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馬改造の古典と肝心要の勧之助~2018年10月8日 新宿末廣亭 鈴々舎馬るこ 柳家勧之助~

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こんちわぁ ご隠居さんいますかぁ

 

小便、飲んだことある?

 

チーズバーガーを鷲掴みにした鷹が

 

こんなグルグル回るうち、いらねぇや

 

私の毛の伸びしろは無いんですがねぇ

 

ニワトリを生んだってんでね

曇天の空の中、新宿末廣亭は行列を成している。空模様を気にしながら列に並んでいると、大きな看板で『鈴々舎馬るこ』の文字。

去年、馬るこ師匠は真打昇進の際に末廣亭で『宮戸川』でトリを取っていた。魔改造ならぬ馬改造された落語で、BL(ボーイズラブ)要素がふんだんに含まれており、私の前の席にいたご婦人集団はバカ受けだったのが印象に残っている。まさか『宮戸川』でトリを取るとは思っていなかった。大体の新真打は大ネタでトリを飾るのだが、15分ネタでトリを飾るのは柳家小三治師匠くらいだと思っていて驚いた記憶がある。

それから浅草で『平林』と『金明竹』を聞いた。これもとてつもない馬改造が施されており、現代的なアレンジとひたすら汗を掻きまくるスタイル。また、実況関係の仕事で培ったと思われる語り口。そして、登場人物の中に鹿賀丈史を彷彿とさせる紳士風の声のキャラが出てきたりと、とにかく古典をアレンジする落語家さんというイメージである。言ってしまえば、コテコテの古典を求める年配層にはとっつきずらく、あまり落語に固定観念の無い若い人にはウケるというような芸風だと私は思っている。

席に着いて辺りを見回す。年配層が多い。休日で昼の部ともなれば、久しぶりに寄席に行って若い頃を思い出そうか、というような年配の方々が多いのだろう。最前列には常連の方がいて、桟敷席の前の方にも常連の方々がいた。比較的男性の割合が多いというような印象である。ざっと見回すと二階席が開くほどではないが、60パーセントくらいは入っていただろうか。

開口一番は春風亭百栄師匠門下で春風亭だいなもさん。百栄師匠のお弟子さんは一人だけ破門になった人を知っている。その人も随分個性的だったが、今回のだいなもさんも凄かった。とにかく声量がデカイ。第一声の「こんちわぁ!」が大きく、それに応えるご隠居の声もデカイ。この人たちは漁師なのかと思うほどに地声がデカイ。私の勝手な分類だが、やまびこさんや小ごとさんのようなモンスター系前座である。

新作をやる師匠のお弟子ということもあって、演目の『浮世根問』もオチに工夫がなされている。もしかすると二つ目になって新作にも挑戦するのだろうか、と期待が高まる。声がでかくて威勢がいいのは嫌いではない。最近二つ目に昇進した三遊亭吉馬さんなんかも、声がでかくて気風が良い。どんな個性を発揮してくれるのか楽しみな前座さんである。

さて、お馴染み、全部語っていると膨大なレポートになるので、印象的だった部分だけを書きます。

全体的に昼の部はお客様が温かい。子供の姿もちらほら。やはり前列の常連に対して後列の初心者といった布陣で、ドカドカと笑いが後方で起こる。唯一、滑ってたなぁ。と思う落語家さんは、、、内緒である。

前半のハイライトは林家しん平師匠だろう。もう詐欺師みたいな語り口(褒めています)で、客席を爆笑の渦に巻き込む。下品な話でありながらもちょっとタメになるお話をされて颯爽と楽屋へ戻っていく。面構えも良く、声も良い。落語家じゃなかったら詐欺師という風貌。その後の今松師匠で一気に渋くなり、ロケット団の爆笑の後で渋い顔ぶれが続く。権太楼師匠の『町内の若い衆』も、女将さんが絶妙にブスそうで、何度聞いても面白い。私の中の権太楼さんの女将イメージはちょっと太った器用の悪い女性というようなイメージである。仲入りに入った。

仲入り中、客席では長崎から来たという人と新潟から来たという人の会話があって、それを聴いていた隣の客が「私も長崎です」という偶然があった。凄いな、そんな遠くから来ているんだと感心して聴いていた。寄席は日本全国津々浦々、ほうぼうからやってくる客がいるのだなぁと思った。昔の新宿のお話を聞けて満足。

仲入り後は柳亭こみち師匠。いいですねぇ。登場人物が全員可愛らしい子供のように想像できる可愛らしさ。柳亭燕路師匠直系の可愛らしさを感じる。間が燕路師匠にそっくり、そこに独自のくすぐりを入れていくこみち師匠。冒頭の似ている芸能人でがっちり客席を掴んで、演目は『附子』。珍しいお話である。

