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美しき心が宿る名調子~2018年10月7日 浅草木馬亭 月例 玉川太福独演会第12回~

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今日はお子さんも多いので、侠客ものをやります。

 

あ、あれか、金井君、今日は「ちょっと!」の日か

 

武士なら碌より名を残せ

 

晴れである。とにかく晴れである。一点の曇りなく晴れである。空が暗くなろうと、街の明かりは燦燦と輝き、ドン・キホーテのペンギンは照らされている。ここは浅草、下町人情溢れる街よ。行き交う人の流れの中で、漂う匂いはおでんぐつぐつ。いきなりプーンと匂ったかと思えばボロ布纏った髭モジャ親父、やたらイチャイチャ男女のカップル、喚きたてる中国人、ここは浅草、下町人情溢れる街よ。

人ごみを掻き分け参らん木馬亭、唸る浪曲、響く三味線楽しみに、2000円を払って入場。客層判断。やはり前列は常連の布陣。と思いきや家族連れ。右側に常連の一帯が固まっており、何やらテレビカメラまである。意外や意外、客層が若い!でも文菊師匠のような美人な方々は少なく、私も含めて唸りに飢えた野犬のようなお客様方(失礼!)が大勢着座。おおっ、やっと来たぜラストの浪曲

講談、落語と来て、本日のフィナーレは浪曲。日本演芸フルコース。ざっと6000円。交通費込みで内緒。浪曲界の若きスター、玉川太福さんの独演会だ。

太福さんには痺れっぱなしである。特に『笹川の花会』やら『紺屋高尾』やら、『石松三十石』やら、侠客ものでの粋な男気全開が個人的には大好きである。爆笑系の『地べたの二人シリーズ』ももちろん名刺代わりに良いが、やはり神髄は次郎長伝や天保水滸伝のような連続物だと私は思っている。

愛する人が敵に傷つけられ、その復讐のために仇討ちをするという伝統のパターンの中に、いくつもの男気、蒸せるような熱い魂がある。最高のフィナーレを飾れるぞ、と期待。

さて、今回は新潟テレビの取材ということで、私の後姿ももしかすると、テレビに映るかも知れない。つるっぱげの60代の後頭部をご覧になりたい方は、是非、新潟テレビをご覧くださいませ。

そんなテレビを知ってか知らずか、前の方は若いお嬢様方。歳の頃ならまだ七~八歳といったところか。やたらとテレビカメラを気にして振り向くのが可愛らしい。飽きずに浪曲が聞けるのか心配になる。案の定、母の肩に首を置くように倒れ込んでいるのが見えた。やはり演芸鑑賞にはある程度の集中力、そして語彙力が求められると思う。理解できない宇宙語を二時間も聞くのは苦痛である。

幕が開くと「待ってました!」の声。まだ誰も出ていないのに(笑)と思いつつも、舞台セットは浪曲スタイルで、テーブル掛けには紅葉の絵に鬼怒川温泉の文字。鮮やかな秋の佇まい。左から出てきた玉川太福さん。度の強い眼鏡、虎造ばり。

T京かわら版に載ること、新潟テレビの取材があることが伝えられ、若い子供たちの為に次郎長伝を一席、ワンピースと一緒という語りを入れてから『石松と見受山鎌太郎』。準備運動のような節、「次郎長怖い人」に始まり、石松の「馬鹿はしななきゃ治らない」まで、唸りが良い。石松と鎌太郎の掛け合いもテンポが良くて粋。袱紗を取ってからの節も絶妙。ああ~粋だなぁ~というところでお時間。

二席目は『地べたの二人 木馬亭』。お馴染みの金井君と齋藤さんの掛け合いから、世にも奇妙な物語風の展開。まるで金井君と齋藤さんが木馬亭にいるような気分になる。金井君と齋藤さんは間で笑わせられる。少しドラマチック。

一旦、仲入りを挟んで、三席目。これが実に素晴らしかった。

三席目は『西村権四郎』。舞台上は講談スタイル。客席から「えっ、講談やるの?嘘ぉ」というような声が聞こえる。三席目、これがとにかく痺れた。前の席のお嬢ちゃんはすっかり疲れ果てていた様子だったが、浪曲好きはここぞとばかりに前のめり。じっと話に耳を澄ませて聞き入っている。

別題『松坂城の月』とも言うらしく、お初の話。蒲生氏郷と西村権四郎の掛け合いが実に男気にあふれていて、特に権四郎が氏郷を相撲で張り飛ばして床柱にぶつけた後、逐電した後に改まった氏郷の節が絶品。心の中で「うおお、来た、来た、来た、来たぁ」と叫ぶ。何でしょうね、ヒラリとマントを靡かせたスーパーマンが颯爽と飛び立つ様を見るような感情、あの「ああ、これから怪獣を倒してくれるんだ!」みたいな期待感。あの瞬間は滅多に訪れなくて、三原佐知子先生の『三味線やくざ』でも感じた感情。何かが颯爽と舞い降りて飛び去っていく感覚なんですよ、わかりますかね(笑)

節の流麗さ、紡がれる言葉の美しさ、太福さんの音色、みね子師匠の鮮やかな三味線。三位一体どころか、会場の空気が渾然一体となって上空に飛んでいく感じ。振り落とされないようにぐっと歯を噛み締めていると、あらゆる音が体に染み込んできて、気持ちよくなってくる。良い節だ、素晴らしい。ああ、もっと続け。と願いながらも物語は進む。そして、再び出会った両名が相撲を取り、再び権四郎が氏郷を投げ飛ばす場面、それから紡がれる言葉に思わず目頭が熱くなる。良き主と良き家臣の、その美しき魂の関係性に胸が震え、胸が熱くなり、目頭が緩み目から涙が零れる。温かいなぁ、いいなぁ。と思っているところに押し寄せてくる節、節、節。もう快感以外の何物でもない。素晴らしい調べを聞きながら放心状態で幕が閉じる。拍手喝采。太福さんもやりきった!というように見えた。

美しい心を持つ二人の関係性が素晴らしい『西村権四郎』。侠客物とはまた違った、人情の輝きに、しばらく席を立つことが出来ず、帰り道も腑抜けのようになって帰った。

 

講談、落語、そして浪曲で幕を閉じた一日。今後の日本演芸を担う者達の未来を見たように思えた。こんな幸福に出会えたことに感謝である。

今回ばかりは少し一所懸命に場所を移動しすぎたかも知れないが、その価値があると思えるほどに今日は良かった。松之丞さんはたっぷりだったし、文菊師匠は安定だったし、太福さんはまた一段素晴らしくなっていた。こんな日は滅多にやって来ないだろうと思う。

いい演芸に浸った後は、言葉がどんどん生まれてくるものだ。なんて幸福なのだろう。そして、こんな幸福を与えてくれる演芸が日本にはあるのだ。そのすばらしさをこれからも発信し続けて行く。

さて、明日は、というか既に今日だが、どんな素晴らしい演芸に出会えるやら。楽しみで仕方がない。

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