑新作系の流れにお客さんの思考が流れるかというところで、きちっとその流れを消さずに、可愛らしい殿様と若干の時事ネタとを挟んで見事に古典に変換される一朝師匠。こういう空気の美しいリレーが見れるのが寄席である。桂しん乃さんの後の桂伸べえさんがバチっと空気を切り替えたような、派手さは無いが鮮やかに空気感を演出する一朝師匠。凄すぎます。

紙切りの正楽師匠もお客さんの難題に見事に応えられていた。やはりトリ前に紙切りや粋曲が挟まれることで、一度流れを緩和するというのが寄席のシステムだと思う。実に良いリレーの後で、ご登場は古今亭菊之丞師匠である。

その前に、夜の部の前座さん、古今亭まめ菊さんについて触れておこう。2017年の四月に菊之丞師匠に入門され、今年の三月に楽屋入り。気配りの方だなぁと思うのは、私が文菊師匠にサインを求めた際に、さっと筆ペンをどこからか持ってきてくれた。落語はまだまだ突出すべきものは無いが、心配りと愛らしさで立派に前座を務めていらっしゃる。菊之丞師匠のお弟子というだけあって若干の気品をお持ちである。個人的にはもしも落語家になるなら文菊師匠に弟子入りしたいという私にとって、まめ菊さんは実に羨ましい存在である。厳しい落語の世界でどんな風にはばたいて行くのか楽しみである。

さて、菊之丞師匠は『死神』。文菊師匠で聞き慣れた死神と流れや随所のくすぐりは殆ど一緒。それでもしっとり感と笑いが多め。死神役の彦六師匠っぽさは文菊師匠の方が似ていると思う。オチの後の演出は素敵。文菊師匠とはまた違う幕の閉じ方で、それほど癖も無いあっさり系の『死神』だった。呪文はアジャラモクレンキューライス・ヨーコソウタマル・テケレッツノパーだった。何だろう、小ゑん師匠の『フィッ』の後は『死神』をやる率が高くなるのだろうか。謎である。

 

総括すると実に満足できる寄席だった。明日は講談・落語・浪曲の三種揃えて一日を終える。ということで、レポートをお楽しみに!

 

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