お待ちかねの文菊師匠は名人芸の『気の長短』。どうやら原因は鼻では無く喉だったようで、昨日と同様、声に少しの濁りがある。一瞬、戻ったのかなと思ったが、声を聞いて喉が悪いのだと思った。文菊師匠の体調確認のために今日来た部分もあったので、少し心配である。

寄席の15分間の文菊師匠はとにかく凄い。出てきた瞬間に客席の空気がピリッと変わったのが分かる。そして、見事にその空気を和ませる文菊師匠の『気取ったお坊さんマクラ』からの『気の長短』。表情とたっぷりの間。今までは一言一句違わなかった『気の長短』がさらに進化していた。時間の都合なのか、序盤の天気の話を省き、長さんと短七さんの掛け合いが絶妙。思わず唸りたくなるほどに痺れる名人芸。煙草を吸う仕草に私の客席のお客が「死んだじいさんそっくり・・・」と呟いていたのが印象的。特に素晴らしいのは二人の関係性を感じさせる一つ一つの言葉、短七の「俺とお前は昔っからの馴染みじゃねぇか」とか、「怒らねぇよ、お前が言うことだったら、俺は怒らねぇ」という部分に、思わずうるっとしてしまうのだ。何でしょうね、そういう男気っていうか、二人の固い関係って、素敵じゃござんせんか。文菊師匠の落語は総じて、人と人との関係性が言葉とトーンで胸に迫ってくる。『甲府ぃ』なんか特に良いんですよ。もう冒頭から泣きそうになっちゃう。

極上の15分の後で老練の柳家小せん師匠。品格のある落語家が続く。演目は『目薬』。馬鹿馬鹿しいお話なのだが、小せん師匠が演じると少し色っぽい。文蔵師匠の『目薬』を聞いたことがあるが、こちらはスケベという感じ。オチで笑いを誘って楽屋に下がる。

太神楽の後で、鈴々舎馬るこ師匠。男梅に海苔を乗せたような赤い顔。羽織を脱ぐと青に魚?のロゴのある着物。CDの宣伝をした後で電化小噺からの士農工商の話。おやっ、妾馬!?と思いきや目黒のワードが出てきて驚嘆。なんと!『目黒の秋刀魚』でトリを取るのか!とびっくり。普通であれば15分間ネタにチョイスされる『目黒の秋刀魚』をトリネタに持ってきたということは、随所にアレンジがあるなと思っていると、予想通り子猫の話とチーズバーガーの話を挟み込んでくる。恐らく私の想像では春風亭一朝師匠の型を受け継ぎつつ、魔改造ならぬ馬改造をしたんだろうな、という印象。殿様の可愛らしくも横暴な感じ、それに振り回される家来。秋刀魚を焼く町人の描写。うおお、アレンジが絶妙だなぁ。と思って聞いていると、オチはあっさり古典通り。随所に挟まれるアレンジが爆笑を誘いつつも、しっかりと古典の土台に乗って展開された『目黒の秋刀魚』、私的には『馬改造・目黒の秋刀魚』としたいところである。

私の隣にいたバリバリのご老人は嬉しそうにニヤニヤとしていたし、爆笑が多かった。もっと古典をぶっ壊して新作にしてしまうのは柳家喬太郎さんだったりもする。馬るこさんの落語の登場人物は個性が際立っているし、紳士声の鹿賀丈史風のキャラは少し癖になりそうな魅力を持っている。表情も豊かでエンターテイナー感がある落語家さんだなぁと思った。馬風師匠もそういうところあるもんなぁ。と妙に納得。

 

昼の部だけでがっつり語りました。続いては夜の部。

 

前半のハイライトは柳家花緑師匠。花緑師匠が大好きなファンの方が前の席を確保しようとしているお姿が見える。しかし、どうやら席を確保できず少し後ろで楽しむことにしたご様子。前列はガッチリ常連と恐らく勧之助師匠ファンが固めていた様子。

昼の部と打って変わって、女性率が増す。つくづく思うが、面構えが良い落語家には器用の素敵なご婦人方が多い。羨ましい限り。特に舞台右の桟敷席は殆ど女性。前列も女性。後列も女性。男性の行き場が少なくありませんか。それだけ柳家花緑一門には品と色気があると思う。弟子の面を見て頂ければわかる。みんな色気があって男前なのだ。昇太一門の初々しい若手俳優イケメン感とは違って、花緑一門は歌舞伎役者のようなイケメン感と言えばお分かりいただけるだろうか。

そんな歌舞伎役者のイケメンを束ねる花緑師匠、演目は『親子酒』。いいですねぇ。特に深い意味は無いと思うけど、約束をして親と子、それぞれ約束を破って酒に酔う。これ、酒を芸に変えてもいいな、と思った。花緑師匠と勧之助師匠。共に親子の関係を結んで芸の道に進み、芸の世界に身を浸す。たとえ共倒れになったって、笑いあっていようじゃねぇか。というような意味があったりするのでは無いか。そんなことを思って花緑師匠の『親子酒』を聞いた。目の焦点の合わない感じ、呂律の回らない感じ。ああ、やっぱり師匠はこうやって弟子に自らの姿を示すことで、弟子を励ましているのだなぁと思った。自らの芸で持って弟子に語る。素晴らしい花緑師匠の魂のようなものを見た一席だった。

そこから特に期待せずに聞いていたのだが、かなりレアなことに鈴々舎馬風師匠が『紙入れ』をやっていた。スキャンダル関係をやらせたら独自の味を出してくる馬風師匠。お決まりの時事ネタをいじったり、真打について色々語ったり、漫談で過ぎるかと思っていたところで、まさかまさかの古典演目だったので、かなり驚いた。心の中の第一声は「古典、やれるんだぁ・・・」だった。大変に失礼な話であるが、それくらい寄席で馬風師匠が古典をやるのは珍しいのだ。

そんな衝撃の後で仲入り。仲入り後は新真打の口上。幕が上がって舞台は左から順に、

 

三遊亭吉窓 鈴々舎馬風 柳家勧之助 柳家花緑 柳亭市馬

 

吉窓師匠は「私の毛の伸びしろは無いけど、彼には伸びしろがたくさん」、馬風師匠は「この色白ですから、乙な年増に騙されないように」、市馬師匠は「ともにのぼらん~」のお決まりで、花緑師匠は「あまり記憶に残ってないんですけどね」と笑いを誘う。どこか師弟の関係性が見えてきて涙腺が緩む。真打口上の雰囲気はいつ味わっても素敵なものだ。何せ14~15年も修行するのだから。その感慨は深い。

はん治師匠はお決まり『妻の旅行』。ネタ帖にどんだけ『妻の旅行』って書かれるんだろう、と想像する。何十年後かに昔のネタ帖を見た前座が「この柳家はん治って人、どんな人か知らないけど、妻の旅行ってネタばっかりやってるね」と言われないか心配である。五街道雲助師匠はお祝いの席ではお馴染み『ざるや』。

太神楽の後で、お待ちかねの柳家勧之助師匠。パッと見は尾上松也を彷彿とさせる歌舞伎役者顔。色白の甘いマスクにキリリとした眉と柔らかな目。笑った時の表情がご婦人方には堪らないのかも、と想像する。全体的に紫っぽいオーラが出ているという個人的な印象、色男だねぇ。声も甘い感じである。

本日二回目の士農工商の話、お!今度こそ妾馬か!と思って聞くと、予想通り演目は『妾馬』。きっちりトリで大ネタを持ってくるところにまず感謝。

私としては色気の達人、古今亭文菊師匠を見てしまっているので、どうしても柳家勧之助師匠に目立った個性を感じることは出来なかった。額から汗を流して語り、私には少し駆け足なテンポに感じられた。登場人物の描写も薄い感じで、新真打成り立てなんだぁという印象から外れない。

言い忘れていたが、舞台の左には愛媛大学落語研究会OB一同からの羽織と『羽織』と書かれた色紙。右には日本酒で『魔王』ともう一本瓶で置いてあったが名を忘れた。

肝心のお鶴と再会のシーンも、私としてはあまり涙を誘う感じでは無かった。いきなり涙を堪える入船亭扇辰師匠バージョンや流麗ながらも涙を誘う立川左談次師匠バージョンが好きなので、これは好みの問題だと思って割り切る。

 

総括すると、昼の部は落語の幅の広さと可能性を見た番組のように思え、夜の部は新真打としてのスタートを切った番組という印象だった。私としてはどんどん素晴らしくなっていく文菊師匠、馬改造で爆笑を巻き起こす馬るこ師匠、馬風師匠の『紙入れ』が非常に印象に残った。お尻が痛いけど、素敵な痛みだと思える一日だった。

いよいよTENのメンバーも寄席に顔を連ねるようになってきた。次の波は成金メンバーで起こってくるだろう。想像すると楽しみで仕方がない。

末廣亭を去りながら、夜の街の明かりの中に溶け込むようにして、私は帰路についた。

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